流線・流跡線・流脈線とは?【流れの可視化の方法】【流体力学】

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今回は流体の流れを可視化する方法について考えていきます。

流れの可視化の方法は、流体力学の理論を展開する上での立場に影響を与えるため、覚えていた方が良い事項です。

また、流れに関連する事項として、渦についても簡単に解説します。

流線・流跡線・流脈線

流線:ある瞬間の各速度ベクトルの包絡線

流跡線:流体のある一部分を長時間観察したときの軌跡   

流脈線:固定した定点を通過した流体のある瞬間でのつながり

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流線とは?

流線とは?

流線とは、ある瞬間の各速度ベクトルの包絡線のこと

一番イメージが簡単な流体の可視化方法である流線についての解説から始めます。

さて、流れの中に物体を置くと、流れが妨げられるため、物体周りの流れの状態が変化しますが、このままでは数学的に取り扱えないため、格子状の座標を重ね合わせることにします。

この様子を図にすると、以下のようになります。

流れと格子

ここで、ある瞬間での物体回りの流れの速度分布を可視化することを考えます。

流体は連続体であるため、任意の位置で流速を考えることができますが、簡単のため、今回は格子点での流速のみを図示するとします。

物体を避けるような流れとなるため、格子点の流速の分布は図のようになります。

また、流速は向きも持つため、格子点上の速度は速度ベクトルとして表現されることになります。

格子点での流速分布

各速度ベクトルを良く見ると、近隣の格子点上での速度ベクトルの向きがほぼ一致していることに気が付きます。

このことから、各速度ベクトルの向きが接線となるような曲線が描けそうです。

実際に滑らかにつなぐと、下図のような曲線を描けます。

この曲線を流線と呼びます。

専門用語でいえば、流線とは、ある瞬間の速度ベクトルの包絡線であると言えます。

流線

流線は、ある瞬間での流体の速度分布を可視化したものと捉えることができます。

また、流線の接線は速度ベクトルの向きと一致することが重要なポイントとなります。

ところで、固定した座標上の各点での瞬間瞬間の変化を考える立場オイラーの方法と言いますが、流線はこの立場で考える代表例と言えます。

オイラーの方法

固定した座標上の各点での瞬間瞬間の変化を考える立場オイラーの方法と呼ぶ。

オイラーの方法は流体力学の標準的なスタンスです。例えば、ナビエ・ストークス方程式の導出の際にもオイラーの立場を採ります。

※ 今回は流線の具体的な数式については紹介しません。流線を数式で表現するためには複素関数論の表現を借りなければならないためです。なお、円柱周りの流れの流線の表示についてはこちらで解説しています。

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流跡線とは?

流跡線とは?

流跡線とは、流体のある一部分を長時間観察したときの軌跡 

次に、流れのある一部に注目して追跡し、流れを可視化する方法を紹介します。

流線は、ある瞬間での速度ベクトルの包絡線でしたが、他にも、時間経過の中で特定の部分に注目して流れを可視化する方法もあります。

この可視化方法は、流れの中の風船の移動を観察する方法とも言えます。(風船に浮力は働かないとします)

流脈線

図のように、最初(時刻$t_0$において)物体の左に風船があったとします。

風船は時間経過と共に流されていきます。

そのため、$t_1, t_2,\cdots, t_5$と時間が進む内に風船の位置は変化していきます。

したがって、時間経過と共に変化する風船の位置を繋ぐと、図のような軌跡を描くことになります。

この軌跡を流跡線と呼びます。

すなわち、流跡線は、流体のある一部分を長時間観察したときの軌跡と言えます。

ところで、流体のある部分に座標を固定し、流れとともに移動する座標から流体力学を構築する立場を、ラグランジュの方法と呼びます。

ラグランジュの方法は粒子法のようなシミュレーション手法としても活用されます。

ラグランジュの方法

流体のある部分に座標を固定し、流れとともに移動する座標から流体力学を構築する立場を、ラグランジュの方法と呼ぶ。

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流脈線とは?

流脈線とは?

流脈線とは、固定した定点を通過した流体のある瞬間でのつながり

最後に流脈線について解説します。

流脈線とは、ある一点から通過した流体の流れを描いた線のことです。

具体例を見ていきましょう。

図のようにインクを染み込ませた筆を流れの中に置いたとき、インクの筋が流れに沿って形成されます。

流脈線

このようにして出現する線を流脈線と呼びます。

流脈線の形状は各時刻に特有のものであり、時間経過と共に変化する可能性があります。

一方、流跡線はその名の通り、確定した過去の結果の積み重ねであるため、得られた流跡線が変化することはありません。

流線・流跡線・流脈線

流線:ある瞬間の速度ベクトルの包絡線

流跡線:流体のある一部分を長時間観察したときの軌跡   

流脈線:固定した定点を通過した流体のある瞬間でのつながり

なお、流れに時間変化がないとき(=定常流)、流線・流跡線・流脈線は一致します。

一方、流れが時間変化する(=非定常流)とき、三者は一致しません。

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定常流と非定常流

ちょうど定常流非定常流についての話題がでてきたので、これらの用語について解説しておきます。

先述したように、定常流とは、時間変化の無い流れです。

例えば、蛇口を少しだけ開けた状態で流れ出る水は、定常流と言えます。

一方、非定常流とは、時間経過と共に変化する流れです。

蛇口を開けた直後の水の流れなどが非定常流となります。

非定常流はさらに脈動流過渡に分けられます。

血液の流れのように、周期的に流速や圧力が変動する流れが脈動流と呼ばれ、流れの状態がある状態から別の状態に移行する過程の流れが過渡流になります。

似た概念に一様流非一様流があります。

場所に依らず、速度ベクトルが一定の流れを一様流と呼びます。

一方、場所により速度ベクトルが変化する流れを非一様流と呼びます。

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渦とは?

流体力学では度々、が登場し複雑な現象を解明するための鍵となります。

渦が流体力学に果たす重要な役割について本格的に明らかになるのは、20世紀以降になってからですが、歴史に名を残す偉大な科学者たちは独特な嗅覚で渦に関心を持っていたのでしょう。

たとえば、ダヴィンチの手記には渦のスケッチが描かれていますし、マクスウェルの方程式で有名なジェームズ・クラーク・マクスウェルも渦に関心を持っていました。

今回は詳細には立ち入りませんが、渦の性質について簡単に触れておきます。

渦とは、ある点の周りを回る流れのことです。(旋回流とも言います)

様々な種類の渦がありますが、代表的なのは自由渦強制渦の二つです。

自由渦は、流速$v$が中心からの距離$r$に反比例して変化する渦です。外部からのエネルギーの供給が無いときに発生します。

\begin{eqnarray}
v \propto \ff{1}{r}
\end{eqnarray}

したがって、自由渦では中心で流速が無限大になります。

一方、強制渦は、流速$v$が中心からの距離$r$に比例して変化する渦です。エネルギーが外部から供給されるときに発生します。

\begin{eqnarray}
v \propto r
\end{eqnarray}

強制渦では無限遠で流速が無限大になります。

自由渦は中心で流速が無限大になりますが、自然界において流速が無限になることは無いと考えられます。

そのため、自然界には純粋な自由渦は存在しません。

自然界の渦は、渦の中心付近では強制渦、外側で自由渦が組み合わさった構造をしていることが知られています。

このような渦をランキンの組み合わせ渦と呼びます。

最後に、渦についての面白い特徴を紹介して今回の終わりとします。

実は、渦にもある種の保存則のようなモノが存在することが知られており、流体が理想流体であるとき、場に存在する渦の強さの合計が保存されることがヘルムホルツにより示されています。

この事実は、ヘルムホルツの渦定理として知られています。

ヘルムホルツの渦定理を分かりやすく言うと、『非粘性流体では外部からエネルギーが与えられなければ、渦は(新たに)発生も消滅もしない。』ということです。

この考えを推し進めると、渦を電磁気学での電気力線や磁力線のアナロジーとして利用することができるのですが、詳細についての解説は別の機会に行うことにします。

次回、層流と乱流について解説し、流体力学の基礎編を終わりとします。

いよいよ数式を駆使して流体力学に本格的に取り組んでいくことになります。

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