今回は複素数の回転と拡大・縮小について解説します。なお、回転と拡大・縮小を併せた移動のことを、複素数の合成変換と呼び、次のように表せます。
今回は複素数の合成変換について見ていきます。まずは、複素数とベクトルの関連について解説していきます。
複素数とベクトル
さて、複素数同士の和の計算について考えてみます。例えば、複素数 $\A$ と $\Be$ があったとし、それぞれが $3+i, -2+3i$ であるとします。
このとき、$\gamma=\A+\Be$ を計算してみると、$\gamma=1+4i$ になります。
4点 $O, \A, \Be, \gamma$ を複素平面上にプロットし、これらの点を結ぶと、平行四辺形になることが分かります。
これより、複素数の和は、ベクトルの計算と同様に扱えることが分かります。複素数の和がベクトル計算と同じになるのは、今回の場合に限った特殊な例ではなく、一般の複素数の和を計算した場合でも、その結果はベクトルを合成した結果と一致します。
※ $a,b,c,d > 0$ とします。
なお、複素数の差についても同様に、ベクトルの合成結果と一致します。このように、ベクトルの合成を複素数の和と差の計算に持ち込めることがポイントになります。
複素数の回転移動
ここからは、ベクトルの世界では計算が難しく、複素数の世界であれば簡単に計算できることについて解説します。
その一つが、回転です。例えば、原点を中心に複素数 $z$ を $\q$(シータ)回転させ、$w$ に移動させたとします。このとき、$w$ がどのように表せるのかを考えます。
さて、ド・モアブルの定理から、$z$ と $w$ の間には次のように関係が成立します。
\begin{split}
w=z\cdot (\cos\q+i\sin\q)
\end{split}
さらに、オイラーの公式から、$e^{i\q}=\cos\q+i\sin\q$ とできるため、
\begin{split}
w=z e^{i\q}
\end{split}
となります。これより、回転は $\DL{\ff{w}{z}=e^{i\q}}$ と表せることが分かります。次に、$\A$ を中心として、図のように $z$ を回転させることを考えます。
このとき、$z$ と $\A$ の関係は先程のベクトル合成についての考察から、 $z=z’+\A$ とでき、$w=w’+\A$ とでき、
これより、$z’=z-\A, w’=w-\A$ とできます。このように変形することで、回転の中心を原点に移動させることができるのです。したがって、回転の様子は、
\begin{split}
\ff{w’}{z’} = \ff{w-\A}{z-\A} = e^{i\q}
\end{split}
と記述できます。
この式が一般の場合の回転を表す式となります。
複素数の拡大・縮小
次に複素数同士の相似、すなわち拡大・縮小について考えます。図のように、複素数 $z, w$ があり、その絶対値が $|z|=r_0, |w|=r_1$ と表せるとします。
このとき、極形式を使うと、 $z=r_0(\cos\q+i\sin\q), w=r_1(\cos\q+i\sin\q)$ と表せるので、
\begin{split}
\ff{w}{z}=\ff{r_1}{r_0}
\end{split}
という関係にあることが分かります。
次に、始点を $\A$ に移動させた場合の複素数の拡大・縮小について考えましょう。
回転について考えたように、始点を原点に移動させると最初の状況と一致するため、移動後の点を $z’, w’$ として、
\begin{split}
\ff{w’}{z’}=\ff{r_0}{r_1}
\end{split}
とできます。今、$z’=z-\A, w’=w-\A$ の関係があるため、
\begin{split}
\ff{w-\A}{z-\A}=\ff{r_0}{r_1}
\end{split}
となります。
この式が一般の場合の複素数の拡大と縮小を表します。
複素数の合成変換
最後に、複素数の回転と拡大・縮小を一度に行ったとき、どのように記述できるのかについて考えます。
考えやすくするため、回転→拡大・縮小の順で変換を行ったとします。まず、回転については、$e^{i\q}$ を掛ければ良いので、
\begin{split}
\ff{w-\A}{z-\A} = e^{i\q} \\
\end{split}
とでき、この結果に対し、拡大と縮小を施すので、$\DL{\ff{r_1}{r_0}=r}$ とすると、
\begin{split}
\ff{w-\A}{z-\A} = re^{i\q} \\
\end{split}
できます。以上より、回転と拡大・縮小を同時に行ったときの結果が導けました。このような変換を複素数の合成変換と呼びます。