ギブスの自由エネルギーとは?|等温等圧過程で得られる仕事の最大値

スポンサーリンク
ホーム » 熱力学 » ギブスの自由エネルギーとは?|等温等圧過程で得られる仕事の最大値

ヘルムホルツの自由エネルギーと似た物理量として、ギブスの自由エネルギーというものがあります。

ギブスの自由エネルギー

$H$ を系の持つエンタルピー、$T$ を絶対温度、$S$ をエントロピーとして、ギブスの自由エネルギー $G$ を次のように定義する。

\begin{eqnarray}
G=U+pV-TS =H-TS\\
\,
\end{eqnarray}

ギブスの自由エネルギーは等温等圧過程で得られる仕事の最大値を教えてくれるものであり、燃料電池から得られる電気など、非機械的な仕事に対しても適用できることがポイントです。

また、等温等圧過程において系が熱力学的平衡に向かう方向が、ギブスの自由エネルギーが減少する方向であることが導けます。

スポンサーリンク

ギブスの自由エネルギーとは?

ギブスの自由エネルギーは次のように定義される物理量のことを言います。

ギブスの自由エネルギー

$H$ を系の持つエンタルピー、$T$ を絶対温度、$S$ をエントロピーとして、ギブスの自由エネルギー $G$ を次のように定義する。

\begin{eqnarray}
G=U+pV-TS =H-TS\\
\,
\end{eqnarray}

ギブスの自由エネルギーと似た物理量としてヘルムホルツの自由エネルギーがあります。詳しくはこちらで解説しています。

ギブスの自由エネルギーは、化学反応のような等温等圧過程にて取り出せる最大の仕事の最大値を教えてくれる物理量です。

今までは仕事を取り出す方法として、$pV$ の変化による機械的な仕事のみに注目してきましたが、燃料電池や熱電素子による発電など非機械的な仕事も世の中には存在します。

このような非機械的仕事についても、ギブスの自由エネルギーを用いることで熱力学の理論で取り扱えるようになります。

ここからはギブスの自由エネルギーの導出過程について解説していきます。

ギブスの自由エネルギーが登場するのは等温等圧過程です。したがって、次のような断熱された実験室と、ビーカーから成る系について考えます。それぞれの圧力・体積・温度を $(p_e,V_e,T_e),(p,V,T)$ とします。

なお、実験室は十分大きいため、$p_e,V_e,T_e$ は一定であるとします。

ギブスの自由エネルギーの模式図

今、ビーカー内での化学反応を発熱反応と仮定し $Q$ の熱量が発生したとします。すると、実験室のエントロピー変化 $\D S_e$ を次のように求められます。($T_e$ は一定温度と見なせるため)

\begin{eqnarray}
\D S_e=-\ff{Q}{T_e}
\end{eqnarray}

※ 上式にて熱量を $-Q$ としているのは、流入する熱を負で表すと約束しているためです。(この約束は、クラウジウスの不等式に由来します)

さて、ビーカーのエントロピー変化を $\D S$ とします。すると、エントロピー増大則より、

\begin{eqnarray}
0\leq \D S_e+\D S \EE
\therefore\, 0\leq-\ff{Q}{T_e}+\D S
\end{eqnarray}

の不等式が成立します。

$Q$ は熱力学第一法則より $Q=\D U+W$ の関係にあるため、

\begin{eqnarray}
0\leq -\D U-W+\D S\,T_e
\end{eqnarray}

と整理できます。機械的仕事を $p\D V$、非機械的仕事を $L$ とおくと、$W=p\D V+L$ とできます。そして、等温過程でもあるため、$T_e=T$ となります。ゆえに、

\begin{eqnarray}
0\leq -\D U-p\D V-L+\D S\,T
\end{eqnarray}

これより、

\begin{eqnarray}
L\leq-\D( U+p V-TS) \tag{1}
\end{eqnarray}

という関係が導けます。(等温等圧過程なので、$\D p=0,\D T=0$)

式$(1)$の右辺は エンタルピーの定義 $H=U+pV$ を用いて $H-TS$ とできます。

以上より、ギブスの自由エネルギーを導くことができました。

スポンサーリンク

ギブスの自由エネルギーと等温等積過程の平衡条件

式 $(1)$ をギブスの自由エネルギーを用いて書き直すと、

\begin{eqnarray}
L\leq-\D G \tag{2}
\end{eqnarray}

となります。これより、等温等圧過程にて取り出せる仕事の最大値は、ギブスの自由エネルギーの減少量と一致することが分かります。

この結果を利用して、等温等圧過程の熱力学的平衡の方向を知ることができます。

今は等温等圧過程での熱力学的平衡に向かう方向を知りたいため、$L=0$ として良く、これより式$(2)$を、

\begin{eqnarray}
\D G\leq 0
\end{eqnarray}

とできます。

これより、等温等積過程にて熱力学的平衡状態に向かう方向は、ギブスの自由エネルギーが減少する方向であると言えます。

等温等圧過程の変化の方向とギブスの自由エネルギーとの関係

孤立系の平衡条件と同様の議論より、熱平衡状態においてはギブスの自由エネルギーが最小になることが言えます。

等温等圧の環境での平衡条件

等温等圧の環境下の熱力学的平衡状態では、ギブスの自由エネルギーが最小となる

スポンサーリンク

熱力学関数の導入

ヘルムホルツの自由エネルギーギブスの自由エネルギーの形は非常に似ています。

これは、背景に共通した数学的構造が隠れているからと考えられます。この直感は熱力学関数によって裏付けられます。ここでは、ギブスの自由エネルギーの熱力学関数の導出について解説します。

まず、準静的微小変化に対する熱力学第一法則を改めて眺めてみます。

\begin{eqnarray}
\diff U=\diff Q-p\diff V
\end{eqnarray}

これにエントロピーの定義を適用すると、

\begin{eqnarray}
\diff U=T\diff S-p\diff V \tag{3}
\end{eqnarray}

となって、全微分の形として表されていることに気が付きます。明示的に表すと次のようにできます。

\begin{eqnarray}
\diff U=\ff{\del U}{\del S}\diff S+\ff{\del U}{\del V}\diff V \tag{4}
\end{eqnarray}

これより $U$ が $S,T$ の二変数関数であることが分かります。このように、一つの状態量を二つの状態変数の形で表現したものを、熱力学関数と呼びます。

熱力学関数

熱力学関数:一つの状態量を二つの状態変数の形で表現したもの

さらに、式$(3),(4)$ の係数を比較することで、

$$
\left\{
\begin{split}
T&=\ff{\del U}{\del S} \\[8pt]
p&=-\ff{\del U}{\del V}
\end{split}
\right.
$$

が得られます。

これと同様の操作をして、ギブスの自由エネルギーの熱力学関数を導けます。

まず、$G$ についての全微分は、

\begin{split}
\diff G=\diff U+\diff p\,V+p\diff V-S\diff T-\diff S\,T
\end{split}

で、ここに $\diff U=T\diff S-p\diff V$ を適用すると、

\begin{split}
\diff G=V\diff p-S\diff T
\end{split}

となって、$G$ が $p,T$ についての二変数関数であることが分かります。($p,T$ は示強変数のため、$G$ が示強変数であることも分かります)

$G$ が熱力学関数であることより、

\begin{eqnarray}
\diff G=\ff{\del G}{\del p}\diff p+\ff{\del G}{\del T}\diff T
\end{eqnarray}

ともでき、これより

$$
\left\{
\begin{split}
V&=\ff{\del G}{\del p} \\[8pt]
S&=-\ff{\del G}{\del T}
\end{split}
\right.
$$

の対応関係が導けます。さて、上式をそれぞれ $p$ と $T$ で偏微分すると、

\begin{split}
\ff{\del V}{\del T}&=\ff{\del^2 G}{\del T\del p} \\[8pt]
\ff{\del S}{\del p}&=-\ff{\del^2 G}{\del p\del T}
\end{split}

になります。$G$ は連続関数であるため $\DL{\ff{\del^2 G}{\del T\del p}=\ff{\del^2 G}{\del p\del T}}$ と言えます。これより、

\begin{split}
\ff{\del S}{\del p}&=-\ff{\del V}{\del T}
\end{split}

という関係式も導けます。これは、マクスウェルの関係式と呼ばれる一連の式の一つです。

タイトルとURLをコピーしました