リーマン球面と無限遠点|複素数から実数への変換【複素解析】

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複素数と実数の世界の対応関係を、視覚的に分かりやすく示してくれるリーマン球面について解説します。

複素平面とリーマン球面の変換公式

複素平面 $C$ 上の複素数を $z$、
リーマン球面 $K$ 上の座標を $z'(\xi,\eta,\zeta)$ とする。

このとき、$z$ と $z’$ の変換公式は次のように表せる。

$$
\left\{
\begin{split}
\,\xi &= \ff{1}{2}\ff{z+\bar{z}}{z\bar{z}+1} \\[6pt]
\,\eta &= \ff{1}{2i}\ff{z-\bar{z}}{z\bar{z}+1} \\[6pt]
\,\zeta&=\ff{z\bar{z}}{z\bar{z}+1}
\end{split}
\right.
$$

導入として複素平面から複素平面への変換について考え始めます。

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複素数の反転とは?

さて、複素数の和と差、そして積の幾何学的な関係についてはこちらで解説しましたが、

商についての幾何学的対応は未解明でした。まずは複素数の商とその幾何学的関係について考えてみます。

複素数 $z$ があり、その偏角絶対値をそれぞれ $\q$(シータ)、$|z|=r$ とすると、

極形式を使って、$z=r(\cos\q+i\sin\q)$ と表せることは既に学んだとおりです。

では、$w=\DL{\ff{1}{z}}$ について考えてみましょう。

この式だけでは $w$ の複素平面上での位置は分かりませんが、極形式ド・モアブルの定理を用いることで位置が明らかになります。

複素数の反転と鏡像

すなわち、$w=\DL{\ff{1}{z}}=\DL{\ff{1}{r}\big(\cos(-\q)+i\sin(-\q)\big)}$ とできるので、

これより、$w$ は複素平面上にて図のようにプロットできることが分かります。

合成変換の結果と似ていますが、絶対値が逆数となること、偏角が実軸と対称の位置に移る点が異なります。

複素数の反転と平面の対応関係

ところで、$z’=\DL{\ff{1}{r}(\cos\q+i\sin\q)}$ なる複素数を考えると、

$z’$ の絶対値は $\DL{\ff{1}{r}}$ であり偏角が変わらないため、$z’$ は線分 $Oz$ 上にあることが分かります。

このように元の複素数の絶対値が逆数の関係となる複素数のことを、反転と呼びます。

すなわち、$z$ と $z’$ は反転の関係にあると言います。

次は、$r$ の大きさについて場合分けし、反転の幾何学的関係について考えていきます。

まず、$r>1$ のときについて考えます。

この場合は、$\DL{\ff{1}{r}<1}$ となるため、$z’$ は単位円の内側に移動することが分かります。

反転と領域の対応関係

一方、$r<1$ の場合を考えると、$\DL{\ff{1}{r}>1}$ となるので、$z’$ は単位円の外側に移動することが分かります。

反転と領域の対応関係

この操作を全ての複素数について行うと、上図のように斜線部の領域が単位円を挟んで転写されるような状態となります。

このように $z$ と $z’$ は単位円を挟んで鏡写しのような関係になっているため、$z’$ は $z$ の単位円に関して鏡像である』とも言います。

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複素平面の変換

複素数 $z$ が単位円を挟んで $z’$ に関して鏡像の関係になるという先程の事実は、見方を変えると、ある複素平面を違う複素平面に変換しているとも言えることに気が付きます。

では、$w=\DL{\ff{1}{z}}$ という関係は複素平面上ではどのような変換に対応しているのか考えてみましょう。

分かりやすくするため、変換前の複素平面を $z$ 平面、変換後の複素平面を $w$ 平面と呼ぶことにします。

ただし、$x,y,u,v, r, R, \q, \phi$ を実数として、

$z=r(\cos\q+i\sin\q)=x+iy, w=R(\cos\phi+i\sin\phi)=u+iv$ であるとします。

4パターンに分けて変換の結果を考えます。ただし、$z\neq 0$ とします。

まず、$r>1$ かつ $0\leq\q\leq \pi\,(x>1)$ の場合ですが、

このとき、$w$ は、$R=\DL{\ff{1}{r}<1}$ かつ、$\phi=-\q$ となるので、

$z$ 平面から $w$ 平面への変換の様子は図のようになります。

複素平面の変換

複素平面上側の単位円より外側の領域が、$w$ 平面の単位円の下半分に圧縮されたような状態になることが見て取れます。

次に、$r<1,\, 0\leq\q\leq \pi\,(x>1)$ のパターンでは、$z$ 平面は $w$ 平面に図のように変換されます。

複素平面の変換

他のパターンに対しても同様にして変換を行うと、次のようになります。

複素平面の変換
複素平面の変換

今は $w=\DL{\ff{1}{z}}$ という関係に従って、複素平面の変換を行っているので良いですが、

一般の変換に対しても考えやすいように、変換を $f(z)=\DL{\ff{1}{z}}$ という関数として記述することにすることにします。

すると、$z$ 平面から $w$ 平面への変換を $f$ による変換と見ることができます。明示的に示すと、図のようになります。

原点と無限遠点の変換

さて、問題は原点 $z=0$ の $w$ 平面への変換です。

原点を $\DL{w=\ff{1}{z}}$ に従い、変換しようとすると答えは無限となってしまうので、 $z=0$ での変換を通常は考えることができません。

が、このままでは不便なため、$z=0$ での変換も行えるように、無限遠点と呼ばれる仮想的な点を導入することとします。

すなわち、$z=0$ にて、$w=\DL{\ff{1}{z}=\infty}$ と定義すると、$z$ 平面での原点は、$w$ 平面での無限遠点として変換できるようになります。

変換の様子は、図のようになります。

複素平面の変換と無限遠点の関係

逆に、$z$ 平面での無限遠点は、$w$ 平面の原点に変換することができます。

複素平面の変換と無限遠点の関係
拡張された複素平面とは?

無限遠点 $\infty$ を含めた複素平面を『拡張された複素平面』と呼ぶ。
一方、無限遠点を含まない複素数平面を『有限複素平面』と呼ぶ。

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リーマン球面とは?

いよいよ、複素数と実数の世界との対応関係があることを視覚的に分かりやすく示すリーマン球面について解説していきます。

まず、図のように、複素平面、$x,y$ 平面に垂直方向の軸を足した空間を考えます。

そして、複素平面 $C$ 上の原点 $O$ に接し、直径が $1$ の球面 $K$ を作ります。

複素平面と実数の軸を持つ三次元空間が重ね合わさっていることがポイントとなります。

リーマン球面

次に、$C$ 上の複素数 $z$ と球の頂点 $\RM{B}(0,0,1)$ を結ぶと、球面 $K$ 上に交点 $z’$ が現れますが、図から明らかにように、$z$ と $z’$ は $1:1$ 対応することが分かります。

なお、点 $\RM{B}$ は複素平面の無限遠点に対応します。

このような対応関係のことを、専門用語では立体射影と呼びます。

立体射影を使うと、複素平面の世界と実数の世界を結びつけられるようになります。

そして、この球面 $K$ をリーマン球面と呼びます。

リーマン球面と複素数の対応

リーマン球面と、複素数の対応関係を見ていきましょう。

まず、$z’$ の座標を $(\xi,\eta,\zeta)$ とし、これと $z(x,y,0)$ との対応関係を調べます。

今、$\triangle \RM{ABz’}$ と $\triangle \RM{OBz}$ は相似であるため、

\begin{split}
\ff{x}{\xi}=\ff{y}{\eta}=\ff{1}{1-\zeta}
\end{split}

上式より、

$$
\left\{
\begin{split}
&x=\ff{\xi}{1-\zeta} \EE
&y=\ff{\eta}{1-\zeta} \EE
\end{split}
\right.
$$

となります。

ここで、$\overrightarrow{Bz}$ と $\overrightarrow{Oz’}$ について考えると、

$$
\left\{
\begin{split}
&\,\,\overrightarrow{Bz}=
\left(
\begin{array}{c}
x \\
y \\
-1
\end{array}
\right)
\\[6pt]
&\,\,\overrightarrow{Oz’}=
\left(
\begin{array}{c}
\,\xi \,\\
\eta \\
\zeta
\end{array}
\right)
\end{split}
\right.
$$

と表せますが、今、二つのベクトルは直交しているので、その内積は $0$ となります。

したがって、次の式が成立し、

\begin{split}
\overrightarrow{Bz}\cdot \overrightarrow{Oz’} &=& x\xi+y\eta-\zeta=0
\end{split}

$\xi=(1-\zeta)x, \eta=(1-\zeta)y$ であるので、これを上式に代入すると $\zeta$ を次のように求めることができます。

\begin{split}
&(1-\zeta)x^2+(1-\zeta)y^2-\zeta=0 \EE
&\therefore\,\,\zeta=\ff{x^2+y^2}{x^2+y^2+1}
\end{split}

$\xi, \eta$ についても同様に計算でき、

$$
\left\{
\begin{split}
\,\xi &= \ff{x}{x^2+y^2+1} \\[6pt]
\,\eta &= \ff{y}{x^2+y^2+1}
\end{split}
\right.
$$

と求めることができます。

さて、$|z|$ の絶対値について考えると、$x^2+y^2=|z|^2=z\bar{z}$ の関係があるため、

次のように表すことができます。

$$
\left\{
\begin{split}
\,\xi &= \ff{1}{2}\ff{z+\bar{z}}{z\bar{z}+1} \\[6pt]
\,\eta &= \ff{1}{2i}\ff{z-\bar{z}}{z\bar{z}+1} \\[6pt]
\,\zeta&=\ff{z\bar{z}}{z\bar{z}+1}
\end{split}
\right.
$$

以上より、複素平面とリーマン球面の変換公式を次のように表せます。

複素平面とリーマン球面の変換公式

複素平面 $C$ 上の複素数を $z$、
リーマン球面 $K$ 上の座標を $z'(\xi,\eta,\zeta)$ とする。

このとき、$z$ と $z’$ の変換公式は次のように表せる。

$$
\left\{
\begin{split}
\,\xi &= \ff{1}{2}\ff{z+\bar{z}}{z\bar{z}+1} \\[6pt]
\,\eta &= \ff{1}{2i}\ff{z-\bar{z}}{z\bar{z}+1} \\[6pt]
\,\zeta&=\ff{z\bar{z}}{z\bar{z}+1}
\end{split}
\right.
$$

リーマン球面と複素平面の例題

得られた変換公式を使って、複素平面とリーマン球面の対応関係を調べてみましょう。

まず、虚数単位 $i$ は公式から次のように変換できます。
\begin{split}
(\xi,\eta,\zeta)= \left(0, \ff{1}{2}, \ff{1}{2}\right)
\end{split}

次に、$1+i$ について考えると、変換公式より次のように計算できます。

\begin{split}
(\xi,\eta,\zeta)= \left( \ff{1}{3},\ff{1}{3}, \ff{2}{3}\right)
\end{split}

注目すべき点は、複素数がリーマン球面上では実数として表せる点です。

このように、複素数と実数の世界は互いに行き来できる関係にあるのです。

このことについては改めて考えていきます。

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