等速直線運動する円柱周りの流れ|翼周りの流れの解析③

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静止した流体中を、等速直線運動する円柱周りの流れを考えます。また、この流れをジューコフスキー変換した場合の流れについても見ていきます。

今回は流体が静止している一方で、円柱が移動しているため、円柱周りの流れは非定常流となります。

そのため、圧力を導出するときの定石であるベルヌーイの定理を適用できないという問題があります。この問題への対処方法が今回のポイントとなります。

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等速直線運動する円柱周りの流れ

静止した流体中を等速直線運動する円柱周りの流れと、円柱表面の圧力分布について考えます。まず、等速直線運動する物体回りの流れは、二重湧き出しとして表せます。

したがって、速度 $U$ で等速直線運動する半径 $a$ の円柱周りの複素速度ポテンシャルは、

\begin{split}
w=\ff{Ua^2}{z}
\end{split}

とできます。また、時刻 $t$ での円柱の中心座標を $-Ut=z_0(t)$ とすると、先述の式は

\begin{split}
w=\ff{Ua^2}{z-z_0(t)}
\end{split}

となり、静止した流体中を等速直線運動する円柱周りの流れについての、複素速度ポテンシャルを導けました。

複素速度ポテンシャルから流線の様子を図示すると以下のようになります。

等速直線運動する円柱周りの流れ

一目でわかるように、流線の様子が一様流の中に置かれた円柱周りの流れとは全く異なっています。

このとき、円柱表面に作用する圧力分布は、一様流に置かれ場合と比較してどのように変化しているのでしょうか?次節にて、円柱表面の圧力分布の導出に取り掛かります。

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等速直線運動する円柱に作用する力

二重湧き出しが移動しているため、$z$ 平面上の流れは時々刻々変化します。したがって、等速直線運動する円柱周りの流れは非定常流であると言えます。

これまでは、円柱に作用する圧力をベルヌーイの定理より求めていました。しかしながら、ベルヌーイの定理は定常流に対してのみ適用できるため、非定常流であるような今回の場合には、ベルヌーイの定理を適用できません。

ここで登場するのが圧力方程式です。

圧力方程式非定常流の場合にも適用できる、流体の持つエネルギーバランスを表す方程式です。今回は、圧力方程式を用いて円柱表面に作用する圧力分布を計算していきます。

さて、ポテンシャルエネルギーが $z$ 平面全体に渡って一定とし、流体の密度を $\rho,$ 任意の点での圧力を $p,$ 流速を $|q|$ で表すと、次のような圧力方程式を記述できます。

\begin{split}
\ff{\del \varphi}{\del t}+\ff{|q|^2}{2}+\ff{p}{\rho}=const.
\end{split}

ただし、$\varphi$ を速度ポテンシャルとします。まずは、$\DL{\ff{\del \varphi}{\del t}}$ から求めていきます。$\psi$ を流れ関数として、$w=\varphi+i\psi$ の関係があるため

\begin{split}
\ff{\del w}{\del t}=\ff{\del \varphi}{\del t}+i\ff{\del \psi}{\del t}
\end{split}

となります。左辺の偏微分に関しては、

\begin{split}
\ff{\del w}{\del t}=\ff{Ua^2\cdot\ff{\del z_0(t)}{\del t}}{(z-z_0(t))^2}
\end{split}

とできて、条件より、$\DL{\ff{\del z_0(t)}{\del t} = -U}$ となり、また、円柱表面の流れについて考えているので、$z-z_0(t)=ae^{i\q}$ の関係にあることを用いると、

\begin{split}
\ff{\del w}{\del t}=-U^2e^{-2i\q}=-U^2(\cos2\q+i\sin2\q)
\end{split}

と求めることができます。 これより、右辺の値を求めることができ、

\begin{split}
\ff{\del \varphi}{\del t}=-U^2\cos2\q
\end{split}

であることが分かります。次に、複素速度 $q$ について求めると、定義より

\begin{split}
q=\ff{\diff w}{\diff z}=\ff{Ua^2}{(z-z_0(t))^2}
\end{split}

となります。これより、円柱表面における流速 $|q_a|$ を $U$ と求められます。以上より圧力方程式を

\begin{split}
-U^2\cos2\q+\ff{1}{2}U^2+\ff{p}{\rho}=\ff{p_{\infty}}{\rho}
\end{split}

と整理できます。ただし、無限遠では $q=0$、$\varphi$ が一定であることを用いており、また、無限遠での圧力を $p_{\infty}$ としています。

これより、円柱表面での圧力分布が次のように求められます。

\begin{split}
p-p_{\infty}=\ff{1}{2}U^2(2\cos2\q-1)
\end{split}

この結果は、一様流の中に置かれた円柱の圧力分布と一致していることが分かります。したがって、ダランベールのパラドックスにて考えたように、円柱に作用する力が $0$ となることを結論できます。

これより、観測者が物体に乗って流れを見る場合でも、流れに乗って物体を見る場合でも、圧力分布が相互に等しくなることを結論できます。この事実は、翼に発生する揚力を求めるとき、一様流中での様子を考えれば良いことの理論的な裏付けとなります。

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ジューコフスキー変換による翼型への変換

等速直線運動する円柱周りの流れをジューコフスキー変換により、翼型に変形したときの流れについて考えます。

例として、下図のような翼型になったとすると、翼周りの流線はこのようになります。

等速直線運動するジューコフスキー翼周りの流線

これまで議論してきた流れに比べても、一層複雑な流れであることが見て取れます。

このときの翼に作用する力にやはり興味を持ちますが、力の計算は一筋縄にはいきそうにはありません。

実際、この力を求めるためには、ブラジウスの公式を利用する必要があるため、具体的な計算は見送ります。結論だけを紹介すると、その結果は一様流中に置かれた翼の受ける力とやはり同じになります。

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