流体力学で利用する重要な概念に鏡像があります。鏡像を利用することで、物体周りの流れを数学的に記述できるようになるためです。
中心が $O$、半径 $r$ の円 $C$ に関して、$O$ から出る半直線上の2点 $P, Q$ が
$OP\cdot OQ=r^2$ を満たすとき、『円 $C$ に関して$2$点 $P,Q$ は鏡像である』という。
今回は鏡像の定義とその応用について解説します。
※ 特に断りが無い限り、座標平面は複素平面とします。
鏡像とは?
鏡像の定義から話を始めます。鏡像は次のように定義されます。
中心が $O$、半径 $r$ の円 $C$ に関して、$O$ を通る半直線上の2点 $P, Q$ が
$OP\cdot OQ=r^2$ を満たすとき、『円 $C$ に関して2点 $P,Q$ は鏡像である』という。
鏡像の様子を図示すると、以下のようになります。
図から分かるように、円周上では $P$ と $Q$ は一致します。また、$P$ が円の外にあるとき、 $Q$ は円の内側、$P$ が内側にあるときは、$Q$ は外側になることが分かります。このことは、点の集合である図形の鏡像の様子について考えるとき役立ちます。
さて、$P,Q$ は半直線上にあるため、その偏角は等しく、
$$
\left\{
\begin{split}
z_P&=r_P\,e^{i\q} \EE
z_Q&=r_Q\,e^{i\q}
\end{split}
\right.
$$
とできます。今、$P,Q$ は鏡像の関係にあるため、$r_P\cdot r_Q = r^2$ であることに注意すると、共役複素数を利用して次の式を立てることができます。
\begin{split}
\overline{z_P}\cdot z_Q= r_P\,e^{-i\q}\cdot r_Q\,e^{i\q}=r_P\cdot r_Q=r^2
\end{split}
これより、
\begin{split}
z_Q&=\ff{r^2}{\overline{z_P}}
\end{split}
となります。円の中心が原点になく、$\A$ にあるときは、その分を平行移動させてやれば上の式と一致するので、
\begin{split}
z_Q-\A&=\ff{r^2}{\overline{z_P-\A}}
\end{split}
とできます。以上より、鏡像に関しての次の公式を導くことができます。
中心が $\A$ で半径 $r$ の円 $C$ に対して2点 $P,Q$ が鏡像の関係にあるとする。
このとき、$Q$ は次のように求められる。
\begin{split}
z_Q-\A&=\ff{r^2}{\overline{z-\A}}
\end{split}
ただし、$P$ の座標を $z$ とする。
この公式を利用して、直線や円に対する鏡像を求めていきます。
直線の円に関する鏡像
先程は点に関する鏡像を考えましたが、ここからは図形の鏡像について考えていきましょう。
まずは、直線の円に関する鏡像について考えていきます。簡単のため、$C$ の中心を原点とし、$C$ に対する鏡像を $P(z), Q(z’)$ とします。$P,Q$ は鏡像の関係にあるため、$z’$ を次のように求められます。
\begin{split}
z’&=\ff{r^2}{\overline{z}},\quad \overline{z’} &=\ff{r^2}{z}
\end{split}
さて、$P$ が直線 $L$ 上を動くとします。$L$ は、直線の方程式より、
\begin{split}
L:\, \bar{c} z+c\bar{z}+A =0
\end{split}
と表せ、これに先程の $z$ と $z’$ の関係式を代入して計算すると、
\begin{split}
&\,\,\,\bar{c}\,\ff{r^2}{\overline{z’}}+c\,\ff{r^2}{z’}+A =0 \\[6pt]
\therefore\,\,&Az’\,\overline{z’}+r^2\overline{c}z’+r^2c\overline{z’}=0
\end{split}
と整理できます。
この式は、円と直線を統一した方程式と同一の形式をしていることが分かります。$z’=0$ は上式を満たすため、さらに、$Q$ の軌跡は原点を通る円または、直線であることも分かります。
$L$ が円の内側を通るか外を通るかで、$Q$ の軌跡は次のようになります。
$L$ が原点に近づくにつれて、$Q$ の軌跡の半径はおおきくなり、さらに近づいて $L$ が原点を通るとき、最終的に $Q$ の軌跡は直線になります。なお、この状況は $A=0$ の場合に相当します。
円の円に関する鏡像
次に、円の円に関する鏡像について考えてみます。まず、$P$ が動く円 $L$ は、円の方程式より次のように書けます。
\begin{split}
L:\, z\bar{z}-\bar{c}z-c\bar{z}+A =0
\end{split}
先程と同様に、原点を中心とする円 $C$ の鏡像について考えると、$Q$ の軌跡は次のように表せます。
\begin{split}
Az’\,\overline{z’}-r^2\overline{c}z’-r^2c\overline{z’}+r^4=0
\end{split}
この式も円と直線を統一した方程式であるため、$Q$ は円または直線の軌跡であることが分かります。
$C$ に対する $L$ の位置により、$Q$ の軌跡は次のように変化します。
図より、円の円に関する鏡像は円となることが分かります。なお、$L$ が原点を通るとき、その鏡像は直線となります。この状況は $A=0$ の場合に相当します。
以上より、鏡像の変換の特徴を次のようにまとめることができます。
原点を通る直線または円→原点を通る直線
原点を通らない直線または円→円
鏡像と流体力学
鏡像単体ではそれほど面白くはありませんが、鏡像と流体力学を組み合わせることで豊かな結果を導けます。
代表的な例として、円柱周りの流れの解析があります。円柱周りの流れをさらに発展させると、翼周りの流れの解析が行えるようになります。
このように、複素数と流体力学を組み合わせた分野を複素流体力学と呼びます。