工学部で学ぶ物理学には様々な分野が存在します。
今回はその中でも流体力学と呼ばれる分野について見ていきます。
その中でも、最も基礎的な概念である流体についての定義と性質を解説します。
流体とは何か?
”流体”力学と言うぐらいですから、流体力学が流体の物理的な振る舞いについて研究する学問であることは想像できるでしょう。
流体力学に本格的に取り組む前に”そもそも流体とは何なのか?”について考察していきます。ということで、流体について定義するところから始めましょう。
流体について辞書で調べると、『外力に対して容易に形を変える性質をもつもの。気体と液体との総称』というように説明されていることが分かります。
辞書の説明から分かるように、流体とは水や空気のような液体・気体であることが分かります。
一般的な知識としてはこれだけで十分ですが、物理学では数式を使って現象を説明するため、式によって表わせるよう具体的かつ定量的な表現に洗練させる必要があります。
すなわち、流体の”外力により容易に形を変える性質”という部分を具体的にすることを考えます。
”外力により容易に変形する”という部分を物理学の表現に翻訳すると、”(小さな)せん断力により簡単に変形する物体”となります。
『水は方円の器に随う』ということわざにあるように、流体は自由に変形し、元に戻ろうとするせん断力は作用しません。一方、弾性体は変形すれば元に戻ろうとしてせん断力が作用する違いがあります。
※ 垂直応力(=圧力)は流体にも作用します。圧力は変形に対して垂直に作用するため、抵抗にはなりません。
このことから、流体は次のように定義できそうです。
※ 流体の定義の一例であり、様々な表現があります。
なお、この定義が厳密に成立するのは理想流体と呼ばれる特別な流体だけです。
後ほど解説しますが、現実の流体には粘性があるためせん断力が作用します。そのため、実在の流体に流体の定義が必ずしも当てはまるとは限りません。
しかし、動き始めの初期ではせん断力は無いと近似できます。流体の圧力のみが作用するという性質は浮力を計算する際のポイントとなります。浮力についての詳しい解説はこちらで行っています。
粘性と動粘性
先述したように、流体を剪断応力の作用しない物体と定義しましたが、実在の流体は必ずしもこの性質を満たすわけではありません。
流体を変形させるとき、その変形に抵抗する力の度合いを粘性と呼びます。例えば、水をかき混ぜたときの抵抗力を比べると、水飴をかき混ぜるときの抵抗力がより大きくなります。
大きな抵抗力を感じる理由は、水に比べて水飴の粘性が強いためです。粘性の強さを表す物理量として粘度という指標があり、一般に$\mu$(ミュー)の記号が使われます。
もうひとつ、粘度に似た物理量に動粘度があります。動粘度とは、一定の時間内に流れ出る流体の量から計算される物理量です。
動粘度は流体の流れやすさを表す物理量であり、動粘度が大きいほど動きやすい、つまり”サラサラ”した流体であると言えます。
例えば、水と空気を比べると空気の方がサラサラしているように感じますが、これは空気の動粘度が水よりも大きいためです。
また、エタノールは水よりも動粘度が大きいため、同じ液体であってもエタノールの方がサラサラしていると感じます。
動粘度には、一般に$\nu$(ニュー)の記号が使われます。粘度と動粘度の間には、流体の密度を$\rho$として、次のような関係があります。
\begin{split}
\nu = \ff{\mu}{\rho}
\end{split}
流体力学と数学
流体力学で登場する方程式について一足先に紹介しておきます。
理想流体はオイラーの運動方程式、実在流体に対してはナビエ・ストークス方程式が支配方程式となります。まず、理想流体の状態を記述するオイラー方程式は次のように記述されます。
オイラーの運動方程式の詳しい導出過程についてはこちらで解説しています。
次に、実在流体の状態を記述するナビエ・ストークス方程式は次のように記述されます。
※ 式中の $\nabla$ はナブラと読みます。ナブラについての詳しい解説はこちらで行っています。
ナビエ・ストークス方程式の詳しい導出過程についてはこちらで解説しています。
流体力学では、これらの方程式を利用して流れの速度分布を計算する場面があります。このときに複素関数論というものが使われます。現実の計算になぜ複素数が?と思うでしょうが、今回の限られた文量で説明仕切ることは残念ながらできません。
流体力学の計算に複素数を利用する理由は学習を進める内に自然と理解できるようになります。