境界層方程式は複数の方程式から構成されています。簡略化したとはいえ、厳密解を得ることは難しそうです。
実用上は境界層内の厳密な速度分布を得るよりも、主流方向の境界層内の流速変化が得られれば十分な場合がほとんどです。
このような速度変化を導くには、境界層方程式を $x$ 方向のみで記述されるように変換させれば良いと言えます。この方程式をカルマンの積分方程式と言い、次のように記述されます。
今回はカルマンの積分方程式の導出過程について解説します。
境界層方程式の積分
境界層内の厳密な流速分布が分からなくても、境界層内の主流方向の流速変化が得られれば有用な場合が多くあります。
そこで、境界層方程式を主流方向 $x$ のみに依存する方程式に書き換えることを考えます。このような方程式を得るため、$y$ について $0$ から $\delta$ までの積分を、以下の方程式に対して実行します。($\delta$ は境界層厚さ)
\begin{split}
\int_{0}^{\delta}\ff{\del u}{\del t}\diff y+\int_{0}^{\delta}u\ff{\del u}{\del x}\diff y+\int_{0}^{\delta}v\ff{\del u}{\del y}\diff y =-\ff{1}{\rho}\int_{0}^{\delta}\ff{\del p}{\del x}\diff y+\nu\int_{0}^{\delta}\ff{\del^2 u}{\del y^2}\diff y
\end{split}
今、境界層内の流れが定常流であると仮定すると、左辺第一項は $0$ となります。左辺第三項について考えます。$v$ については連続方程式より、以下のように表示できるため、
\begin{split}
v=-\int_0^{\delta}\ff{\del u}{\del x}\diff y
\end{split}
第三項をこのように変形できます。
\begin{split}
\int_{0}^{\delta}v\ff{\del u}{\del y}\diff y&=-\int_0^{\delta}\left( \int_0^{\delta}\ff{\del u}{\del x}\diff y \right)\diff y
\end{split}
さらに部分積分を適用して、
\begin{split}
\int_{0}^{\delta}v\ff{\del u}{\del y}\diff y&=-U\int_0^{\delta}\ff{\del u}{\del x}\diff y+\int_0^{\delta}u\ff{\del u}{\del x}\diff y
\end{split}
となります。ただし、主流の流速を $U$ とします。次に、右辺第一項についてはこちらで得た結果を利用すると、
\begin{split}
-\ff{1}{\rho}\int_{0}^{\delta}\ff{\del p}{\del x}\diff y=\int_{0}^{\delta}U\ff{\del U}{\del x}
\end{split}
とできます。最後に粘性項についても積分を実行して、
\begin{split}
\nu\int_{0}^{\delta}\ff{\del^2 u}{\del y^2}\diff y &= \left[ \nu\ff{\del u}{\del y} \right]_0^{\delta} \EE
&= \left.\nu\ff{\del u}{\del y}\right|_{\delta}-\left.\nu\ff{\del u}{\del y}\right|_{0}
\end{split}
として、ここで粘性とせん断応力の関係を利用すると、
\begin{split}
\left.\nu\ff{\del u}{\del y}\right|_{\delta}-\left.\nu\ff{\del u}{\del y}\right|_{0}=-\ff{\tau_w}{\rho}
\end{split}
となります。ただし、$\tau_w$ を壁でのせん断応力とします。なお計算に際しては、$x=\delta$ にて流速変化は無くなるのでせん断応力が $0$ となること、 粘性係数と動粘性係数の関係を用いています。以上より、積分の結果を
\begin{eqnarray}
\int_{0}^{\delta}\left(2u\ff{\del u}{\del x}-U\ff{\del u}{\del x}-U\ff{\del U}{\del x} \right)\diff y = -\ff{\tau_w}{\rho}\tag{1}
\end{eqnarray}
と整理できます。この積分を実行するとどうなるかを次節にて見ていきます。
カルマンの積分方程式の導出
式$(1)$の積分を実行していきます。準備として、このような変形を行います。
\begin{split}
\int_{0}^{\delta}\ff{\del }{\del x}(u^2-Uu)\diff y+\int_{0}^{\delta}U\ff{\del U}{\del x} \diff y = -\ff{\tau_w}{\rho}
\end{split}
左辺第一項に対してライプニッツの公式を用いると、
このように変形できます。
\begin{split}
\int_{0}^{\delta}\ff{\del }{\del x}(u^2-Uu)\diff y&=\ff{\diff}{\diff x}\int_{0}^{\delta}(u^2-Uu)\diff y+0-0\EE
&=\ff{\diff}{\diff x}\int_{0}^{\delta}u(u-U)\diff y
\end{split}
左辺第二項については、微分と積分を入れ替えて少し変形して、
\begin{split}
\int_{0}^{\delta}U\ff{\del U}{\del x} \diff y=\ff{\diff U}{\diff x}\int_{0}^{\delta}(U-u)\diff y
\end{split}
とできます。これらを式$(1)$に適用すると、
\begin{eqnarray}
\ff{\diff}{\diff x}\int_{0}^{\delta}u(u-U)\diff y+\ff{\diff U}{\diff x}\int_{0}^{\delta}(U-u)\diff y = \ff{\tau_w}{\rho}\tag{2}
\end{eqnarray}
と整理できます。この方程式に対して排除厚さと運動量厚さの定義式を用いると、さらに整理できて、
\begin{eqnarray}
\ff{\diff U^2\q}{\diff x}+U\delta^{*}\ff{\diff U}{\diff x} =\ff{\tau_w}{\rho}
\end{eqnarray}
これをさらに変形すると、
\begin{split}
U^2\ff{\diff\q}{\diff x}+2U\q\ff{\diff U}{\diff x}+U\delta^{*}\ff{\diff U}{\diff x} &=\ff{\tau_w}{\rho}\EE
\ff{\diff\q}{\diff x}+\left(2+\ff{\delta^{*}}{\q} \right)\ff{\q}{U}\ff{\diff U}{\diff x}&=\ff{\tau_w}{\rho U^2}
\end{split}
となります。
カルマンの積分方程式
ここで $H=\DL{\ff{\delta^{*}}{\q}}$ として、形状係数と定義すると、
\begin{split}
\ff{\diff\q}{\diff x}+\big(2+H \big)\ff{\q}{U}\ff{\diff U}{\diff x}&=\ff{\tau_w}{\rho U^2}
\end{split}
となって、カルマンの積分方程式と呼ばれる方程式が導けます。
$u,\tau_w,H$ が実験や理論から得られればカルマンの積分方程式が解けて、下流方向の運動量厚さの変化を正確に求めることができます。これは、境界層がどこで剥離するかを予測することにも役立ち、形状係数の検討にも利用されます。