複素関数の微分係数は、実関数と同様の形で次のように定義されます。
今回は複素関数の微分と正則関数にについて解説します。
複素関数の微分係数
複素関数の微分係数は次のように定義されます。
定義から分かるように、形式的には実関数の微分と同じであることが分かります。$\D z=z-z_0$ とすると、形式的には複素関数の微分係数を見慣れた形にすることができます。
\begin{split}
\lim_{\D z\to 0} \ff{f(z_0+\D z)-f(z_0)}{\D z}
\end{split}
例えば、$f(z)=z^2$ を $z_0$ について微分すると、次のようになります。
\begin{split}
\lim_{\D z\to 0} \ff{(z_0+\D z)^2-z_0^2}{\D z}&= \lim_{\D z\to 0} \ff{2z_0\D z + \D z^2}{\D z} \\[6pt]
\therefore\, f'(z_0)&= 2z_0
\end{split}
このように、実際に微分係数を計算してみると、実関数の微分と同様の結果になることが分かります。
正則・正則関数とは?
先程の微分係数の定義は、$z_0$ の1点にて成立する定義であったことに注意してください。これだけではつまらないため、$z_0$ 近傍の全ての点で複素微分可能な関数があったとします。
また、$f(z)$ が $z_0$ 近傍の全ての点で複素微分可能であるとき、『$f(z)$ は $z_0$ で正則である』といいます。
さらに、$f(z)$ が定義域 $D$ 内の全ての点で複素微分可能であるとき、『$f(z)$ は領域 $D$ で正則である』といいます。そして、このような関数を特に『$f(z)$ は領域 $D$ で正則関数である』といいます。
複素関数 $f(z)$ が $z_0$ 近傍の全ての点で複素微分可能であるとき、
『$f(z)$ は $z_0$ で正則である』という。
また、
$f(z)$ が定義域 $D$ 内の全ての点で複素微分可能であるとき、
『$f(z)$ は領域 $D$ で正則関数である』という。
$z_0$ で複素微分可能であっても、$f(z)$ は必ずしも正則関数とは言えないことに注意してください。
※ 正則関数であれば、直ちに $D$ 内の $z_0$ で微分可能であると言えます。
複素関数の微分公式
複素関数、複素三角関数、複素対数関数、複素指数関数の微分公式について紹介します。
導関数の公式
定義域 $D$ にて正則な関数 $f(z), g(z)$ では、次のような導関数の公式が成立します。
$k$ を複素定数として、以下の公式が成立する。
\begin{split}
&(1)\quad \big\{ k f(z) \big\}’=kf'(z)\EE
&(2)\quad \big\{ f(z)\pm g(z) \big\}’=f'(z)\pm g'(z) \EE
&(3)\quad \big\{ f(z)\cdot g(z) \big\}’=f'(z)\cdot g'(z) \EE
&(4)\quad \left( \ff{f(z)}{g(z)} \right)’=\ff{f'(z)g(z)-f(z)g'(z)}{{g(z)}^2} \\
\,
\end{split}
公式から分かるように、複素関数でも実関数と同様の公式が成り立つことが分かります。
複素三角関数の微分公式
次に、複素三角関数の微分公式を紹介します。
$z$ を複素数として、複素三角関数では以下の公式が成立する。
\begin{split}
&(1)\quad (\sin z)’=\cos z\\[6pt]
&(2)\quad (\cos z)’=-\sin z\EE
&(3)\quad (\tan z)’=\ff{1}{\cos^2z}\,\,(\cos z\neq 0)\\
\,
\end{split}
※ 微分公式の証明はこちらで示します。
複素指数関数と複素対数関数の微分公式
複素指数関数と複素対数関数の微分公式を紹介します。
$z$ を複素数として、複素指数関数と複素対数関数では以下の公式が成立する。
\begin{split}
&(1)\quad (e^z)’=e^z \\[6pt]
&(2)\quad (\log z)’=\ff{1}{z} \\[6pt]
&(3)\quad \big(\log f(z)\big)’=\ff{f'(z)}{f(z)} \\
\\
\end{split}
ただし、$z\neq 0, f(z)\neq 0$
※ 微分公式の証明はこちらで示しています。
合成関数の微分公式
最後に、合成関数の微分公式について紹介します。
$w=f(\xi), \xi=g(z)$ が定義域 $D$ にて正則であるとき、合成関数 $w=f(g(z))$ も定義域 $D$ で正則となります。このとき、合成関数の微分を次のように表せます。
\begin{split}
\ff{\diff w}{\diff z}=\ff{\diff w}{\diff \xi}\cdot \ff{\diff \xi}{\diff z} \\
\\
\end{split}
複素関数でも連鎖律が成り立つことが分かります。
複素関数の微分の例題
複素関数の微分について実際に解いて行きます。
$f(z)=z^{n}$ の微分
$n$ を自然数として $f(z)=z^{n}$ の微分を考えます。ただし、$z^n$ が正則関数であることを認めるとします。微分係数の定義より、
\begin{split}
\lim_{\D z\to 0} \ff{(z+\D z)^{n}-z^{n}}{\D z}
\end{split}
上式は二項定理を使うことで、次のようになります。
\begin{split}
&\lim_{\D z\to 0} \ff{(z+\D z)^{n}-z^{n}}{\D z} \\[6pt]
=& \lim_{\D z\to 0}\ff{1}{\D z}\big(z^n+n z^{n-1}\D z+\cdots+{}_n C_rz^{n-r}\D z^{r}+\cdots+\D z^{n}-z^n \big) \\[6pt]
=& \lim_{\D z\to 0}\big(n z^{n-1}+\cdots+{}_n C_rz^{n-r}\D z^{r-1}+\cdots+\D z^{n-1} \big)
\end{split}
したがって、
\begin{split}
\lim_{\D z\to 0} \ff{(z+\D z)^{n}-z^{n}}{\D z} = nz^{n-1}
\end{split}
であると言えます。これより、$(z^n)’=nz^{n-1}$ であることが導けました。
$f(z)=z^{-n}$ の微分
次に、$\DL{f(z)=z^{-n}=\ff{1}{z^{n}}}$ の微分を考えます。ここで、商に関しての微分公式を用いると、次のように計算できます。
\begin{split}
\left( \ff{1}{z^n} \right)’&=\ff{0\cdot z^{n}-1\cdot nz^{n-1}}{(z^{n})^2} \EE
&= -nz^{-(n+1)}
\end{split}
これより、$(z^{-n})’=-nz^{-(n+1)}$ であることが導けました。累乗に関しても実関数と同様に計算できることが分かります。
正則関数の判定条件とは?
今回は、複素三角関数や複素指数関数、複素対数関数の微分公式を証明せずに示しました。
このままでは、落ち着かないので、これらの関数が正則関数であると示したくなります。とは言え、簡単には正則関数であることは示せなさそうです。たとえば、複素指数関数の微分係数について考えると次のようになりますが、
\begin{split}
&\lim_{\D z\to 0} \ff{e^{i(z+\D z)}-e^{iz}}{\D z} = e^{iz}\lim_{\D z\to 0}\ff{e^{i\D z}-1}{\D z}
\end{split}
この極限は簡単には求められそうにはありません。
アプローチを変える必要がありそうです。発想を変えて、ある複素関数が正則関数と判定できるような、一般的な条件に当てはめることを考えます。
ある複素関数が正則関数であるかどうかを判定するための条件は、コーシー・リーマンの方程式というものです。
コーシー・リーマンの方程式に当てはめると、最初に示したの複素関数達が正則関数であることを示せます。
次回、コーシー・リーマンの方程式についての解説と、それを用いて微分公式の証明を行います