これまでは複素数自身の性質について調べてきました。
今回はそこから一歩進んで、複素数を使って関数を表すことを考えてみましょう。
複素関数とは?
初めに、複素数を変数に持つような関数、複素関数の定義から解説します。複素関数は、次のように定義される関数のことです。
複素関数の定義に現れる $f$ は何らかの規則(操作)を表します。たとえば、『$z$ を2乗する』や『$z$ を三角関数の変数とする』などの規則です。
複素関数と言えど、形式的には実数の世界での関数、実数関数と同じになることが分かります。
ただし、$z=x+iy, w=u+iv$ の関係にあるため、複素関数は実数 $x,y$ と $u,v$ の2変数同士の対応関係になるという違いがあります。
複素関数の定義域と値域
$z$ と $w$ を別々の複素平面として考えると複素関数の幾何学的な関係が見やすくなるため、便利です。
また、これらの独立変数 $z$ の値が変動する平面を $z$ 平面、従属変数 $w$ が変動する平面のことを $w$ 平面と呼びます。
実数関数では、関数の定義域と値域を考えましたが、複素関数の世界でも同様に考えることができます。
ただし、複素関数の世界では、定義域 $D$ を $z$ 平面に設定し、値域 $W$ を $w$ 平面上に設定する違いがあります。
一価関数と多価関数とは?
実数の世界に存在する実数関数では、一つの変数に対して、一つの出力が対応しますが、複素関数ではそのような関係は必ずしも成立しません。
複素関数では、$1$ つの $z$ に対して、$1$ つの $w$ が対応するような関数のことを$1$価関数、$1$ つの $z$ に対して、複数の $w$ が対応するような関数のことを多価関数と呼びます。
複素関数の例
複素関数の具体例を見ていきましょう。
$w=f(z)=|z|^2$
まずは、$w=f(z)=|z|^2$ の複素関数について考えてみます。
極形式を使って、$z=r(\cos\q+i\sin\q), w=R(\cos\phi+i\sin\phi)$ と表すと今回は考えやすくなります。さて、複素数の絶対値の関係より、$f(z)=z\bar{z}$ とできるので、これらを代入して計算すると、
\begin{split}
w&=z\bar{z} \EE
&= r^2(\cos\q+i\sin\q)(\cos\q-i\sin\q) \EE
&=r^2
\end{split}
となり、これより、$R=r^2, \phi=0$ となるので、 $w$ の虚部は $0$ になることが分かります。したがって、$w$ は実軸の正の範囲のみを移動することが分かります。
$w=f(z)=z^2$
次に、$w=f(z)=z^2$ の複素関数について考えてみます。$z=x+iy, w=u+iv$ とすると、複素関数は次のように表せます。
\begin{split}
w&=z^2 \EE
&= (x+iy)(x+iy) \EE
\therefore\,\,u+iv&=x^2-y^2+2xyi
\end{split}
これより、$u=x^2-y^2, v=2xy$ という対応関係になることが分かります。さて、$x=0$ のとき、$u=-y^2, v=0$ となり、$y=0$ のとき、$u=x^2, v=0$ となるので、$z$ 平面での実軸と虚軸は、$w$ 平面上で次のように変換されることが分かります。
これだけでは退屈なので、$y=\pm 1, \pm2$ の場合についても考えてみましょう。今、$t=\pm1, \pm2$ として、$y=t$ と置くと、
$u=x^2-t^2, v=2xt$ とできるので、$u=\DL{\ff{1}{4t^2}v^2-t^2}$ という関係式を導けます。
同様にして、$x=\pm 1, \pm2$ の場合を考えると、$u=-\DL{\ff{1}{4t^2}v^2+t^2}$ という関係式を導けます。以上の結果を用いて、$f(z)=z^2$ の $z$ 平面と $w$ 平面での対応をプロットすると、図のようになります。
式から分かるように、$z$ 平面上の2点 $\pm z$ は、$w$ 平面上では同じ1点に移されるため、$f(z)=z^2$ は多価関数であることが分かります。
また、$z$ 平面上で交点で直交していたグラフは、$w$ 平面上でも交点で直交していることが見て取れます。このように、$z$ 平面上での角度が保存されたまま $w$ 平面上に移されるような操作を等角写像と呼びます。
※ 等角写像は、複素関数が正則関数であるときに実行できます。等角写像は視覚的にも美しい変換ですが、実用的にも翼周りの流れを解析する際に利用されます。