前回の複素関数の話題に引き続き、今回は複素数の対数について解説します。また、複素数乗についても解説します。
複素数の対数とは?
複素数の対数を考えるにあたり、実数の世界での対数を複素数の世界に拡張する方法を考えます。始めに、実数の世界での対数関数について復習します。
実数の世界の対数の定義
まず、次の指数関数について考えます。
\begin{split}
a^x=b
\end{split}
ただし、$a,b,x$ を実数とします。
この指数関数は、『$a$ の $x$ 乗イコール $b$』と読みます。また、$x$ を $a$ の指数、$a$ を底と呼びます。
ここで、左辺を $x$ のみの形で表すことを考えてみましょう。つまり、$x=$〇□△の形になるように、
\begin{split}
x=\log_a b
\end{split}
と、表すと約束します。読み方は、『$x$ イコール、ログ $a$,$b$』です。
この式は、『$a$ が $b$ と一致するには、$x$ 乗する必要がある』ということを表しています。このような式で表したとき、$x$ のことを対数と呼びます。また、添え字の $a$ を底、$b$ を真数と呼びます。
実数の対数の計算公式
実数の対数では、次のような公式が成立します。
※ ここで紹介した公式は、実数の対数の公式の一部です。
さて、ネイピア数 $e$ を底とする対数関数 $e^x = a$ の対数は $x=\log_ea$ と表せますが、底がネイピア数の場合には、特に $x=\ln a$ と省略して記述することがあります。
複素数の対数の定義
いよいよ、複素数の世界での対数について考えていきましょう。
実数の場合と同様に複素数の対数を、指数関数を経由して定義します。すなわち、次のように複素数の対数を定義します。
次に、複素数の対数の性質について具体的に調べていきましょう。
複素数の対数の公式
まず、複素数 $z$ を $z=r (\cos\q+i\sin\q)$ と極形式で表し、さらにオイラーの公式を適用することで、$z=re^{i\q}$ とできます。
また、$u,v$ を実数として、$w=u+iv$ と表し、$z$ と $w$ の間に以下のような関係にあるとします。
\begin{split}
w=\ln z =u+iv
\end{split}
ここで、複素数の対数の定義に従うと、
\begin{split}
z=re^{i\q}=e^{u+iv}=e^u+e^{iv}
\end{split}
とできて、複素数の指数法則より $e^{u+iv}=e^u\cdot e^{iv}$ と分解できるため、
$$
\left\{
\begin{split}
&\,r=e^u \EE
&\,e^{i\q}=e^{iv}
\end{split}
\right.
$$
の対応関係にあることが分かります。
第1式に関しては、実数同士であるため素直に、$u=\ln r$ と対数に変換できます。
問題は第2式です。$\q$ の動く範囲は、$\phi$ を $-\pi \leq \phi \leq \pi$、$n$ を整数として、$\q=\phi+2n\pi$ と表せるので、第2式は次のようになり、
\begin{split}
e^{iv}=e^{i\q}=e^{i(\phi+2n\pi)}
\end{split}
第2式の指数同士を比較して、$v=\phi+2n\pi$ の関係にあることが分かります。
以上より、$z=e^w=re^{i\q}$ のとき、$w=\ln z=\ln r+i(\phi+2n\pi)$ となることが導けます。
計算公式から分かるように、複素数の対数では答えは1つにならず、複数の値が対応することが分かります。
このような状況にあるため、$z$ の偏角 $\RM{arg}(z)$ を $-\pi$ から $\pi$ の間に制限した値に主値と名前を付け、$\RM{Log} z$ と表すと約束します。
これより、$\RM{Log} z=\ln r+i\phi$ となります。
複素数の対数の性質
では、複素数の対数の性質について見ていきましょう。複素数の対数では、次のような公式が成立します。
証明を以下に示します。まず、$\ln(zw) = \ln z+\ln w$ について証明します。
$z= r_1e^{i\A},\, w= r_2e^{i\Be}$ とおくと、$zw$ は $zw=r_1r_2e^{i(\A+\Be)}$ とできるため、$\ln(zw)$ について計算すると、
\begin{split}
\ln(zw)&=\ln(r_1r_2)+i(\A+\Be+2n\pi) \EE
&=\ln r_1+\ln r_2+i(\A+\Be+2n\pi)
\end{split}
となります。ただし、$r_1,r_2>0, \A, \Be$ を実数、$n$ を整数とします。一方、 $\ln z+\ln w$ について計算してみると、
\begin{split}
\ln z+\ln w&=\ln r_1+i(\A+2n_1\pi)+\ln r_2+i(\Be+2n_2\pi) \EE
&=\ln r_1+\ln r_2+i(\A+\Be+2n\pi)
\end{split}
となり、$\ln(zw) = \ln z+\ln w$ であることが証明できました。次に、$\DL{\ln\ff{z}{w}=\ln z-\ln w}$ を証明していきます。
先程と同様に、$z= r_1e^{i\A},\, w= r_2e^{i\Be}$ とおくと、$\DL{\ff{z}{w}=\ff{r_1}{r_2}e^{i(\A-\Be)}}$ とでき、したがって、
\begin{split}
\ln\left(\ff{z}{w}\right)&=\ln \ff{r_1}{r_2}+i(\A-\Be+2n\pi) \EE
&=\ln r_1-\ln r_2+i(\A-\Be+2n\pi)
\end{split}
となります。
一方、$\ln z-\ln w$ について計算すると以下のようになり、
\begin{split}
\ln z-\ln w&=\ln r_1+i(\A+2n_1\pi)-\big\{\ln r_2+i(\Be+2n_2\pi)\big\}\EE
&=\ln r_1-\ln r_2+i(\A-\Be+2n\pi)
\end{split}
これより、$\DL{\ln\ff{z}{w}=\ln z-\ln w}$ となることが証明できました。
実数の対数との違い
このように、複素数の対数は実数の対数と同じような性質を持っていることが分かります。
しかしながら、複素数の対数では、$\ln z^{n}=n\ln z$ の関係は一般には成立しません。たとえば、$z=i=e^{\ff{\pi}{2}i}$ として、$\ln z^{2}$ について考えると、
\begin{split}
\ln z^2 &= \ln i^2 \EE
&= \ln \left(e^{\ff{\pi}{2} i}\right)^2 \EE
&= \ln e^{\pi i}\EE
&= \ln 1+i(\pi+2n\pi) \EE
\therefore\,\ln z^2&=i(2n+1)\pi
\end{split}
となりますが、一方、$2\ln z$ について計算すると、
\begin{split}
2\ln z &= 2\ln i \EE
&= 2\ln e^{\ff{\pi}{2}i} \EE
&= 2\ln 1+2i\left(\ff{\pi}{2}+2n\pi\right) \EE
\therefore\,2\ln z&= i(4n+1)\pi
\end{split}
となるので、$\ln z^2 = 2\ln z$ はとならないことが分かります。
このように、複素数の対数では、$\ln z^{n}=n\ln z$ の関係が成立ない点が大きな違いになります。
虚数乗とは?
複素数の対数の性質を利用して複素数のべき乗について考えていきましょう。
何はともあれ、複素数のべき乗の定義を考えなければなりません。その際利用するのが、先程紹介した実数の対数の計算公式(4)です。この公式を使って、複素数のべき乗を次のように定義します。
一般に、複素数の世界では $\log \A^{\Be} = \Be \log \A$ とはなりませんが、等号が成立することを定義として用いることで、このような問題を回避しています。
この定義にしたがって、複素数のべき乗を計算すると次のように複数の答えが導かれますが、全てを正しい答えとして認めます。
\begin{split}
\A^{\Be} &= e^{\Be \log \A} \EE
&= e^{\Be \log (re^{i\q})} \EE
&= e^{\Be \big\{\log r+i(\q+2n\pi)\big\} } \EE
\end{split}
ただし、$r,\q$ を実数、$n$ を整数、$-\pi\leq\q\leq\pi$ として、$\A=re^{i\q}$ とします。また、主値を利用すると、
\begin{split}
\A^{\Be} &= e^{\Be \big\{\RM{Log}\A+2n\pi)\big\} } \EE
\end{split}
とも表せます。
複素数乗の例題
それでは、複素数のべき乗についての例題を見ていきます。まずは、$2$ の虚数乗、すなわち、$2^i$ について考えてみましょう。複素数のべき乗の定義に従うと、$2^i$ は、
\begin{split}
2^i &= e^{i\log(2e^{i\cdot 0})} \EE
&= e^{i(\log2+2in\pi)} \EE
&=e^{-2n\pi}\cdot e^{i\log 2} \EE
&= \cos(\log 2)+i\sin(\log2)
\end{split}
と求められます。三角関数と対数がコラボレーションする不思議な結果となりました。
次に、$(1+i)^{(1+i)}$ について考えます。$2$ の虚数乗と同様に、定義に従ってべき乗を計算します。考えやすくするため、主値を考えると、
\begin{split}
(1+i)^{(1+i)} &= e^{(1+i)\RM{Log}(1+i)} \EE
\end{split}
とでき、次のように求められます。
\begin{split}
(1+i)^{(1+i)} &= e^{(1+i)\RM{Log}\left\{\sqrt{2}\left( \cos\ff{\pi}{4}+i\sin\ff{\pi}{4} \right) \right\}} \EE
&= e^{(1+i)\RM{Log}(\sqrt{2}e^{\ff{\pi}{4}i})} \EE
&= e^{(1+i)\left(\log\sqrt{2}+\ff{\pi}{4}i \right)} \EE
&= e^{\log\sqrt{2}-\ff{\pi}{4}+i\log\sqrt{2}+\ff{\pi}{4}i} \EE
&= e^{\log\sqrt{2}}\cdot e^{-\ff{\pi}{4}}\cdot e^{i\left(\log\sqrt{2}+\ff{\pi}{4}\right)} \EE
&= \sqrt{2}e^{-\ff{\pi}{4}} \left\{\cos\left(\log\sqrt{2}+\ff{\pi}{4}\right)+i\cos\left(\log\sqrt{2}+\ff{\pi}{4}\right) \right\}
\end{split}
このように、複素数の対数や複素数のべき乗について考えることができました。