今回は数列の収束と発散について考え、有界・絶対収束・収束半径などの用語について解説します。
また、べき級数を定義し、べき級数が収束する条件についても解説します。
収束・有界・絶対収束とは?
数列とは?
収束や発散について考える前に、その土台となる数列について解説を行います。さて、数列は次のように定義されます。
数列の性質を考えることは関数の級数展開を考える際に土台となります。
収束・発散とは?
次に、収束について解説します。数列の収束は次のように定義されます。
このように、数列 $\{a_n\}$ に対して、ある複素数 $\A$ が存在し、$n$ を大きくするとき $a_n$ が $\A$ にいくらでも近づくとき、$\{ a_n\}$ は極限値 $\A$ に収束するといいます。
このとき、$\DL{\lim_{n\to\infty}a_n=\A}$ のように記述します。一方、$\{a_n\}$ が有限な値に収束しないとき、数列は発散するといいます。
発散には無限に発散する場合や、振動して収束しないパターンなどがあります。さて、$\{a_n\}$ が収束するための必要十分条件は、コーシーの収束条件として知られています。
有界とは?
ある数列 $\{a_n\}$ が全ての $n$ に対して $|a_n|\leq M$ となるような正の数 $M$ が存在するとき、$\{a_n\}$ は有界であるといいます。
級数とは?
数列の各項を足し合わせると級数を考えることができます。級数は次のように定義されます。
数列 $\{a_n\}$ が与えられたとき、次のように形式的な和を作ったものを(無限)級数と呼びます。
\begin{split}
a_0+a_1+\cdots+a_k+\cdots= \sum_{k=0}^{\infty}a_k
\end{split}
また、第 $n$ 項までの和を $S_n$ と表し、これを部分和と呼びます。
\begin{split}
S_n=\sum_{k=0}^{n}a_k
\end{split}
級数に対しても収束や発散を考えることができ、$\{S_n\}$ が極限値に収束するとき、級数は収束するといい、収束しない場合は発散するといいます。
$S_{n+k}-S_n=a_{n+1}+\cdots+a_{n+k}$ であることに注意すると、$\{S_n\}$ が収束するための必要十分条件はコーシーの収束条件より次のように表せます。
絶対収束とは?
各項を絶対値で挟んだ次のような級数を考えます。
\begin{split}
\sum_{k=0}^{\infty}|a_k|=|a_0|+|a_1|+\cdots+|a_k|+\cdots
\end{split}
さて、$\DL{\sum_{k=0}^{\infty}|a_k|}$ が収束するとき、$\DL{\sum_{k=0}^{\infty}a_k}$ は絶対収束するといいます。
級数が絶対収束するとき、級数の収束条件を次のようにできますが、
\begin{split}
|a_{n+1}|+\cdots+|a_{n+k}|<\eps
\end{split}
これは、三角不等式から
\begin{split}
|a_{n+1}+\cdots+a_{n+k}|<|a_{n+1}|+\cdots+|a_{n+k}|
\end{split}
と言えるので、絶対収束するとき、級数 $\DL{\sum_{k=0}^{\infty}a_k}$ も収束することが分かります。このように、絶対収束は収束よりも厳しい条件であることが分かります。
三角不等式と呼ばれる複素数の絶対値に関する関係式について解説します。
2つの複素数 $\A, \Be$(アルファ、ベータ)が複素平面上で図のように与えられるとし、
それらの和と差を $\gamma, \delta$(ガンマ、デルタ)とします。
このとき、$\gamma=\A+\Be, \delta=\A-\Be$ と表せます。
複素数の絶対値、$|\A|, |\Be|, |\gamma|, |\delta|$ についての大小関係を考えていきましょう。
まず、$|\gamma|=|\A+\Be|$ と $|\A|, |\Be|$ の大小関係を考えます。
図より次のような不等号が成立します。
\begin{eqnarray}
|\gamma|=|\A+\Be|\leq|\A|+|\Be|\tag{1}
\end{eqnarray}
等号が成立するのは、$\A$ と $\Be$ が一直線に並ぶときのみです。
また、次の関係が成立することも分かります。
\begin{eqnarray}
&|\A|&\leq|\gamma|+|\Be|=|\A+\Be|+|\Be| \EE
\therefore\,\, &|\A|&-|\Be|\leq|\A+\Be|=|\gamma| \tag{2}
\end{eqnarray}
これらより、
\begin{eqnarray}
|\A|-|\Be|\leq|\A+\Be|\leq|\A|+|\Be| \tag{3}
\end{eqnarray}
という不等式が得られます。
次に、$|\delta|=|\A-\Be|$ と $|\A|, |\Be|$ の関係について考えます。
この大小関係についても、同様に考えることができ、
\begin{eqnarray}
|\A|-|\Be|\leq|\A-\Be|\leq|\A|+|\Be| \tag{4}
\end{eqnarray}
という不等式を導けます。厳密な証明については後ほど行います。
これらの不等式は三角不等式と呼ばれます。
【三角不等式の証明】
式(3)の不等式について証明します。
不等式の右側に関しては、$0\leq |\A|+|\Be|-|\A+\Be|$ であることを示せば良く、
まず、 $(|\A|+|\Be|)^2-|\A+\Be|^2$ について計算してみると次のようになります。
\begin{split}
(|\A|+|\Be|)^2-|\A+\Be|^2 &= |\A|^2+2|\A||\Be|+|\Be|^2-|\A+\Be|^2 \EE
&= \A\bar{\A}+2|\A||\Be|+\Be\bar{\Be}-(\A+\Be)(\bar{\A}+\bar{\Be}) \EE
&= 2|\A||\Be|-(\A\bar{\Be}+\bar{\A}\Be)
\end{split}
※ 計算の途中で複素数の絶対値と共役複素数の関係を用いています。
さて、$a,b,c,d$ を実数として、$\A=a+bi, \Be=c+di$ とおくと上式は、
\begin{split}
2|\A||\Be|-(\A\bar{\Be}+\bar{\A}\Be)&=2\sqrt{a^2+b^2}\sqrt{c^2+d^2}-2(ac+bd)
\end{split}
となり、この式の右辺を2乗したものをさらに考えると、
\begin{split}
&\quad\big\{\sqrt{a^2+b^2}\sqrt{c^2+d^2}-(ac+bd)\big\}^2 \EE
&=(a^2+b^2)(c^2+d^2)-(ac+bd)^2 \EE
&=(ad-bc)^2\geq 0
\end{split}
さらに、$ad-bc$ は実数であるため、その2乗は必ず $0$ 以上になります。
したがって、$2|\A||\Be|-(\A\bar{\Be}+\bar{\A}\Be)\geq 0$ といえ、これより、
$0\leq |\A|+|\Be|-|\A+\Be|$ となることが示されました。
不等号の左辺については、改めて $\A=\A+\Be, \Be=-\Be$ とすると、
\begin{split}
&|(\A+\Be)-\Be|\leq|\A+\Be|+|-\Be| = |\A+\Be|+|\Be| \\[6pt]
&\qquad\qquad\quad \therefore\,\,|\A|-|\Be|\leq|\A+\Be|
\end{split}
と計算でき、左辺についても証明できました。
式(4)についても証明します。
$\eps=\A+\Be$ とすると、$\A=\eps-\Be$ となり、これを $|\A+\Be|\leq|\A|+|\Be|$ に代入すると、
\begin{split}
&|\A+\Be|=|\eps|\leq|\A|+|\Be| = |\eps-\Be|+|\Be| \\[6pt]
&\qquad\qquad\quad \therefore\,\,|\eps|-|\Be|\leq|\eps-\Be|
\end{split}
となり、$|\A|-|\Be|\leq|\A-\Be|$ であることが証明できます。右辺に関しては、$\Be=-\Be$ とすれば、証明できます。
収束半径とは?
一様収束とは?
次に、関数列の収束について考えていきます。
関数列とは、点集合 $D$ で定義された関数 $f_n(z)$ を数列とした $\{f_n(z) \}$ のことをいいます。
さて、$\DL{\lim_{n\to\infty}f_n(z)}$ が存在するならば、この極限値を $f(z)$ と表すことにします。また、関数列が次のような条件を満たすとき、関数列は一様収束するといいます。
べき級数とは?
級数の中でも、$\DL{\sum_{n=0}^{\infty} a_n(z-b)^n}$ のことを特に(複素)べき級数と呼びます。
関数の級数展開を考える上でべき級数が鍵となります。なお、$b$ を $f(z)$ の『中心』と呼びます。
収束半径とは?
最後に $f(z)$ が収束する条件について考えてみましょう。まず、絶対収束について考えると、
\begin{split}
|f(z)|= \left| \sum_{n=0}^{\infty} a_n(z-b)^n\right|
\end{split}
となり、さらに三角不等式を適用すると、
\begin{split}
|f(z)|= \left| \sum_{n=0}^{\infty} a_n(z-b)^n\right|\leq \sum_{n=0}^{\infty}|a_n(z-b)^n| = \sum_{n=0}^{\infty}|a_n||(z-b)|^n
\end{split}
とできます。さて、$|z-b|<r$ なる領域に含まれている $z$ について考えてみます。この領域は円の公式から図のように表せます。
この領域内の $|f(z)|$ に対して以下の不等式が成立します。
\begin{split}
|f(z)|< \sum_{n=0}^{\infty}|a_n|r^n
\end{split}
この級数が収束しくれれば $f(z)$ も収束するといえます。また、$|f(z)|$ が収束するギリギリの値を収束半径と呼びます。
また、収束半径の範囲を収束円と呼びます。
収束半径の計算方法
次に、ある級数の収束半径を具体的に計算する方法を解説します。
$\overline{\lim}$ は上極限を表すとします。振動など数列が収束先を持たない場合にて、その数列を上から抑える正の数 $r$ が $1$ つ定まるとき、その値を上極限といいます。
収束半径の例題を次に示します。
$(1)$ $\DL{f(z)=\sum_{n=0}^{\infty}z^n}$
公式(1)を利用すると、収束半径は次のように求められます。($a_n=1$)
\begin{split}
\ff{1}{R}&=\overline{\lim_{n\to\infty}}\left|1 \right|^{\ff{1}{n}}\EE
&=1 \EE
\therefore R &=1
\end{split}
公式(2) を利用しても、$R=1$ と求められます。$\DL{\sum_{k=0}^{n}z^k}$ は等比数列の公式より $\DL{\ff{1-z^{k+1}}{1-z}}$ とできますが、$|z|>1$ のとき発散することからも収束半径が $1$ であることが理解できます。
$(2)$ $\DL{f(z)=\sum_{n=0}^{\infty}\ff{z^n}{n!}}$
$a_n=\DL{\ff{1}{n!}}$ であることに注意して公式(1)を利用すると、収束半径は次のように求められます。
\begin{split}
\ff{1}{R}&=\overline{\lim_{n\to\infty}}\left|\ff{1}{n!}\right|^{\ff{1}{n}}\EE
&=\overline{\lim_{n\to\infty}}\ff{1}{|n!|^{\ff{1}{n}}}\EE
&=0
\end{split}
これより、収束半径は $\infty$ であることが分かります。確認のため、収束半径を公式(2)も利用して求めてみます。
\begin{split}
R&=\lim_{n\to\infty}\ff{|\ff{1}{n!}|}{|\ff{1}{(n+1)!}|}\EE
&=\lim_{n\to\infty} (n+1) \EE
&=\infty
\end{split}
公式(2)を利用しても同じ結果が求められることが分かります。
さて、マクローリン展開より、$e^z=\DL{1+z+\ff{z}{2!}+\ff{z^3}{3!}+\cdots}$ とできるのですが、収束半径が $\infty$ であることから複素指数関数が複素平面全体に渡って定義できることが分かります。