複素積分のまとめとして、グルサの定理、最大値の原理について解説します。
また、代数学の基本定理の証明も行います。
グルサの定理
グルサの定理にて注目すべき点は、複素関数がある点で正則であれば、その点で何回でも微分可能であると主張している点です。
グルサの定理の証明
グルサの定理を数学的帰納法により証明してきます。
まず、$n=1$ の場合について証明していきます。
図のように $a$ の近くに $a+\D z$ の点があるとします。なお、$a$ も $a+\D z$ も $D$ 内にあるとします。
このとき、コーシーの積分公式より次の式が成立するといえます。
\begin{split}
\ff{f(a+\D z)-f(a)}{\D z}&=\ff{1}{2i\pi \D z}\oint_C \left( \ff{f(\xi)}{\xi-(a+\D z)}- \ff{f(\xi)}{\xi-a}\right)\diff \xi\\[6pt]
&= \ff{1}{2i\pi}\oint_C \ff{f(\xi)}{(\xi-a-\D z)(\xi-a)} \diff \xi
\end{split}
ここで $\D z\to 0$ とすると次のようになります。
\begin{split}
f'(a)&=\ff{1}{2i\pi}\oint_C \ff{f(z)}{(z-a)^2} \diff z
\end{split}
$n=1$ の場合にてグルサの定理が成立することが示せました。
次に、$n=k$($k$ は自然数)にてグルサの定理が成立すると仮定すると、先程と同様の議論から次の式が成立すると言えます。
\begin{split}
\ff{f^{(k)}(a+\D z)-f^{(k)}(a)}{\D z}&= \ff{k!}{2i\pi\D z}\oint_C \left\{ \ff{f(\xi)}{(\xi-a-\D z)^{k+1}}- \ff{f(\xi)}{(\xi-a)^{k+1}}\right\} \diff \xi \\[6pt]
&= \ff{k!}{2i\pi\D z}\oint_C \ff{(\xi-a)^{k+1}-(\xi-a-\D z)^{k+1}}{(\xi-a-\D z)^{k+1}(\xi-a)^{k+1}}f(\xi) \diff \xi
\end{split}
右辺の分子に関して二項定理を利用して整理すると、
\begin{split}
&(\xi-a)^{k+1}-(\xi-a-\D z)^{k+1}\EE
=&(\xi-a)^{k+1}-\big\{ (\xi-a)^{k+1}-{}_{k+1}C_1(\xi-a)^{k}\D z +\cdots +\EE
&\quad+{}_{k+1}C_r(\xi-a)^{k+1-r}(\D z)^r+\cdots \big\}\EE
=&(k+1)(\xi-a)^{k}\D z +\cdots +{}_{k+1}C_r(\xi-a)^{k+1-r}(\D z)^r+\cdots
\end{split}
となり、これを右辺に適用すると、
\begin{split}
&\ff{(k+1)k!}{2i\pi}\oint_C \ff{f(\xi)}{(\xi-a-\D z)^{k+1}(\xi-a)}\diff \xi \\[6pt]
&\quad +\ff{\D z}{2i\pi}\sum_{r=2}^{k+1}\oint_C \ff{{}_{k+1}C_r\,(\D z)^{r-2}f(\xi)}{(\xi-a-\D z)^{k+1}(\xi-a)^r}\diff \xi
\end{split}
となり、$\D z \to 0$ とすると、
\begin{split}
f^{(k+1)}(a)&= \ff{(k+1)!}{2i\pi}\oint_C \ff{f(z)}{(z-a)^{k+2}} \diff z
\end{split}
となります。
以上、数学的帰納法より任意の自然数 $n$ に対してグルサの定理が成立することが示せました。
この結果から、ある点で正則であることが分かれば、その点で何回でも微分可能であることが分かります。
例題
(1) $\DL{\oint_C \ff{4z^3+z^2+2z+1}{(z-i)^3}\diff z}$ を計算せよ。ただし、$C$ を $|z|=2$ の円とする。
$f(z)=4z^3+z^2+2z+1$ としてグルサの定理より、
\begin{split}
\oint_C \ff{4z^3+z^2+2z+1}{(z-i)^3}\diff z &= \ff{2i\pi}{2!}f^{”}(i)\EE
&= \ff{i\pi}{2}(24i+2) \EE
&= \pi(-12+i)
\end{split}
と求められます。
(2) $\DL{\oint_C \ff{z-2}{(z-3)(z-i)^2}\diff z}$ を計算せよ。ただし、$C$ を $|z|=2$ の円とする。
今、$f(z)=\DL{ \ff{z-2}{z-3}}$ は $C$ 内部で正則であるため、グルサの定理より次のように求められます。
\begin{split}
\oint_C \ff{z-2}{(z-3)(z-i)^2}\diff z &= 2i\pi f'(i)\EE
&= \ff{2i\pi}{(i-3)^2}
\end{split}
最大値の原理
グルサの定理を利用して、いくつかの重要な結果を導くことができます。
モレラの定理
単連結領域とは、$D$ 内にどのような単純閉曲線をとっても常に $D$ の点のみを含むような領域のことです。
$D$ に”穴”が開いているような領域を多重連結領域とよび、”穴”が1つのときは2重連結、2つのときは3重連結といいます。
さて、モレラの定理は単連結な領域にて周回積分が $0$ となるとき、その関数が正則であると判定できると主張しています。
モレラの定理は、コーシーの積分定理の逆の定理であることが分かります。
コーシーの不等式
コーシーの不等式はグルサの定理を用いることで証明できます。
すなわち、以下の式が成立し、
\begin{split}
|f^{(n)}(z)|= \left|\ff{n!}{2i\pi} \oint_C \ff{f(z)}{(z-a)^{n+1}} \diff z\right|
\end{split}
積分の評価式を用いると次のように変形でき、
\begin{split}
\left|\ff{n!}{2i\pi} \oint_C \ff{f(z)}{(z-a)^{n+1}} \diff z\right|&\leq \ff{n!}{2\pi}\oint_C \ff{|f(z)|}{|z-a|^{n+1}} |\diff z| \\[6pt]
&\leq \ff{n!}{2\pi}\ff{M}{r^{n+1}}\cdot 2\pi r = \ff{n!M}{r^n}
\end{split}
コーシーの不等式が成立することが示せました。
最大値の原理
証明を以下に示します。
$C$ 内部の点 $a$ にて $|f(z)|$ の最大値 $M$ をとると仮定します。
このとき、$a$ を中心とする半径 $R$ の十分小さい円を $C$ の内部に描くと円板領域についての公式より、
\begin{split}
|f(a)|=M\leq \ff{1}{2\pi}\int_0^{2\pi} |f(a+Re^{i\q})| \diff \q
\end{split}
と評価でき、また、仮定より $|f(a+Re^{i\q})|<|f(a)|$ であるので、
\begin{split}
\ff{1}{2\pi}\int_0^{2\pi} |f(a+Re^{i\q})| \diff \q<\ff{1}{2\pi}\int_0^{2\pi} M \diff \q=M
\end{split}
であると言えます。これらをまとめると、$M<M$ となり矛盾します。これより、最大値の原理が成立することが分かります。
代数学の基本定理
代数学の基本定理の証明を示して今回の締めとします。
証明の柱となる、リウビルの定理の証明から行います。
リウビルの定理
複素平面 $C$ 全体で正則な関数(=整関数)に対して、次のリウビルの定理が成立します。
※ 有界とは、無限に発散しないという意味です。イメージはこちらで示しています。
証明は以下の通りです。
$M$ を定数として、仮定より $|f(z)|\leq M$ となります。また、コーシーの不等式を用いると、
\begin{split}
|f'(z)|\leq \ff{M}{r}
\end{split}
とできます。
$r$ は任意の正数であり、複素平面全体にてコーシーの不等式が成り立つため $r\to\infty$ として、$|f'(z)|=0$ となることが分かります。
これより、$f(z)$ が定数であることが分かります。
代数学の基本定理の証明
代数学の基本定理の証明に取り掛かります。
まず、$g(z)=\DL{\ff{1}{f(z)}}$ なる複素関数について考えます。
今、$f(z)$ が根を持たないと仮定します。
この仮定の下ではどんな複素数 $\A$ に対しても $f(\A)\neq 0$ であるため、$g(z)$ は複素平面全体で正則であるといえます。
ここで、$|f(z)|$ の振る舞いについて考えると、
\begin{split}
|f(z)|=|z|^n\left|a_0+\ff{a_1}{z}+\cdots+\ff{a_n}{z^n}\right|
\end{split}
となるので、$|z|\to \infty$ とすると、$|f(z)|\to \infty$ となり、一方、$g(z)$ は $z\to\infty$ にて $|g(z)|=0$ となることが分かります。
このような関係にあるため、任意の正数 $\eps$ に対して適当な $R$ を取ると $|z|>R$ なる全ての $z$ に対して $|g(z)|<\eps$ が成立するといえます。
一方、$|z|< R$ の領域内での最大値を $m$ とし、$m$ と $\eps$ を比較して大きな方を $M$ とします。すると、複素平面全体に渡って $|g(z)|\leq M$ と評価できます。
以上より、$g(z)$ は有界な整関数といえるため、リウビルの定理より $g(z)$ は定数関数と言えます。
さて、$g(z)$ が定数関数であるため、$f(z)$ も定数関数とならなければなりませんが、これは $f(z)$ が $n$ 次の多項式であることと矛盾します。
したがって、$f(z)=0$ は少なくとも一つの根 $\A_1$ を持つと言えます。これより $n-1$ 次方程式を新たに得ますが、同様の議論より $n-1$ 次方程式も根を持つと言え、以下繰り返すことで $n$ 個の根を得ることができます。
以上より、代数学の基本定理を示せました。