二重湧き出し・多重湧き出しとは?|流線とその性質

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今回は二重湧き出し($\RM{doublet}$)の性質について解説します。二重湧き出しとは次のような複素速度ポテンシャルを持つ流れのことを言います。

二重湧き出し

$k$ を実数として、以下の複素速度ポテンシャルを持つ流れを二重湧き出しと呼ぶ

\begin{split}
w=\ff{k}{z} \\
\,
\end{split}

二重湧き出しは、船の舳先や飛行機の先端など、運動する物体の先端で生じる流れのモデルとして用いられます。また、多重湧き出しについても解説します。

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二重湧き出しとは?

さて、次の複素速度ポテンシャルを持つ流れのことを二重湧き出し($\RM{doublet}$)と呼びます。

二重湧き出し

$k$ を実数として、以下の複素速度ポテンシャルを持つ流れを二重湧き出しと呼ぶ

\begin{split}
w=\ff{k}{z} \\
\,
\end{split}

二重湧き出しの流れの様子について観察するため、$z$ を極形式の形にして二重湧き出しの式に代入すると、

\begin{split}
w=\ff{k}{r}e^{-i\q} = \ff{k}{r}(\cos\q-i\sin\q)
\end{split}

となります。ただし、$z=re^{i\q}$ としています。

ここから速度ポテンシャル $\varphi$ と流れ関数 $\psi$ を導け、

$$
\left\{
\begin{split}
\,\varphi&= \ff{k}{r}\cos\q\EE
\,\psi&=-\ff{k}{r}\sin\q
\end{split}
\right.
$$

とできます。

流れの様子をプロットしやすいように、極座標系からデカルト座標系に変換することを考えます。変換は $r=\sqrt{x^2+y^2}, \sin\q = \DL{\ff{y}{r}, \cos\q=\ff{x}{r}}$ として、

$$
\left\{
\begin{split}
\,\varphi&= \ff{k}{r}\cos\q=\ff{kx}{r^2}=\ff{kx}{x^2+y^2}\EE
\,\psi&=-\ff{k}{r}\sin\q=\ff{ky}{r^2}=\ff{ky}{x^2+y^2}
\end{split}
\right.
$$

と整理できます。

流線は流れ関数の値が一定となる線であるため、$x^2+y^2=ky$ で表される曲線群について考えれば、流線が得られることが分かります。($k$:複素定数)

$k$ を実数とすると、曲線群は左図のような虚軸($y$ 軸)に沿った広がりを持つ流線となることが分かります。一方、$k$ が純虚数のとき実軸($x$ 軸)に沿った広がりを持った流線となります。

二重湧き出し

二つの湧き出しを持つように見えるため、この流れを二重湧き出しと呼びます。

なお、流線が横倒しになる結果は、虚数単位を掛けることが複素平面上で図形を $90^{\circ}$ 回転させる操作に相当することから納得できるでしょう。

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二重湧き出しの軸と流れの方向

係数 $k$ が複素数の場合の流れの様子を考えます。

例えば、$k=1+i, 1-i$ のときの二重湧き出しの様子は次のようになります。

二重湧き出しと軸の傾き

さて、二重湧き出しの曲線群に接線を引き、接線と実軸との成す角を考えます。図から分かるように、$k=1+i$ ではその角度は $\DL{\ff{\pi}{4}}$ であり、$k=1-i$ では $\DL{\ff{3\pi}{4}}$ となります。ただし、弧度法で角度を表しています。

これらから、$k$ を極形式で表したときの偏角と接線の傾きが一致していることを確認できます。また、円群の接線のことを二重湧き出しの軸と呼びます。

流れの方向

二重湧き出しの流れの方向は複素速度から得られます。実際に複素速度 $q$ を計算すると、

\begin{split}
q&=\ff{\diff w}{\diff z} = -\ff{k}{z^2}
\end{split}

とでき、極形式に直すと $u,v$ を、

$$
\left\{
\begin{split}
\,u&= -\ff{k}{r^2}\cos2\q \EE
\,v&= \,\ff{k}{r^2}\sin2\q
\end{split}
\right.
$$

と得られます。これから、$k>0$ のとき流れは時計回り、$k<0$ のとき、流れが反時計回りになると言えます。

二重湧き出しの流れの方向

このように、流速が $k$ の値により決まることから、$k$ を二重湧き出しの強さまたはモーメントといいます。

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多重湧き出し

ここまでは $\DL{\ff{k}{z}}$ について考えましたが、今度は $\DL{\ff{k}{z^2},\ff{k}{z^3},\ff{k}{z^4}}$ の流れについて考えます。これらの流れの様子についてはこちらで考えました。$\DL{\ff{k}{z^3}}$ の流れを例示すると次のようになります。

負べきの二重湧き出し

これらの図から、指数の倍の数の湧き出しを持つことが確認できます。このように複数の湧き出しを持つため、この流れを多重湧き出しと呼びます。

なお、指数を $n$ として $2n$ 重湧き出しとも言います。$2n$ 重湧き出しに対しても、$k>0$ のとき流れは反時計回りであり、$m<0$ のとき時計回りになります。

また、$k$ の偏角に応じて湧き出しの「葉」の部分が回転していきます。この性質も今後利用していきます。

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二重湧き出しの平行移動

湧き出し単体ではなく、複数の湧き出しを配置した流れについて考える場面もあります。その準備として、湧き出しの平行移動について解説します。

湧き出しの平行移動とは、湧き出しの中心を原点から移動させる操作のことをいいます。

原点を動かすと湧き出しを表す曲線群も丸ごと移動するため、数式上では $\DL{\ff{k}{z-a}}$ のようにすれば、平行移動が表現できることが理解できます。

たとえば、$a=1$ とすると確かに湧き出しの中心が $1$ だけ右に移動することが見てとれます。

二重湧き出しの平行移動

また、$a=i$ とすると、虚軸方向に $i$ 移動し、$a=1+i$ のように複素数とすると、湧き出しの中心が $1+i$ の位置に移動することが理解できます。

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