ド・モアブルの定理と複素平面についての解説を行います。まず、ド・モアブルの定理とは、次のような定理のことです。
ド・モアブルの定理の表す図形的な意味についても解説します。
複素平面とは?
ド・モアブルの定理について考える前に、複素数の幾何学的性質について調べてみましょう。復習になりますが、複素数 $\alpha$ は、実数 $a, b$ と、虚数単位 $i$ を使って、
\begin{split}
\alpha=a+ib
\end{split}
とできる数でした。
複素数の幾何学的性質を考えるために、座標平面上に複素数をプロットすることを考えます。
とはいえ、普通の実数平面上では複素数を表示することができないため、座標軸を工夫することを考えます。そこで、$y$ 軸を純虚数の目盛りに変更することにしてみます。すると、複素数を図のようにプロットできそうなことに気が付きます。
このような座標平面を複素平面と呼びます。
なお、複素平面の実軸を $\RM{Re}$、虚軸を $\RM{Im}$ と表記しています。これらの記号については、こちらで解説しています。
複素平面と三角関数
複素平面を設定できたため、次は複素数と三角関数の関係について探っていきます。まず、原点から $\alpha$ までを線分で結び、実軸から線分までの角度を $\q$(シータ)とおきます。
このとき、線分の長さ $r$ は三平方の定理より、
\begin{split}
r=\sqrt{a^2+b^2}=|\alpha|
\end{split}
と求めることができます。また、$r$ は複素数の絶対値と一致することが分かります。
ところで、$a$ と $b$ の関係は、三角関数を用いると、次のような対応関係があることが分かります。
$$
\left\{
\begin{split}
a=r\cos\q \EE
b=r\sin\q
\end{split}
\right.
$$
これより、複素数は三角関数を用いて次のようにできると言えます。
\begin{split}
\alpha=r\,(\cos\q+i\sin\q)
\end{split}
なお、$\cos\q$ と $\sin\q$ は次のように表示できることも分かります。
$$
\left\{
\begin{split}
\cos\q = \ff{a}{r} = \ff{a}{\sqrt{a^2+b^2}} \EE
\sin\q = \ff{b}{r} = \ff{b}{\sqrt{a^2+b^2}}
\end{split}
\right.
$$
複素平面を用いることで、複素数の幾何学的意味が取り易くなることが分かります。
極形式とは?
先述のように、複素数は三角関数を使って表現できることが分かりました。このように、複素数を三角関数で表すような表現形式のことを極形式と呼びます。
極形式は、実数平面上での極座標系での表示形式と同様であると言えます。
極形式でポイントとなるのは、複素数までの角度を実軸から反時計回りに測ることです。
さて、極形式に出てくる $\q$ のことを、偏角(へんかく)と呼びます。なお、英語では、argument(アーギュメント)といいます。数学的には、複素数の偏角を $\RM{arg}(\alpha)$ と表記します。つまり、
\begin{split}
\RM{arg}(\alpha) = \q
\end{split}
という関係があると言えます。
※ $\RM{arg}$ はアーギュメントと読みます。
極形式表示の計算公式
極形式表示の複素数に対する、計算公式を紹介します。まず、極形式においては複素数同士の積と商は、次のように計算できます。
以下に証明を示します。まず、積に関して計算すると、複素数の四則演算の規則から、次のように計算できます。
\begin{split}
\alpha_1\cdot\alpha_2&=r_1\,(\cos\q_1+i\sin\q_1)\cdot r_2\,(\cos\q_2+i\sin\q_2)\EE
&= r_1r_2\,\big\{\cos\q_1\cos\q_2-\sin\q_1\sin\q_2\EE
&\qquad+i(\cos\q_1\sin\q_2+\cos\q_2\sin\q_1)\big\}
\end{split}
このとき、三角関数の加法定理を利用すると、
\begin{split}
\alpha_1\cdot\alpha_2 &= r_1r_2\,\big\{\cos(\q_1+\q_2)+i\sin(\q_1+\q_2)\big\}
\end{split}
とできます。次に、商に関しての計算をすると、
\begin{split}
\ff{\alpha_1}{\alpha_2}&=\ff{r_1\,(\cos\q_1+i\sin\q_1)}{r_2\,(\cos\q_2+i\sin\q_2)} \\[6pt]
&= \ff{r_1\,(\cos\q_1+i\sin\q_1)(\cos\q_2-i\sin\q_2)}{r_2\,(\cos\q_2+i\sin\q_2)(\cos\q_2-i\sin\q_2)} \\[6pt]
&= \ff{r_1\,\big\{\cos\q_1\cos\q_2+\sin\q_1\sin\q_2+i(\cos\q_1\sin\q_2-\cos\q_2\sin\q_1)\big\}}{r_2\,(\cos^2\q_2+\sin^2\q_2)}
\end{split}
となり、これより、商の計算は、
\begin{split}
\ff{\alpha_1}{\alpha_2}&= \ff{r_1}{r_2}\,\big\{\cos(\q_1-\q_2)+i\sin(\q_1-\q_2)\big\}
\end{split}
となります。積と商についての計算公式を証明できました。
複素数の積と商の幾何学的意味
極形式の積と商についての複素平面上での振る舞いについて考えます。まず、極形式の積についてですが、公式から分かるよう、それぞれの偏角同士を足し合わせた位置に移動すると言えます。
次に商ですが、これは、それぞれの偏角同士を引き算した位置に移動することが分かります。
複素数同士計算と幾何学的な関係に対応関係があることを認識しておきましょう。
ド・モアブルの定理とは?
複素数同士の積は、複素平面上での偏角同士を足し合わせる操作に相当することが分かりました。すなわち、複素数の2乗を計算してみると、積の公式から明らかなように偏角が2倍になることが分かります。
\begin{split}
\alpha^2&= \big\{r\,(\cos\q+i\sin\q) \big\}^2 \EE
&= r^2\,(\cos2\q+i\sin2\q)
\end{split}
次に、3乗について考えてみると、
\begin{split}
\alpha^3&= \alpha\cdot\alpha^2\EE
&=r^3\,(\cos\q+i\sin\q)(\cos2\q+i\sin2\q) \\
&= r^3\,(\cos3\q+i\sin3\q)
\end{split}
となり、偏角が3倍になることが分かります。同様にして積の公式を連続して使うと、複素数の $n$ 乗では偏角が $n$ 倍になることが分かります。
この事実は、数学的帰納法を用いて証明することもでき、ド・モアブルの定理と呼ばれています。
ド・モアブルの定理とオイラーの公式
ところで、オイラーの公式を認めると、次のように指数関数を使っても極形式を表すことができます。
\begin{split}
\alpha &= \cos\q+i\sin\q = e^{i \q}
\end{split}
これより、オイラーの公式とド・モアブルの定理を併せると、
\begin{split}
\big(e^{i\q}\,\big)^n &= (\cos\q+i\sin\q)^n \EE
\therefore\,\,e^{in\q} &= \cos n\q+i\sin n\q
\end{split}
の関係を導くことができます。また、$\DL{\ff{1}{\alpha^n}=\alpha^{-n}}$ の関係があるため、
\begin{split}
\ff{1}{\alpha^n}=e^{-in\q} = \cos n\q-i\sin n\q
\end{split}
という式が成立することも覚えておきましょう。
オイラーの公式の図形的意味
最後に、有名な次の公式の図形的意味について考察します。
\begin{split}
e^{i\pi} = -1 = i^2
\end{split}
さて、この式の右辺は $i^2$ とでき、複素平面上では、
$\DL{i=\left(\cos \ff{\pi}{2}+i\sin\ff{\pi}{2} \right)}$ の対応関係があるため、
\begin{split}
e^{i\pi} = i^2 = \left(\cos \ff{\pi}{2}+i\sin\ff{\pi}{2} \right)^2
\end{split}
のような関係式を導けます。
ところで、虚数単位 $i$ を掛けることは、複素平面上では、$\DL{\ff{\pi}{2}}$ 回転する操作に対応します。
すなわち、$i^2$ という計算は、反時計回りに90度回転する操作を2回行うことに相当するといえます。
つまり、$1$ に $i^2$ を掛けることは、実軸上の $1$ からスタートして、180度進んだ $-1$ にゴールすることに対応します。これより、
\begin{split}
i^2 = e^{i\pi} = -1
\end{split}
となるのです。