流体の定義についてはこちらで紹介しました。流体はさらに、粘性流体と非粘性流体に分類できます。
また、流体の粘性についても詳しく解説します。粘性とは何なのか?粘性の存在によりどんなことが起きるのかについて解説します。
また、粘性とせん断応力の関係についても解説します。なお、圧縮性流体と非圧縮性流体についてはこちらで解説しています。
粘性とは?
流体をせん断力の作用しない物体として定義しましたが、現実の流体には必ずしも当てはまりません。(→流体とは?)
定義通りの性質を持たない理由は、流体は運動に伴う変形に抵抗するような力=粘性を持つためです。
定量的な粘性の性質について解説します。
流体から受けるせん断力は運動の勢いに比例して増えることが実験から確かめられていて、通常の流体から受けるせん断力は運動の勢いにつれて線形に増加するします。
そのため、比例定数を考えることができて定数を$\mu$(ミュー)とすることにします。これだけではイメージが湧かないので、モデルを使ってせん断力と粘性の関係について解説します。
図のように、床と板の間が粘度$\mu$の流体で満たされている状況を考えます。
このとき、上の板を速さ$u$で動かしたとします。お風呂の水面に手のひらを付けて動かすと分かるように、速さが大きくなるほど水から受けるせん断力(=抵抗)はより大きくなります。
この抵抗力はせん断力のことであり、単位面積当たりのせん断力、すなわち、せん断応力で考えた方が都合が良いため、これについて考えていきます。
粘性係数とは?
以上のことより、せん断応力を$\tau$(タウ)とすると板を動かす速さとの関係は次のように表すことができそうです。
\begin{eqnarray}
\tau \propto u
\end{eqnarray}
この比例関係を結ぶ定数こそが粘性係数$\mu$であり、先程の比例関係を次のように等号で結べます。
\begin{eqnarray}
\tau = \mu u
\end{eqnarray}
しかし、これだけでは十分ではありません。
追加の実験より、せん断応力の大きさは流体が満たされているギャップの大きさによっても変わることが明らかになっています。
すなわち、隙間の大きさを$h$として、せん断応力は$h$が小さくなるほどが大きくなることが分かっています。したがって、せん断応力について以下の式が成立すると言えます。
\begin{eqnarray}
\tau = \mu \ff{u}{h}
\end{eqnarray}
$\DL{\ff{u}{h}}$は単位長さ当たりの速度差を表すため、速度勾配と呼ばれます。さて、この式に現れる速さは、ある基準位置から計測した速度では無く、相対速度であことがポイントです。
例えば、$\Delta y$ 離れた位置それぞれで、$u$と$u+\D u$の流速であったとします。このとき、それぞれの流速で動く流体には以下の大きさのせん断応力が作用します。
\begin{eqnarray}
\tau &=& \mu \ff{(u+\D u\,- u)}{\D y} \EE
&=& \mu \ff{\D u}{\D y}
\end{eqnarray}
この極限を考えると、せん断応力は次のような方程式として表せます。
粘性流体と非粘性流体とは?
現実の流体には粘性という性質がありますが、理論的には粘性の無い流体というものも考えられます。(例外として、極低温状態の液体ヘリウムは粘性が$0$になることが知られています)
粘性の無い流体のことを非粘性流体、粘性の有る流体のことを粘性流体と呼びます。
流体力学では、基本的に非粘性流体の振る舞いについて調べていきます。
こうする理由はいくつかありますが、主な理由はナビエストークスが基本的は解けないこと、壁から離れると、流体の速度差が小さくなり粘性が無視でき、非粘性流体として近似できるためです。
非ニュートン流体
粘性流体は粘性の性質によってさらに細分化されます。
せん断力が速度勾配$\DL{\ff{\diff u}{\diff y}}$ に比例して線形に増加するような流体をニュートン流体と呼びます。
ニュートン流体では粘性係数がほぼ一定なため、理論的には比較的扱い易い対象になります。また、水や空気のような馴染み深い流体はニュートン流体に属します。
一方で、せん断力と速度勾配の関係が非線形になる流体も存在し、このような流体を非ニュートン流体と呼びます。
非ニュートン流体はさらに細分化し分類され、ビンガム流体やダイラタンシー流体といった名前が付けられています。
ダイラタンシー流体の代表例として、片栗粉を水に溶かしたものが挙げれられます。ダイラタンシー流体は速度勾配が大きくなるほどせん断力が急激に増大する性質を持ちます。そのため、ダイラタンシー流体を素早く押すと、まるでゴムのように反発してきます。
この性質を利用して防弾チョッキなどへの応用が研究されています。
主流と境界層
現実の流体は粘性があるため、粘性が無いとして計算を進めると実際の現象と矛盾した結果が導かれることがあります。
矛盾を導く結果の中で、有名なのはダランベールのパラドックスですが、今回はその内容に立ち入りませが、代わりに、パラドックスが導かれた根本的な理由について解説します。
まず、粘性の無い流体(非粘性流体)では流体と物体が接する表面でもせん断力が生じず、図のような均一な流れとなります。
一方、粘性がある流体(実在流体)では、接触面で流速は$0$となります。
物体表面での流速は$0$になりますが表面から離れるにしたがい、流速は増加していきます。やがては流速の平均値、主流と同じ速度になります。このように、流速が$0$から徐々に増加していく領域のことを境界層と呼びます。
境界層の存在こそ、パラドックスを解決するための鍵となります。
流体軸受けへの応用
流体の粘性を工学的に利用した事例として、流体軸受けが挙げられます。広く使われている玉軸受けには接触箇所があるため、長寿命や清浄さを要求される場面には適さないという課題があります。
この問題を解決できる軸受けが、流体軸受けです。流体軸受けでは個体の間に流体を挟んでいるため摩耗が無く、理論的には無限の寿命を持ち、摩耗紛も無いために清浄な環境を保てます。
流体軸受けが機能する秘密は粘性にあり、粘性があるために軸を浮かせるのに十分な動圧を生じさせることができるためです。流体軸受けの動作原理については、こちらで解説しています。