ローラン展開とは、複素関数についての次のような級数展開のことをいいます。
ローラン展開は留数定理を導く基礎となるため、非常に重要な級数展開です。
正則関数の級数展開
まずは、正則関数の級数展開について考えます。級数展開を行う領域として、$a$ を中心とする円 $C$ について考えます。
今、円の半径を $r$ とし、$C$ の内部に点 $z$ を取ると距離は次のように表せます。
$$
\left\{
\begin{split}
|w-a|=r\EE
|z-a|<r
\end{split}
\right.
$$
上式より、$\DL{\left|\ff{z-a}{w-a}\right|<1}$ と評価できます。
ここでべき級数の収束半径に関する結果を思い出すと、
\begin{split}
\ff{1}{1-\ff{z-a}{w-a}}=\ff{w-a}{w-z}=\sum_{n=0}^{\infty}\left( \ff{z-a}{w-a} \right)^n
\end{split}
とできることが分かります。
今後の展開を見据えて、$\DL{\ff{1}{w-z}}$ について考えると、
\begin{split}
\ff{1}{w-z}=\ff{1}{w-a}\sum_{n=0}^{\infty}\left( \ff{z-a}{w-a} \right)^n
\end{split}
のようになります。
この結果をコーシーの積分公式に適用すると、
\begin{split}
f(z)&=\ff{1}{2i\pi}\oint_C \ff{f(w)}{w-z} \diff w \\[6pt]
&=\ff{1}{2i\pi}\oint_C \left\{\ff{f(w)}{w-a}\sum_{n=0}^{\infty}\left( \ff{z-a}{w-a} \right)^n\right\}\diff w \\[6pt]
&=\ff{1}{2i\pi}\sum_{n=0}^{\infty}\left\{ \oint_C \ff{f(w)}{(w-a)^{n+1}}\diff w\right\}(z-a)^n
\end{split}
と変形でき、さらにグルサの定理を利用すると、
\begin{split}
f(z)&=\sum_{n=0}^{\infty}\ff{f^{(n)}(a)}{n!}(z-a)^n
\end{split}
と誘導できます。驚くようなことが起きました。$f(z)$ は任意の正則関数であるため、この結果から、どんな正則関数でも常にべき級数展開できると言えるのです。
正則関数のべき級数展開はテイラー展開と同じ形式となっていることが分かります。
次に、特異点を含む領域で複素関数がどのように級数展開できるのかを考察していきます。
ローラン展開
次に非正則関数のべき級数展開について考えてみましょう。
非正則関数の級数展開
図のように、特異点 $a$ を中心とする二つの円 $C_1, C_2$ を考えます。なお、$C_1$ 内の特異点は $a$ のみとします。
今、二つの円に挟まれた領域 $D$ 内では $f(z)$ は正則であるため、コーシーの積分公式が適用でき、$D$ 内のある点 $z$ に対しては次のような式が成立します。
\begin{split}
f(z)&=\ff{1}{2i\pi}\oint_{C_2} \ff{f(w)}{w-z} \diff w-\ff{1}{2i\pi}\oint_{C_1} \ff{f(w)}{w-z} \diff w
\end{split}
さて、右辺第一項に関しては $z$ が円の内部に存在するため、最初の正則関数のべき級数展開を適用できます。
問題となるのは右辺第二項です。このべき級数展開を求めるために、円の外側での級数展開について考える必要があります。
点 $w$ が $C_1$ 上に存在するとき、常に $\DL{\left| \ff{w-a}{z-a} \right|<1}$ となるので、
\begin{split}
\ff{1}{w-z}&=\ff{-1}{(z-a)-(w-a)} \EE
&= -\ff{1}{z-a}\cdot\ff{1}{1-\ff{w-a}{z-a}} \EE
&= -\ff{1}{z-a}\sum_{n=0}^{\infty}\left( \ff{w-a}{z-a} \right)^n\EE
&= -\ff{1}{z-a}\sum_{n=0}^{\infty}\left( \ff{z-a}{w-a} \right)^{-n}
\end{split}
とできることが分かります。
これより、第二項の級数展開を
\begin{split}
-\ff{1}{2i\pi}\oint_{C_1} \ff{f(w)}{w-z} \diff w &= \sum_{n=0}^{\infty}\ff{f^{(n)}(a)}{n!}(z-a)^{-n-1}
\end{split}
と求められます。
ローラン展開
以上の結果をまとめると $f(z)$ を以下の級数展開で表すことができます。
\begin{split}
f(z)&=\sum_{n=0}^{\infty}\ff{f^{(n)}(a)}{n!}(z-a)^{-n-1}+\sum_{n=0}^{\infty}\ff{f^{(n)}(a)}{n!}(z-a)^n
\end{split}
今回、$C_1$ の半径について制約は設けていないので、限りなく $r$ を小さくすることができます。
したがって、特異点 $a$ を除いた領域で上式が適用できることが分かります。目的としていた非正則関数のべき級数展開を導くことができました。
このような特異点まわりの級数展開をローラン展開といいます。
ローラン展開では、第一項の部分を主要部、第二項の部分を正則部と呼びます。こう呼ぶ理由については、留数定理について考える際に明らかになります。
また、領域全体で正則な場合、主要部は $0$ となるので、ローラン展開は領域全体で正則な関数に対しても適用できることが分かります。
ローラン展開の具体例
ローラン展開の表式が得られたので、具体的な複素関数のローラン展開を導いてみましょう。
$(1)$ $\DL{f(z)=\ff{1}{z(1-z)}}$ の $z=0$ 周りでのローラン展開
\begin{split}
f(z)&=\ff{1}{z(1-z)} \EE
&=\ff{1}{z}(1+z+z^2+\cdots) \EE
&= \ff{1}{z}+1+z+z^2+\cdots
\end{split}
式変形の途中で級数展開の重要公式を用いています。
$(2)$ $\DL{f(z)=\ff{z-2}{(z+1)(z+2)}}$ の $z=-2$ 周りでのローラン展開
\begin{split}
f(z)&=\ff{z-2}{z+2}\cdot \ff{1}{(z+2)-1}\EE
&= -\ff{z-2}{z+2}\cdot \ff{1}{1-(z+2)}\EE
&= -\ff{z-2}{z+2}(1+(z+2)+(z+2)^2+\cdots)
\end{split}
ここで、$w=z+2$ とすると、
\begin{split}
f(z)&=f(w)=-\ff{w-4}{w}(1+w+w^2+\cdots) \EE
&= \ff{1}{w}(4+3w+w^2+3w^3+\cdots)\EE
\therefore\,\,f(z)&= \ff{4}{z+2}+\sum_{n=0}^{\infty}3(z+2)^n
\end{split}
とローラン展開できます。
$(3)$ $\DL{f(z)=z^2\cos\ff{1}{z}}$ の $z=0$ 周りでのローラン展開
$\cos z$ は複素平面全体に渡って正則な関数であるため $z=0$ にて、
\begin{split}
\cos z&=1+(\cos z)’z+\ff{(\cos z)^{”}}{2!}z^2+\ff{(\cos z)^{\prime\prime\prime}}{3!}z^3+\cdots \EE
&= 1-\ff{z^2}{2!}+\ff{z^4}{4!}-\ff{z^6}{6!}+\cdots
\end{split}
と級数展開できます。なお、複素三角関数の微分についてはこちらで解説しています。
この結果から $f(z)$ の級数展開は、
\begin{split}
z^2\cos\ff{1}{z} &=z^2\left(1-\ff{1}{2!}\ff{1}{z^2}+\ff{1}{4!}\ff{1}{z^4}-\ff{1}{6!}\ff{1}{z^6}+\cdots \right) \EE
&= z^2-\ff{1}{2!}+\ff{1}{4!}\ff{1}{z^2}-\ff{1}{6!}\ff{1}{z^4}-\cdots
\end{split}
となります。
トリッキーな式展開でしたが結果として級数展開表示が得られたため、ローラン展開を得られたことが分かります
$(4)$ $\DL{f(z)=\ff{1-\cos z}{z^2}}$ の $z=0$ 周りでのローラン展開
(3) と同様に $\cos z$ の級数展開を利用すると、
\begin{split}
\ff{1-\cos z}{z^2} &=\ff{1}{z^2}\left\{ 1-\left(1-\ff{z^2}{2!}+\ff{z^4}{4!}-\ff{z^6}{6!}+\cdots \right) \right\} \EE
&= \ff{1}{2!}-\ff{z^2}{4!}+\ff{z^4}{6!}-\cdots
\end{split}
となり、$z=0$ でのローラン展開を上のようにできます。
真正特異点と除去可能な特異点
例題(3)のように、ローラン展開が負べきの項が無限に続く結果となることがあります。このように、主要項の係数が $0$ とならない項が無限個あるような特異点を真正特異点と呼びます。
一方、例題(4)のように、主要部の係数が全て $0$ となるような特異点を除去可能な特異点と呼びます。