次のような変換を一次分数変換と呼びます。
今回は、一次分数変換・円円対応について解説し、例題について解説します。
一次分数変換とは?
さて、$f(z), g(z)$ を整関数(=複素平面全体で正則な関数のこと)とします。このとき、 $h(z)=\DL{\ff{f(z)}{g(z)}}$ となる関数を有理関数と呼びます。
このような有理関数の中で特に、$f(z)=az+b, g(z)=cz+d$ と1次関数で $h(z)$ が構成されるとき、$h(z)$ を一次分数関数と呼びます。
そして、一次分数関数による変換を一次分数変換と呼びます。
一次分数変換の幾何学的対応
ここからは、一次分数変換の複素平面上での幾何学的対応について考えていきます。一次分数変換を $z$ 平面から $w$ 平面への対応関係として見ると次のように表せます。
\begin{split}
w= \ff{az+b}{cz+d}
\end{split}
このままでは分かりづらいため一次分数関数を分解します。一次分数関数に対して分解を実行すると、次の2パターンに分けられることに気が付きます。
$$
\left\{
\begin{split}
(1)\,\,\,w&=\ff{a}{d}z+\ff{b}{d}=Az+B\quad(c=0)\\[6pt]
(2)\,\,\,w&=\ff{\ff{bc-ad}{c^2}}{z+\ff{d}{c}}+\ff{a}{c}= \ff{A}{z+B}+C\quad(c\neq0)\EE
\end{split}
\right.
$$
1つ目のパターンの変換については、それほど難しくはありません。
$Az+B$ は、複素数とベクトル計算の対応関係から、次のような幾何学的対応になることが分かります。
2つ目のパターンは少々難しいですが、3ステップに分解して考えることで幾何学的対応を導けます。
すなわち、$z’=z+B,\,z^{”}=\DL{\ff{A}{z’}},\,w=z^{”}+C$ のそれぞれに対して変換を行っていきます。まず $z’=z+B$ について考えると 左図のように $z’$ が平行移動されることが分かります。
次に、$\DL{z^{”}=\ff{A}{z’}}$ についてですが、反転と呼ばれる操作と同じであることに気が付けば変換後の位置を割り出せます。ただし、今回は反転後に $A$ 倍した位置に移動させなければなりません。したがって、$z^{”}$ の位置は真ん中の図の位置に移動されることが分かります。
最後の $w=z^{”}+C$ ですが、これも平行移動であるため変換後の位置は簡単に求められます。以上、3つの変換を併せて $w=\DL{\ff{A}{z+B}+C}$ の変換結果は右図のようになるのです。
さて、$B=C=0, A=r^2$ とすると一次分数変換は $\DL{\ff{r^2}{z}}$ となります。この形は鏡像の変換であることに注意してください。このことから、一次分数変換は鏡像変換の拡張となっていることも分かります。
円円対応とは?
一次分数変換から円円対応という関係を導けます。
円円対応の証明を次に示します。
円と直線の方程式は次のように置けます。ただし、複素数を $\A, z$、実数を $c_1, c_2$ とします。
\begin{split}
c_1z\bar{z}+\bar{\A}z+\A \bar{z}+c_2=0
\end{split}
先程の例から分かるように、一次分数変換は $az$ と $\DL{\ff{b}{z}}$ に分解できます。$w=az$ に関しては、円円対応が成立することは明らかです。
そのため、$\DL{\ff{b}{z}}$ について証明すれば良いことが分かります。今、$w=\DL{\ff{b}{z}}$ として、上式に代入すると、
\begin{split}
c_1\ff{b}{w}\ff{b}{\bar{w}}+\bar{\A}\ff{b}{w}+\A \ff{b}{\bar{w}}+c_2=0
\end{split}
となり、
\begin{split}
c_2w\bar{w}+b\A w+b\bar{\A}\bar{w}+b^2c_1=0
\end{split}
と整理できます。この方程式は円と直線の方程式であることから、円円対応を証明できました。
円円対応と等角写像
さて、正則関数の判定条件から $w$ は正則関数といえます。さらに、$w$ について複素関数の微分を行うと、
\begin{split}
\ff{\diff w}{\diff z}=\ff{ad-bc}{(cz+d)^2}
\end{split}
となりますが、$ad-bc\neq 0$ であるため、$\DL{\ff{\diff w}{\diff z}\neq 0}$ といえます。以上2つの条件より、一次分数変換は等角写像でもあると言えます。
証明は示しませんが、『円円対応を与える等角写像は一次分数変換のみである』ことが知られています。この事実は、流体力学や電磁気学の問題を解く際の足がかりとなります。
不動点とは?
一般に、$w=f(z)$ という変換によって自分自身に移される点のことを不動点と呼びます。
これを数式で表すと、$z=f(z)$ となります。これを一次分数変換の場合に適用すると、次のような方程式に帰着することができます。
\begin{split}
z&=\ff{az+b}{cz+d}\quad(c\neq0)\EE
\therefore\,\,cz^2+&(d-a)z-b=0
\end{split}
代数学の基本定理より、この二次方程式は(重解を含めて)2個の根を持つと言えるので、一次分数変換に関して、次の定理を述べることができます。
一次分数変換の例題
$(1)$ $|z|=1$ の $\DL{w=\ff{z+i}{z+1}}$ による変換
まず、一次分数変換は次のようになります。
\begin{split}
w=\ff{z+i}{z+1}
\end{split}
このままでは分からないので、$z$ について整理します。すると、
\begin{split}
w&=\ff{z+i}{z+1} \EE
(z+1)w&=z+i \\
\therefore\,\,z &= \ff{-w+i}{w-1}
\end{split}
となります。$|z|=1$ であるため、次のようになり、
\begin{split}
1&=\left|\ff{-w+i}{w-1}\right|
\end{split}
絶対値の公式より、
\begin{split}
1&=\ff{|-w+i|}{|w-1|}
\end{split}
とでき、
\begin{split}
|w-1|&=|-w+i|
\end{split}
となります。両辺を二乗して整理すると、
\begin{split}
|w-1|^2&=|-w+i|^2 \EE
(w-1)(\bar{w}-1)&=(-w+i)(-\bar{w}-i) \EE
\end{split}
\begin{split}
\therefore\,\,(1+i)w+(1-i)\bar{w}=0
\end{split}
となります。これは直線の方程式であることが分かります。$z$ 平面と $w$ 平面を重ねて図示すると次のようになり、確かに2つの不動点を持つことが分かります。
$(2)$ $|z-2i|=1$ の $\DL{w=\ff{z+i}{z+1}}$ による変換
先程と同様に1次分数変換を $z$ について整理し、$|z-2i|=1$ という条件に適用すると、
\begin{split}
1&=\left| \ff{-w+i}{w-1}-2i\right| \EE
&= \left| \ff{-(1+2i)w+3i}{w-1} \right| \EE
|w-1|&=|-(1+2i)w+3i|
\end{split}
となり、両辺を二乗して整理すると、
\begin{split}
|w-1|^2&=|-(1+2i)w+3i|^2\EE
(w-1)(\bar{w}-1) &=\big\{(-1-2i)w+3i \big\}\big\{(-1+2i)\bar{w}-3i \big\} \EE
w\bar{w}-w-\bar{w}+1&=5w\bar{w}+(-6+3i)w+(-6-3i)\bar{w}+9
\end{split}
\begin{split}
\therefore\,\,4w\bar{w}+(-5+3i)w+(-5-3i)\bar{w}+8=0
\end{split}
とできて、円の方程式の形に変形すると、
\begin{split}
\left|w-\ff{5-3i}{4} \right| = \ff{1}{2\sqrt{2}}
\end{split}
となります。図示するとこのようになります。