ミルン・トムソンの円定理|円に関する鏡像の流れとは?

スポンサーリンク
ホーム » 流体力学 » ミルン・トムソンの円定理|円に関する鏡像の流れとは?

以前、壁近傍の流れに対して鏡像の方法を適用する方法について解説しました。今回は、壁が円の場合の鏡像について考えます。

なお、壁が円の場合についての流れの複素速度ポテンシャルを与える方法は、ミルン・トムソンの円定理として知られています。

今回は、壁が円の場合についての鏡像の方法と、それに関連するミルン・トムソンの円定理について解説します。

ミルン・トムソンの円定理

$f(z)$ を正則関数、$a$ を実数とする。
このとき、円 $K$ に関する鏡像の流れの複素速度ポテンシャル $w$ は次のように表せる。

\begin{split}
w=f(z)+\overline{f\left(\ff{a^2}{\bar{z}}\right)} \\
\,
\end{split}

スポンサーリンク

一様流と円柱周りの流れの復習

円柱近傍の流れを鏡像で得る手法を考えたいのですが、その方法の見当が付きません。そこで、円柱周りの流れを再現できた一様流と二重湧き出しの例から、一般論を推測していくことにします。

さて、流速 $U$ の一様流を受ける半径 $a$ の円柱周りの流れについての複素速度ポテンシャルは、次のように表せ、

\begin{split}
w=Uz+\ff{Ua^2}{z}
\end{split}

その流線は下図のようになります。

円柱周りの流れの複素速度ポテンシャル

ここからは、円に関する鏡像の流れ壁近傍に関する流れの鏡像と同じ形式になるような方法を考えていきます。

スポンサーリンク

円に関する流れの鏡像

壁近傍の流れを表す鏡像の式を観察すると、式に共役複素数が含まれていることに気が付きます。これの類推から、円に関する流れの鏡像についても、共役複素数が含まれるだろうと予測することができます。

さて、円の公式より、半径 $a$ の円は $z\bar{z}=a^2$ と表せます。この公式には共役複素数が含まれるため、ヒントになりそうです。

今、$\DL{\bar{z}=\ff{a^2}{z}}$ となるので、先述の複素速度ポテンシャルの式は、

\begin{split}
w=Uz+U\bar{z}
\end{split}

と書き換えられます。この議論を一般化するためのステップとして、$f(z)=Uz$ と表示すると、

\begin{split}
w=f(z)+\overline{f(z)}
\end{split}

とできます。以前説明した鏡像の数学的な背景と同じものを導くことができました。なお、円に関する流れの鏡像を考えるときは、あえて、$\DL{\bar{z}=\ff{a^2}{z}=\overline{\ff{a^2}{\bar{z}}}}$ と変形して、

\begin{split}
w=f(z)+\overline{f\left(\ff{a^2}{\bar{z}}\right)}
\end{split}

を考えることにします。

スポンサーリンク

ミルン・トムソンの円定理

先述の議論より導いた

\begin{eqnarray}
w=f(z)+\overline{f\left(\ff{a^2}{\bar{z}}\right)}\tag{1}
\end{eqnarray}

が、円柱上で壁(=$0$ 流線)となることを確認します。今、$z\bar{z}=a^2$ なのでこれを代入すると、

\begin{split}
w=f(z)+\overline{f(z)}
\end{split}

となります。ところで、$f(z)=\psi+i\varphi$ とすると、$w$ は、

\begin{split}
w&=\psi+i\varphi+\Big(\psi-i\varphi\Big)\EE
&=2\psi
\end{split}

と表せます。($\psi, \varphi$ は実関数)

したがって、半径 $a$ の円柱上では $w$ が実数となると言えます。

以上、円柱上にて $\RM{Im}\,w=0$ となるため、式$(1)$が円に関する鏡像の流れであることが結論できます。

ついでに、式$(1)$が正則関数であることを確認しておきます。まず、次の偏微分を考えます。

\begin{split}
\ff{\del}{\del z}\left( \overline{f\left(\ff{a^2}{\bar{z}}\right)} \right)&=\overline{ \ff{\del}{\del z}f\left(\ff{a^2}{\bar{z}}\right) } \EE
\end{split}

今、$f$ は正則関数の判定条件を満たすため、$\DL{\ff{\del}{\del z}f\left(\ff{a^2}{\bar{z}}\right)}=0$ と言えます。これより、$\DL{\overline{f\left(\ff{a^2}{\bar{z}}\right)}}$ は正則関数と言えます。

以上より、$w$ は正則関数であり、円柱周りのポテンシャル流れを再現できることが分かります。

このようにして円に関する流れの鏡像が得られるため、ミルン・トムソンの円定理と呼ばれます。

ミルン・トムソンの円定理

$f(z)$ を正則関数、$a$ を実数とする。
このとき、円 $K$ に関する鏡像の流れの複素速度ポテンシャル $w$ は次のように表せる。

\begin{split}
w=f(z)+\overline{f\left(\ff{a^2}{\bar{z}}\right)} \\
\,
\end{split}

スポンサーリンク

円柱周りの流れの鏡像

実際に円柱周りの流れを鏡像を用いて再現できることを確認します。

湧き出しの鏡像

まず、湧き出しの円に関する鏡像を考えます。この鏡像はミルン・トムソンの円定理より次のように表せます。($k$ は実数)

\begin{split}
w&=k\log(z-z_0)+\overline{k\log\left( \ff{a^2}{\bar{z}}-z_0 \right)} \EE
&= k\log(z-z_0)+k\log\left( \ff{a^2}{z}-\overline{z_0} \right)
\end{split}

この複素速度ポテンシャルが表す流線を描くと、図のようになります。

円柱の壁と湧き出しの鏡像

円柱周りの湧き出しの流れが鏡像により再現できていることが確認できます。

回転流の鏡像

次に回転流の円に関する鏡像の流れを考えます。先程と同様に、$k$ を実数として複素速度ポテンシャルは次のようになります。

\begin{split}
w&=ik\log(z-z_0)+\overline{ik\log\left( \ff{a^2}{\bar{z}}-z_0 \right)} \EE
&= ik\log(z-z_0)-ik\log\left( \ff{a^2}{z}-\overline{z_0} \right)
\end{split}

流線を描くと図のようになります。

円柱の壁と回転流の鏡像

二重湧き出しの鏡像

最後に二重湧き出しの円に関する鏡像の流れを考えます。この鏡像の流れは、$k$ を複素定数として次のように表せます。

\begin{split}
w&=\ff{k}{z-z_0}+\overline{\ff{k}{\ff{a^2}{\bar{z}}-z_0}} \EE
&= \ff{k}{z-z_0}+\ff{\bar{k}}{\ff{a^2}{z}-\overline{z_0}}
\end{split}

このときの流線を描くと、図のようになります。

円柱の壁と二重湧き出しの鏡像

タイトルとURLをコピーしました