ダランベールのパラドックスとは?|理想流体の不思議な性質

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一様に流れる理想流体中に物体を置いたとき、その物体は流体から力を受けないという理論的な帰結を『ダランベールのパラドックス』といいます。パラドックスと呼ばれる理由は、物体が流体から抵抗力を受けるという経験的事実と反するためです。

ダランベールのパラドックス

一様に流れる理想流体中では、物体は流体から力を受けない

ダランベールのパラドックスが提唱されたのは $1744$ 年であり、パラドックスが生じた理由に粘性が関係していることは早い段階から分かっていました。しかしながら、抵抗が生じる具体的なメカニズムが解明されるのは意外と遅く、20世紀に入ってからでした。

今回は最も簡単な円柱周りのポテンシャル流れを例に、ダランベールのパラドックスについて解説します。

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円柱周りの流れの流速

さて、一様流二重湧き出しを合成したとき、その流線が下図のようになることは既に示しました。そして、この流れは円柱周りの流れと呼ばれました。

円柱周りの流れ

ところで、円柱周り流れ複素速度ポテンシャルは、

\begin{split}
w=Uz+\ff{k}{z}
\end{split}

と表せ、さらに複素速度について考えると、

\begin{split}
q&=\ff{\diff w}{\diff z} =U-\ff{k}{z^2}
\end{split}

とできます。これより、実軸上のよどみ点の座標 $a$ を

\begin{split}
a=\pm\sqrt{\ff{k}{U}}
\end{split}

と求めることができます。このとき、円柱の半径 $r$ は $a$ と一致し、$r=a$ となります。これより、複素速度の式は

\begin{split}
q=U-U\ff{a^2}{z^2}
\end{split}

と表示できます。

さて、円柱表面の任意の座標は $ae^{i\q}$ とできるので、円柱表面の流速 $q_a$ を

\begin{split}
q_a=U-Ue^{-2i\q}=U(1-e^{-2i\q})
\end{split}

と表せます。ここから、速さ $|q_a|$ が次のように求められます。

\begin{split}
|q_a|^2&=U^2(1-e^{-2i\q})\overline{(1-e^{-2i\q})}\EE
&= U^2(1-\cos2\q+i\sin2\q)(1-\cos2\q-i\sin2\q) \EE
&= U^2\big\{(1-\cos2\q)^2+\sin^2 2\q \big\} \EE
&= 2U^2(1-\cos2\q) = 4U^2\sin^2\q\EE
\therefore\,\,|q_a|&=|2U\sin\q|
\end{split}

この結果より、$\q=\pm\DL{\ff{\pi}{2}}$ にて流速が最大の $2U$ となることが分かります。また、よどみ点の位置($\q=0,\pi$)にて、確かに流速が $0$ となることも確認できます。

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円柱周りの流れの圧力分布

次に、円柱表面の圧力分布について考えていきます。無限遠方における圧力を $p_{\infty}$, 密度を $\rho$ とすると、円柱表面の圧力 $p_a$ は、ベルヌーイの定理を用いて、

\begin{split}
p_{\infty}+\ff{1}{2}\rho U^2=p_a+\ff{1}{2}\rho |q|^2
\end{split}

とできます。ゆえに、円柱表面の圧力分布を次のように求められます。

\begin{split}
p_a-p_{\infty}&=\ff{1}{2}\rho U^2-\ff{1}{2}\rho |q_a|^2 \EE
&=\ff{1}{2}\rho U^2(1-4\sin^2\q) \EE
&=\ff{1}{2}\rho U^2(2\cos2\q-1)
\end{split}

この結果をグラフにすると下図のようになります。

円柱周りの流れの圧力分布

このグラフから円柱表面の圧力分布を図示すると次のようになります。

円柱周りの圧力分布

図から分かるように圧力の分布は前後左右で対称になっていることが分かります。

ところで、各点の圧力を足し合わせると、円柱全体に作用する力を計算することができます。次節にて、実際に円柱に作用する力を求めていきます。

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ダランベールのパラドックス

まず、円柱表面に作用する圧力をベクトル分解の考えに従い、水平方向と鉛直方向に分解すると図のようになります。

ダランベールのパラドックス

これより、水平方向に作用する力 $F_x$ と垂直方向に作用する力 $F_y$ を積分により計算できます。

まず、$F_x$ は、

\begin{split}
F_x &= \int_0^{2\pi} -p\cos\q\,a\diff \q \EE
&= -\ff{1}{2}\rho U^2a\int_0^{2\pi}(2\cos2\q-1)\cos\q\,\diff \q \EE
&= -\rho U^2a\int_0^{2\pi}\cos2\q\cos\q\,\diff \q+\ff{1}{2}\rho U^2a\int_0^{2\pi}\cos\q\,\diff \q \EE
\end{split}

となります。右辺第一項に関しては三角関数の直交性より $0$、第二項も $0$ となるため、$F_x=0$ と求められます。

次に、$F_y$ は、

\begin{split}
F_y &= \int_0^{2\pi} -p\sin\q\,a\diff \q \EE
&= -\ff{1}{2}\rho U^2a\int_0^{2\pi}(2\cos2\q-1)\sin\q\,\diff \q \EE
&= -\rho U^2a\int_0^{2\pi}\cos2\q\sin\q\,\diff \q+\ff{1}{2}\rho U^2a\int_0^{2\pi}\sin\q\,\diff \q \EE
\end{split}

となり、先程と同様の議論から $F_y=0$ と求められます。

以上より、円柱に作用する正味の力が水平方向にも鉛直方向でも $0$ であることが結論できます。

すなわち、流れの中に置かれた円柱には力が作用しないことが分かります。

以上より、ダランベールのパラドックスを示せました。

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