流体は自由に変形する性質を持つ物体(→流体とは?)ですが、今回は新たに圧縮性という視点を加えます。
例えば、ペットボトル一杯に入れた水を外から押しつぶしても体積が変化することはありませんが、空気で満たしている場合は容易に押しつぶすことができます。
このように、流体は圧縮の難しい流体や、圧縮が容易な流体に分類できます。
流体力学では、流体を圧縮可能かどうかで圧縮性流体と非圧縮性流体に分類し、それぞれの理論的な取り扱いが変わります。
今回は圧縮性流体と非圧縮性流体の性質と特徴について解説します。
圧縮性流体と非圧縮性流体
最初に、圧縮性流体と非圧縮性流体について解説します。
圧力を加えた時、体積が変化する性質を圧縮性と呼びます。(→圧力とは?)手始めに、圧縮性について定量的に表現することを考えます。
加えた圧力の大きさを$\D p$、体積が$V$から$V+ \D V$に変化したとすると、体積弾性率$E_v$は次のように表せます。
\begin{eqnarray}
E_v = -\ff{\D p}{\left(\ff{\D V}{V}\right)}
\end{eqnarray}
※ $\D p$が正のとき、$\D V$は負となります。$E_v$を正にするため、式にマイナスを付与しています。
上式の極限を考えると、体積弾性率を次のようにできます。
体積弾性率$E_v$を次のように定義する。
\begin{eqnarray}
E_v = -\ff{\diff p}{\diff V}V \\
\,
\end{eqnarray}
体積弾性率の逆数を圧縮率と定義します。圧縮率を$\beta$(ベータ)とすると、
\begin{eqnarray}
\beta = \ff{1}{E_v} = -\ff{1}{V}\cdot\ff{\diff V}{\diff p}
\end{eqnarray}
となります。
圧縮率$\beta$を次のように定義する。
\begin{eqnarray}
\beta = -\ff{1}{V}\cdot\ff{\diff V}{\diff p} \\
\,
\end{eqnarray}
圧縮率を$0$と見なせる流体を非圧縮性流体と呼び、圧縮率を考慮する必要がある流体を圧縮性流体と呼びます。
圧縮性流体:圧縮率を考慮する必要がある流体
非圧縮性流体:圧縮率を$0$と見なせる流体
ところで、流体の密度を$\rho$(ロー)とすると、体積$V$に含まれる質量$m$には、
\begin{eqnarray}
m = \rho V
\end{eqnarray}
の関係がありますが、圧縮により密度も変化するため、体積弾性率は密度を使っても表すことができます。
\begin{eqnarray}
E_v = \ff{\diff p}{\diff \rho}\rho \tag{1}
\end{eqnarray}
音速と体積弾性率
ところで、音速を$c$とすると、密度と体積弾性率を使って次のように表せます。
\begin{eqnarray}
c = \sqrt{\ff{E_v}{\rho} }
\end{eqnarray}
※ 音速の導出についてはこちらで解説しています。
これに式(1) を適用すると、音速は次のように定義できることが分かります。
\begin{eqnarray}
c = \sqrt{\ff{\diff p}{\diff\rho} }
\end{eqnarray}
理想流体とは?
粘性と圧縮性についてこれまでに解説したので、理想流体について理解できるようになりました。
理想流体は度々、流体力学に顔を出す重要な対象です。理想流体とは、粘性ならびに圧縮性の無い流体のことを言います。
非圧縮非粘性流体を理想流体と呼ぶ。
理想流体には粘性が無いため、エネルギー損失・抵抗力が存在せず、数学上の取り扱いが楽という利点があります。
また、非圧縮性流体でもあるため、圧力による体積の収縮や膨張を考えなくて良いという利点もあります。理想流体はこのような性質を持つので理論的な取り扱いが容易であり、流体力学でしばしば登場します。
マッハ数と圧縮性の関係
流体の圧縮性を代表値が圧縮率であることは先述した通りですが、実は、圧縮性は流速の影響も受けることが知られています。
このとき、圧縮性と流速の関係を定めるのが、マッハ数と呼ばれる値であることが分かっています。
流速(代表速度)を$U$、音速を$c$として、マッハ数$M$を次のように定義する。
\begin{eqnarray}
M = \ff{U}{c} \\
\,
\end{eqnarray}
圧縮性を考慮すべきかどうかは、マッハ数で整理できることが知られています。すなわち、
$M<0.3$:非圧縮性流体として近似可能
$0.3<M$:圧縮性流体として扱う
と整理できます。音速を超える、すなわち$M>1$となると、圧縮性が顕著に表れ衝撃波が発生するという劇的な変化が起きます。

このように体積弾性率だけでなく、流速によっても非圧縮流体か圧縮性流体として扱うかが変わることを認識しておきましょう。
ところで、空気中の音速は約$340\, \RM{m/s}$であるため、$M<0.3$となる約$100\,\RM{m/s}$($360\, \RM{km/h}$)以下までならば空気も非圧縮性流体として扱えると言えます。日常のスケールであれば、空気でも非圧縮性流体の理論で十分対応可能であると言えます。
非圧縮性流体と質量保存則
物理学で最も基本な原則は質量保存則とエネルギー保存則です。流体力学でもこの原則は変わりません。非圧縮性流体に対して質量保存則がどのように適応できるかを見ていきます。
図のように断面積が緩やかに変化するパイプ内を非圧縮性流体が流れているとします。
非圧縮性流体であるため、パイプ内部で流体の密度が変化することはありません。さて、入口から出口にかけて緩やかに断面積が増大するパイプを考えます。
このとき、入口の断面積を$S_1$、出口の断面積を$S_2$とし、入口での流速を$v_1$、出口の流速を$v_2$ とします。
この問題で重要なのは、単位時間当たりの入口と出口を通過する流体の質量のバランスです。流体が移動する過程で質量が消失することはありえず、加えて質量保存の法則より、
単位時間当たりにパイプを出入りする質量は同じになると言えます。また、流体の密度は一定であるため、入口から流入してくる体積と出口から流出していく体積は同じになります。
単位時間当たりに流入する流体の体積$V_{\RM{in}}$については、流速と断面積を掛けたものになるので、
\begin{eqnarray}
V_{\RM{in}} = v_1S_1 \\
\end{eqnarray}
とでき、流出する流体の体積$V_{\RM{out}}$も流速と断面積を掛けたものになるので、
\begin{eqnarray}
V_{\RM{out}} = v_2S_2 \\
\end{eqnarray}
となります。質量は体積と密度の積から計算でき、これより、
\begin{eqnarray}
\rho v_1S_1 = \rho v_2S_2 \\
\end{eqnarray}
となります。なお、圧縮性流体に対しても質量保存則を考えることができ、同様な式が成立します。このことについての詳しい解説は、連続の式を導出する機会に行います。