境界層内の流れは境界層方程式と呼ばれる一連の方程式により記述されます。
今回は、連続方程式とナビエストークス方程式から境界層方程式を導く方法について解説し、また、オーダー法を用いた境界層方程式の近似方法についても解説します。
連続方程式とナビエストークス方程式
簡単のため、今回は平板上に発達する境界層について考えます。さらに、境界層内の流れを二次元非圧縮性流体と仮定します。
さて、境界層内の流体の振る舞いは、連続方程式とナビエ・ストークス方程式により支配されることになります。二次元非圧縮であることを考慮すると、これらの方程式は以下のように記述されます。
$$
\left\{
\begin{split}
&\,\ff{\del u}{\del x}+\ff{\del v}{\del y} = 0 \EE
&\,\ff{\del u}{\del t}+u\ff{\del u}{\del x}+v\ff{\del u}{\del y} =-\ff{1}{\rho}\ff{\del p}{\del x}+\nu\left( \ff{\del^2 u}{\del x^2}+\ff{\del^2 u}{\del y^2} \right) \EE
&\,\ff{\del v}{\del t}+u\ff{\del v}{\del x}+v\ff{\del v}{\del y} =-\ff{1}{\rho}\ff{\del p}{\del y}+\nu\left( \ff{\del^2 v}{\del x^2}+\ff{\del^2 v}{\del y^2} \right)
\end{split}
\right.
$$
これらの方程式から厳密解を導出できれば、二次元の境界層の流れを完全に理解することができます。
とは言え、厳密解を求めるのは非常に困難なため、上記の方程式達をオーダーに基づいて簡略化することを考えます。
オーダー法とは?
境界層の流れを表す厳密な方程式は変数が多く、簡単には解けません。そこで、オーダーという考えを用いて、方程式を簡略化することを考えます。
ここで言うオーダーとは、方程式の各項の大きさのことを表します。この考えを利用すると、例えば、第一項に比べて第二項が小さければ無視して第二項を $0$ と近似するような操作が可能になります。
さて、流れが $x$ 軸方向に平行に流れているとして、$x$ 方向の物体の代表長さを $L$、$y$ 方向に形成される境界層の厚さを $\eps$、境界層内の $x$ 方向の流速を $u$ 程度と考えます。なお、$\eps$ は境界層厚さを表すため、$\eps << L$ の関係にあります。
ただし、境界層内の $y$ 方向の流れについてはオーダーは現時点では不明です。
このオーダーの考えに基づくと、連続方程式は次のように近似できます。
\begin{split}
\ff{\del u}{\del x}+\ff{\del v}{\del y}\thicksim \ff{\D u}{\D x}+\ff{\D v}{\D y}\thicksim \ff{U}{L}+\ff{v}{\eps}=0
\end{split}
この方程式について、第一項と第二項の大きさの比較を行います。さて、$\DL{\ff{U}{L}>>\ff{v}{\eps}}$ の関係にあると仮定すると、第二項を無視できて、
\begin{split}
\ff{\del u}{\del x}=0
\end{split}
となります。この方程式の意味するところは、境界層内の $x$ 方向流速は常に一定ということを表します。
しかしながら、境界層内の流れは粘性の影響により、実際には下流に行くにつれ減速していきます。また、境界層厚さも増加していくという実験事実とも矛盾しています。ゆえに、仮定は誤りであると結論できます。
逆に $\DL{\ff{U}{L}<<\ff{v}{\eps}}$ と仮定すると、境界層内の流速が主流よりも大きいことになり、やはり矛盾をきたします。
以上より、$\DL{\ff{U}{L}}$ と $\DL{\ff{v}{\eps}}$ は同程度の大きさ(オーダー)であると言えます。したがって、
\begin{split}
v\thicksim \ff{\eps U}{L}
\end{split}
程度のオーダーであると結論できます。
境界層方程式の導出
先程のオーダーの議論を適用して、境界層の流れを表す厳密な方程式の近似を行っていきます。まず、一本目のナビエストークス方程式に対しては、次のようにオーダー表示できます。
\begin{split}
\ff{U}{ t}+\ff{U^2}{L}+\ff{U^2}{L} =\ff{p}{\rho L}+\nu\left( \ff{U}{ L^2}+\ff{U}{\eps^2} \right)
\end{split}
左辺第一項と右辺第一項のオーダー、左辺第二項・第三項のオーダーが右辺第二項とそれぞれ同程度と考えられるため、次のようにオーダーを比較できます。
$$
\left\{
\begin{split}
&\,\ff{U}{t}\thicksim \ff{p}{\rho L} \EE
&\, \ff{U^2}{L}\thicksim \ff{\nu U}{ L^2} \EE
&\, \ff{U^2}{L}\thicksim \ff{\nu U}{ \eps^2}
\end{split}
\right.
$$
次元を比較すると、さらに、
$$
\left\{
\begin{split}
&\,t\thicksim \ff{L}{U} \EE
&\, U^2\thicksim \ff{p}{\rho} \EE
&\, \nu\thicksim \ff{U\eps^2}{L}
\end{split}
\right.
$$
と近似できます。これを最初の式に適用すると、粘性項の中の第一項が無視できて、結局
\begin{eqnarray}
\ff{\del u}{\del t}+u\ff{\del u}{\del x}+v\ff{\del u}{\del y} =-\ff{1}{\rho}\ff{\del p}{\del x}+\nu\ff{\del^2 u}{\del y^2} \tag{1}
\end{eqnarray}
と簡略化できます。
続いて、二本目のナビエストークス方程式については、$\DL{v\thicksim \ff{\eps U}{L}}$ であることに注意してオーダーを考えると、
\begin{split}
\ff{U^2\eps}{L^2}+\ff{U^2\eps}{L^2}+\ff{U^2\eps}{L^2} =\ff{U^2}{\eps}+\left( \ff{U^2 \eps^3}{L^4}+\ff{U^2 \eps^3}{L^2} \right)
\end{split}
式 $(1)$でのオーダーが $\DL{\ff{U^2}{L}}$ であることを考慮すると、この方程式で相対的に残すべき項は、右辺第一項のみと言えます。したがって、
\begin{split}
\ff{\del p}{\del y}=0
\end{split}
と整理されます。以上より、境界層の流れを支配する $3$ つの方程式を導けました。これらの方程式は境界層方程式と呼ばれます。
境界層方程式の厳密解
境界層方程式を実際に解いてみましょう。
簡単のため、境界層内の流れを定常流として、さらに層流であると仮定します。まず、定常流という仮定から、
\begin{split}
\ff{\del u}{\del t}=0
\end{split}
と言え、そして、境界層の端近傍では $u\NEQ U$ となって流速の変化が無くなるため、
$$
\left\{
\begin{split}
&\,\left.\ff{\del u}{\del y}\right|_{y=\delta}=0 \EE
&\,\left.\ff{\del^2 u}{\del y^2}\right|_{y=\delta}=0
\end{split}
\right.
$$
と言えます。ただし、$\delta$ を境界層厚さとします。さらに境界層の端では $x$ 方向の流速変化が無くなることより、圧力変化も無くなることが言えます。したがって、
\begin{split}
\left.\ff{\del p}{\del x}\right|_{y=\delta}=0
\end{split}
となります。以上の考察より、境界層の端における境界層方程式は、次のように簡略化されます。
\begin{split}
u\ff{\del u}{\del x} =-\ff{1}{\rho}\ff{\del p}{\del x} \EE
\end{split}
今、$y=\delta$ における流速を考えているため、$u=U$ となっているはずです。ゆえに、
\begin{split}
\ff{\del p}{\del x} =-\rho U\ff{\del U}{\del x} \EE
\end{split}
という方程式が得られます。上記の方程式は以下の様に解けます。($C:$積分定数)
\begin{split}
\ff{\del p}{\del x} &=-\ff{\rho}{2} \ff{\del U^2}{\del x} \EE
\therefore\, p(x)&=\ff{1}{2}\rho U^2+C
\end{split}
この結果はベルヌーイの定理そのものであることが分かります。これより、境界層内圧力の主流方向変化は、主流の流速変化のみに影響されることが分かります。
次回は境界層方程式に基づいてより深い考察を行っていきます。