ケルビンの循環定理とは?|渦と循環の理論①

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循環の時間変化を述べる重要な定理にケルビンの循環定理があります。ケルビンの循環定理は、次のような定理であり、循環の保存則とも言うべき理論です。

ケルビンの循環定理

粘性の無視できるバロトロピー流体に対して保存力のみが作用しているとき、流体の運動と共に移動する閉曲線に沿う循環は時間に依らず一定である。

すなわち、以下の物質微分を満たす。

\begin{split}
\ff{D \Gamma}{D t} = 0 \\
\,
\end{split}

ケルビンの循環定理出発渦と束縛渦がセットになって生じることの理論的な根拠となるように、渦が関係する様々な現象と関わりを持ちます。

なお、ケルビンの渦定理は、ラグランジュの渦定理ヘルムホルツの渦定理との言い換えとなっています。

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ケルビンの循環定理とは?

ケルビンの循環定理とは、次のような定理のことです。

ケルビンの循環定理

粘性の無視できるバロトロピー流体に対して保存力のみが作用しているとき、流体の運動と共に移動する閉曲線に沿う循環は時間に依らず一定である。

すなわち、以下の物質微分を満たす。

\begin{split}
\ff{D \Gamma}{D t} = 0 \\
\,
\end{split}

ケルビンの循環定理の模式図

ケルビンの循環定理は、流体の運動とともに移動する閉曲線周りの循環は、時間の経過に関わらず一定であると主張しています。ただし、そのような状況が成り立つためには、①非粘性②バロトロピー流体であり、③作用する外力は保存力のみという $3$ つの条件を満たす必要があることに注意が必要です。

これら $3$ つの条件を満たすとき、ある瞬間に設定した閉曲線周辺の流体粒子を時間経過と共に追跡すると、移動する閉曲線上の循環は保存され、以下の式が成立します。

\begin{split}
\ff{D \Gamma}{D t} = 0
\end{split}

流体粒子を時間の経過と共に追跡するという、ラグランジュの方法を使うため、循環の時間変化は物質微分という特殊な微分を使います。

ケルビンの循環定理の証明に取り掛かる前に、登場する用語について解説をします。

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バロトロピー流体とは?

ケルビンの循環定理では、前提条件として流体非粘性かつバロトロピー流体であることを要請しています。

ここでは、バロトロピー流体という新しいキーワードについて解説します。バロトロピー流体とは次のように定義される流体のことです。

バロトロピー流体

バロトロピー流体:密度が圧力の一変数関数として表される流体

この定義から、バロトロピー流体は圧力 $p$ を変数とした一変数関数として、密度を $\rho = f(p)$ と表せることが分かります。

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ケルビンの循環定理とオイラーの運動方程式

ケルビンの循環定理が成立するための前提条件は $3$ つあります。最初の非粘性流体という条件はオイラーの運動方程式を使って表せ、

\begin{eqnarray}
\ff{\del \B{v}}{\del t}+(\B{v}\cdot \nabla)\B{v}= -\ff{1}{\rho}\nabla p+\B{f}
\end{eqnarray}

この方程式に対して、$2$ つ目の条件である『外力は保存力のみが作用する』を適用すると、$\B{f}$ は、$U$ をポテンシャルエネルギーとして $\B{f}=-\nabla U$ と表せ、上式は

\begin{eqnarray}
\ff{\del \B{v}}{\del t}+(\B{v}\cdot \nabla)\B{v}= -\ff{1}{\rho}\nabla p-\nabla U
\end{eqnarray}

とできます。さらに $3$ つ目のバロトロピー流体であるという条件を課すと、$\DL{\ff{1}{\rho}\nabla p=\nabla P}$ とできます。以上より、オイラーの運動方程式を

\begin{eqnarray}
\ff{\del \B{v}}{\del t}+(\B{v}\cdot \nabla)\B{v}=-\nabla(P+U)
\end{eqnarray}

と整理することができます。左辺は物質微分を用いて、

\begin{eqnarray}
\ff{D \B{v}}{D t}=-\nabla(P+U) \tag{1}
\end{eqnarray}

と変形できます。ケルビンの循環定理の証明は、式$(1)$を利用して行います。

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ケルビンの循環定理の証明

さて、ケルビンの循環定理で示すべきゴールは

\begin{split}
\ff{D \Gamma}{D t} = 0
\end{split}

です。このゴールを得るために、循環の定義式の両辺を物質微分した次の式を考えます。

\begin{split}
\ff{D \Gamma}{D t}&= \ff{D}{D t}\oint_C\B{v} \cdot \diff \B{r} \\[6pt]
&= \oint_C\ff{D}{D t}\left(\B{v}\cdot \diff \B{r}\right)
\end{split}

右辺については、さらに変形でき、

\begin{eqnarray}
\oint_C\ff{D}{D t}\left(\B{v}\cdot \diff \B{r}\right) &=& \oint_C\left( \ff{D \B{v}}{D t}\cdot\diff\B{r}+\B{v}\cdot \ff{D \diff\B{r}}{D t} \right)\\[6pt]
&=& \oint_C \ff{D \B{v}}{D t}\cdot\diff\B{r}+\oint_C\B{v}\cdot \ff{D \diff\B{r}}{D t} \tag{2}
\end{eqnarray}

右辺第一項に関しては式$(1)$を用いて

\begin{split}
\oint_C \ff{D \B{v}}{D t}\cdot\diff\B{r}= -\oint_C\nabla(P+U)\cdot\diff\B{r}
\end{split}

とできます。一方、第二項の計算に関しては少し工夫する必要があります。今、$\diff \B{r}$ を $\diff \B{r}=\B{r}_2-\B{r}_1$ と置いて、

\begin{split}
\ff{D\diff \B{r}}{D t} &= \ff{D(\B{r}_2-\B{r}_1)}{D t} \EE
&= \ff{D\B{r}_2}{D t}-\ff{D\B{r}_1}{D t} \EE
\end{split}

とします。$\DL{\ff{D\B{r}(x,y,z)}{D t}}$ については、ベクトルの微分を利用すると以下のように計算でき、(ただし、$\B{i},\B{j},\B{k}$ は単位ベクトル)

\begin{split}
\ff{D \B{r}}{D t} &= \ff{\del \B{r}}{\del t}+u\ff{\del \B{r}}{\del x}+v\ff{\del \B{r}}{\del y}+w\ff{\del \B{r}}{\del z} \EE
&= 0+u\B{i}+v\B{j}+w\B{k} \EE
&= \B{v}
\end{split}

これより、

\begin{split}
\ff{D\B{r}_2}{D t}-\ff{D\B{r}_1}{D t} &= \B{v}(r_2)-\B{v}(r_1)
\end{split}

とできます。さらに $\diff \B{v}=\B{v}(r_2)-\B{v}(r_1)$ とすることで、

\begin{split}
\ff{D\diff \B{r}}{D t} &= \ff{D(\B{r}_2-\B{r}_1)}{D t} \EE
&= \ff{D\B{r}_2}{D t}-\ff{D\B{r}_1}{D t} \EE
&= \diff \B{v}
\end{split}

これより、$\DL{\B{v}\cdot \ff{D \diff\B{r}}{D t}=\B{v}\cdot \diff \B{v}}$ と導けます。以上より、式$(2)$は

\begin{eqnarray}
\oint_C\ff{D}{D t}\left(\B{v}\cdot \diff \B{r}\right) &=& \oint_C \ff{D \B{v}}{D t}\cdot\diff\B{r}+\oint_C\B{v}\cdot \ff{D \diff\B{r}}{D t} \\[6pt]
&=& -\oint_C\nabla(P+U)\cdot\diff\B{r}+\oint_C\B{v}\cdot \diff \B{v}
\end{eqnarray}

と整理されます。積分の値は始点と終点の値で決まり、また、$P,U,v$ については閉曲線に沿って一周すると元の値に戻って来るので、

\begin{split}
&\oint_C\nabla(P+U)\cdot\diff\B{r}=0\EE
&\oint_C\B{v}\cdot \diff \B{v}=0
\end{split}

となります。ゆえに、循環の物質微分

\begin{split}
\ff{D \Gamma}{D t}&= 0
\end{split}

は $0$ であることが言えます。めでたくケルビンの循環定理を示せました。

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