物理学の話題は一旦置いておいて、複素数について解説します。
複素数を物理学のために学ぶモチベーションが最初は分からないかもしれませんが、その理由は、次第に明らかになっていきます。
ここでは、複素数から始めて複素関数論までを解説します。
ただし、複素数関数論の全てに対する解説ではなく、物理学との関係が深い部分に絞って解説を行います。
虚数単位とは?
複素関数論の世界に分け入る前に、基礎的な内容から復習します。
複素関数論の中心となるのは、複素数ですが、その複素数を構成するパーツの一つである、虚数について始めに考えていきます。
虚数の性質を見るために、二次方程式の解について考えていきます。
まず、次のような二次方程式の解を考えると、
\begin{split}
&x^2=1 \\
\therefore\,\,&x=\pm 1
\end{split}
となり、その解は $\pm 1$ であると言えます。また、その答えは実数であるといえます。
では、二次方程式の左辺を $-1$ としたとき、二次方程式の解はどのようになるでしょうか?
\begin{split}
&x^2=-1 \\
\end{split}
実数は $2$乗すると必ず正の実数になるという性質を持ちます。
したがって、実数の世界で考える限りでは、この方程式には解が無いと言えます。
とは言え、このままではつまらないので、$2$乗すると負になるような不思議な数を導入することにします。
すなわち、$i^2 = -1$ となるような数を導入すると、先の方程式の解は、次のように表せます。
\begin{split}
&x^2=-1 \\
\therefore\,\,&x=\pm i
\end{split}
$i$ は今までの数の世界(自然数・整数・実数)には属さない数のため、虚数という名前を付けることにします。
また、$i$ は虚数単位と呼ばれます。
例題として、次のような二次方程式を解きます。
\begin{split}
x^2&=-2 \\
&=(-1)\cdot 2\\
&=(\pm i)^2\cdot(\pm \sqrt{2})^2\\
\therefore\,\,x&=\pm \sqrt{2}i
\end{split}
虚数の計算の際には、(ー1)×(正の実数)のように分けることがポイントになります。
$-1$の部分については、虚数単位を使って $\pm i$ となり、正の部分については、いつも通りに計算すれば良いのです。
最後に合体させると、$\pm\sqrt{2}i$ のように答えを導くことができます。
複素数とは?
次に、以下のような二次方程式を考えてみましょう。
\begin{split}
&x^2+2x+3=0
\end{split}
これに平方完成を施すと、
\begin{split}
(x+1)^2+2&=0\\
(x+1)^2&=-2\\
\therefore\,\,(x+1)^2&=(\pm\sqrt{2} i)^2
\end{split}
となり、これより $x$ を、
\begin{split}
x&=-1\pm\sqrt{2} i
\end{split}
と求めることができます。
注目すべき点は、$x$ が実数と虚数の和として表示される点です。
このように、実数と虚数の和で表されるような数を複素数と呼びます。
$a=0$ であるとき、$\alpha=ib$ となりますが、このような複素数を特に純虚数と呼びます。
単に虚数というときは、$a\neq0$ であるような複素数を示します。
実部と虚部の記号について
複素数の定義から分かるように、複素数は実数と純虚数の部分からできています。
なお、実数部分のことを実部、純虚数部分のことを虚部と呼びます。
いちいち実部は $a$、虚部は $b$ と表記するのは面倒なため、次のような記号で実部と虚部を表記します。
共役複素数とは?
さて、虚部の符号を反転させた複素数のことを共役複素数といいます。
表記上では、複素数の上に線を引くことで共役複素数を表します。
共役複素数では、虚部の符号のみが反転することがポイントです。
複素数の絶対値とは?
複素数の”大きさ”は、複素数の絶対値として $|\alpha|$ のように表されます。
具体的には、次のように複素数の絶対値を定義します。
絶対値と共役複素数の関係
なお、絶対値は共役複素数を使ことで、次のような関係を導けます。
\begin{split}
\alpha\cdot \bar{\alpha} &= (a+ib)(a-ib)\\
&=a^2+i(ab-ab)-(i)^2b^2 \\
&= a^2+b^2\\
&=|\alpha|^2
\,
\end{split}
絶対値の公式
絶対値について次の公式が成立します。
証明を以下に示します。
まず、積については次のようになります。
\begin{split}
|\A \beta|^2 &= (\A\beta)\cdot\overline{\A\beta} \EE
&= \A\overline{\A}\cdot\beta\overline{\beta} \EE
&= |\A|^2|\beta|^2
\end{split}
$|\A \beta|>0, |\A|>0, |\beta|>0$ のため、$|\A \beta|= |\A||\beta|$ となります。
次に、商については次のように証明できます。
\begin{split}
\left|\ff{\A}{\beta}\right|^2 &= \left(\ff{\A}{\beta}\right)\cdot\overline{\left(\ff{\A}{\beta}\right)} \EE
&= \ff{\A}{\beta}\cdot\ff{\bar{\A}}{\bar{\beta}} \EE
&= \ff{\A\bar{\A}}{\beta\bar{\beta}}=\ff{|\A|^2}{|\beta|^2}
\end{split}
同様に $|\A \beta|>0, |\A|>0, |\beta|>0$ のため $\DL{\left|\ff{\A}{\beta}\right|=\ff{|\A|}{|\beta|}}$ となります。
複素数と四則演算の公式
複素数の四則演算について紹介します。
まずは、大前提となる等号の成立条件について解説します。
複素数の等号成立条件(相等条件)を次のように定義します。
定義から分かるように、二つの複素数が等号で結ばれるためには、実部と虚部同士が同時に等しくなる必要があることが分かります。
次に、複素数の四則演算を以下のように定期します。
商についての計算過程を解説します。
\begin{split}
\ff{\alpha}{\beta}&=\ff{a+ib}{c+id}\EE
&=\ff{(a+ib)(c-id)}{(c+id)(c-id)} \EE
&= \ff{(ac+bd)+i(bc-ad)}{c^2+d^2} \EE
\therefore\,\,\ff{\alpha}{\beta}&=\ff{ac+bd}{c^2+d^2}+\ff{bc-ad}{c^2+d^2}i
\end{split}
商の計算では、分母が実数になるように、共役複素数を掛けることがポイントになります。
複素数の指数法則
複素数の指数法則について紹介します。
複素数も実数の世界と同じように、指数法則が成立します。
ただし、複素数の指数法則は、指数が整数のときのみ成立します。
複素数の指数と、その幾何学的関係については、こちらで詳しく解説しています。
実数条件と純虚数条件
最後に、複素数の実数条件と純虚数条件について解説します。
実数条件とは、複素数が実数となる条件のことです。
複素数が実数となるとき、虚部は $0$ となるので、共役複素数との間に次のような関係が成立します。
続いて、純虚数条件とは、複素数が純虚数となるような条件のことです。
複素数が純虚数であるとき、実部は $0$ となるので、共役複素数との間に次のような関係が成立します。
複素数と物理学の接点
複素数が物理学の世界とどう関わるのかについて、少し触れます。
物理学の世界で最も基本となるのは、ニュートンの運動法則であり、そこから、運動方程式が導かれます。
さて、この運動方程式ですが、微分方程式で記述されることがポイントです。
例えば、減衰振動の場合、運動方程式は次のように記述されます。
\begin{eqnarray}
m\ff{\diff^2 x}{\diff t^2}+c\ff{\diff x}{\diff t}+kx &=& 0
\end{eqnarray}
この方程式の具体的な計算過程についてはこちらで解説しているため、詳細は省きますが、
$c^2 \,- 4mk < 0$ であるとき、微分方程式の解は、
\begin{eqnarray}
x= e^{\ff{-c-i\sqrt{4mk \,- c^2}}{2m}}+e^{\ff{-c+i\sqrt{4mk \,- c^2}}{2m}}
\end{eqnarray}
となります。
数式から分かるように、解が複素数を指数に持つ指数関数となるのです。
現実世界を対象にした方程式から、想像上の数である虚数が顔を出すことに疑問を感じる読者もいるでしょうが、
実は、オイラーの公式を通して複素数と三角関数の間には深い関係があることが知られており、
この公式を通して、解は物理的に意味のある式であることが分かるのです。
このように、複素数をきちんと利用することで、物理の深い解析ができることを今後示していきます。
特に、流体力学では複素関数論の威力が発揮されます。