伝熱工学の手始めとして熱伝導・熱伝達・輻射という3つの伝熱形態について解説します。伝熱工学ではこれらの伝熱形態を組み合わせて、熱の移動について考えていきます。
結論から述べると、これらの伝熱形態は次のように表現されます。
今回はこれら3つの伝熱形態について解説します。
熱伝導・熱伝達・輻射とは?
熱の伝わり方には熱伝導・熱伝達・輻射の3種類があります。これらの定量的な考察は今後深めていきますが、今回は、これらの伝熱形態の基本的な事項について説明します。
熱伝導とは?
はじめに、最も基本的な熱の伝わり方が熱伝導です。熱伝導とは次のような伝熱形態のことです。
個体または静止流体中にて適用されるのが熱伝導の特徴です。伝導とも表現されますが、電気伝導と区別するため、熱伝導と表されます。
さて、熱伝導による”熱の伝わりやすさ”は、熱伝導率として表されます。通常、$k$ が熱伝導率を表す文字として当てられます。なお、熱伝導率の単位は $\RM{W/(m K)}$ となります。
熱伝導率は物体固有の値であり、金属は熱伝導率が大きく、セラミックスなどは熱伝導率が小さい傾向にあります。
これらの傾向から分かるように、熱伝導率と電気伝導率の間には相関があり、熱の良導体は電気の良導体でもあることが知られています。この関係はウィーデマン・フランツの法則としてまとめられています。
熱伝導の様子は、フーリエの法則により記述されます。熱伝導とフーリエの法則の関係については、別の機会に詳しい解説を行います。
熱伝達とは?
熱伝導に次ぐ2つ目の伝熱形式に熱伝達があります。熱伝達は次のように表現される伝熱形態のことです。
熱伝達は、対流熱伝達とも言われます。これから分かるように、熱伝達では対流が熱を伝える主役となります。なお、熱伝達率の単位は $\RM{W/(m^2 K)}$ です。
熱伝達の身近な例として、鍋で肉や野菜を煮る様子が挙げられます。火にかけられた、鍋の中では鍋底で加熱された水が対流して熱を運び、低温の具材に熱を与える役割を果たします。
具材は対流する水を介して熱を受け取るので、この伝熱形態は熱伝達となります。
さて、熱伝達による”熱の伝わりやすさ”は、熱伝達率として表されます。通常、$h$ が熱伝達率を表す文字として当てられます。
熱伝達率の特徴は、流速により大きく変化することです。例えば、扇風機の前ではクーラーを点けていなくても涼しく感じるように、流速が速くなるほど流体は熱を持ち去る能力、すなわち熱伝達率が大きくなります。
熱伝達の様子は、ニュートンの冷却法則により記述されます。熱伝達とニュートンの冷却法則の関係については、別の機会に詳しい解説を行います。
輻射とは?
熱伝達率に次ぐ、3つ目の伝熱形式が輻射です。輻射は次のように表現される伝熱形式です。
輻射は熱輻射とも呼ばれます。身近な熱輻射の例は、電子レンジによる加熱です。電子レンジでは、電磁波により食品を加熱しています。
輻射の様子は、ステファン=ボルツマンの法則により記述されます。輻射とステファン=ボルツマンの法則の関係については、別の機会に詳しい解説を行います。
伝熱工学とは?
伝熱工学は機械工学の一分野であり、熱の移動について議論する学問です。
工学上のほぼ全ての過程には、伝熱現象が関わっていると言え、そのため、工学全般において伝熱工学は重要な基礎となります。
伝熱工学が関わる分野は、多岐に渡り、機械工学を始め、航空宇宙工学、電子工学、化学工学まで広い分野に関わりを持ちます。
さて、物理学の側面に絞って伝熱工学の特徴を述べるならば、ニュートンの運動法則が顔を出さない点が挙げられます。
今まで見て来た、天体力学、材料力学、流体力学では、支配方程式の導出にニュートンの運動法則を使いましたが、伝熱工学の基礎方程式にニュートンの運動法則が直接顔を出すことはありません。
初学者にとって、この点が戸惑うポイントとなりますが、統計力学まで遡ればニュートン力学との接点が見えてきます。
伝熱工学と熱力学の関わり
『伝熱』は異なる温度・熱平衡状態にある 2 つの物体が接しているときに、物体間で熱エネルギーが移動することを指します。
物理学では、熱エネルギーの移動を扱う分野として、伝熱工学と熱力学の2つが存在します。
伝熱工学では、両者が熱平衡状態に至るまでの熱平衡にない状態を取り扱います。つまり、伝熱工学では熱の速度論を扱い、時間微分が登場します。
一方、熱力学では通常、熱平衡状態の系を議論の対象とします。したがって、熱力学では状態の変化は準静的なものであり、時間や速度の概念は登場しません。なお、温度と圧力の関係を扱うのは熱力学のみです。
このように、伝熱工学では温度の非平衡を前提として、温度の空間分布やその時間変化、あるいは熱の移動速度を議論の対象としています。