今回はランキンの卵形と呼ばれる流れについて解説します。ランキンの卵形は、ポテンシャル流れの合成により生み出される流れの中でも、視覚的にも美しい流れの一つです。
また、円柱周りの流れの様子についても解説します。
ランキンの卵形とは?
強さが $k$ で等しい湧き出しと吸い込みを、複素平面の実軸上の $-a$ と $a$ に配置したとします。この流れは湧き出し・吸い込み対と呼ばれ、その流線の様子はこちらで描いたようになります。
ここではさらに、湧き出し・吸い込み対の流れに一様流を合成したときの様子について考えていきます。
ポテンシャル流れの合成の考えに従ってこの流れの複素速度ポテンシャルを表すと次のようになります。(ただし、$k>0$)
\begin{split}
w&=Uz+k\log(z+a)-k\log(z-a)
\end{split}
ここで、$z=x+iy$ として流れ関数を求めると、
\begin{split}
\psi&=Uy-k\tan^{-1}\left(\ff{2ay}{x^2+y^2-a^2}\right)
\end{split}
となります。
この式から流線を描くと次のようになります。
流線の様子を見ると、一様流中に卵形の領域があるように見えるため、ランキンの卵形あるいはランキンの楕円と呼ばれます。
ランキンの卵形とよどみ点
ところで、ランキンの卵形の複素速度を考えると、
\begin{split}
q&=\ff{\diff w}{\diff z}=U+k\left( \ff{1}{z+a}-\ff{1}{z-a}\right)
\end{split}
となりますが、
これより、$q=0$ となるよどみ点の座標を求めることができ、その座標 $z_0$ を次のように求められます。
\begin{split}
z_0&=\pm\sqrt{a^2+\ff{2ak}{U}}
\end{split}
今、$a,U$ を定数とすると、$z_0$ は $k$ により決まることが分かります。すなわち、よどみ点の座標を測定することで、ランキンの卵形内の湧き出し・吸い込み対の強さを推定できることが分かります。
ランキンの卵形と循環
一様流に沿って移動するとき、ランキンの卵形の内部には侵入できないため、湧き出し・吸い込み対の強さを測定することができません。
そこで、卵の内部に入らないような循環を計算することで、間接的に湧き出し・吸い込み対の強さが求められるかどうかを考えます。
$|z_0| < R$ として、原点を中心とした半径 $R$ の円 $C$ 上での循環を考えます。このとき、循環 $\Gamma$ と湧き出し(吸い込み)の流量 $Q$ はこちらで解説したように、周回積分により
\begin{split}
\Gamma+iQ &=\oint_C q\diff s \EE
&= \oint_C \left\{ U+k\left( \ff{1}{z+a}-\ff{1}{z-a}\right) \right\}\diff z \\[6pt]
&= \oint_C U\diff z+k\oint_C \ff{1}{z+a}\diff z-k\oint_C \ff{1}{z-a}\diff z
\end{split}
と表せました。この周回積分は、コーシーの積分定理と留数定理よりそれぞれ次のように求められます。
$$
\left\{
\begin{split}
\,&\oint_C U\diff z=0 \EE
\,&k\oint_C \ff{1}{z+a}\diff z=2i\pi k \EE
\,&k\oint_C \ff{1}{z-a}\diff z=2i\pi k
\end{split}
\right.
$$
これらの結果から、
\begin{split}
\oint_C q\diff s = 0\EE
\end{split}
となります。したがって、循環も湧き出しも $0$ であることが結論できます。
循環が $0$ となることは、渦無し流れであることから納得できます。一方、湧き出しが $0$ となることを不思議に感じますが、 ランキンの卵形内に存在する湧き出し・吸い込み対の強さが同じため、打ち消し合って $0$ となるのです。
これより、ランキンの卵形内の湧き出し・吸い込み対の強さを循環からは求められないことが分かります。
二重湧き出しと一様流
次に、強さが $k$ の二重湧き出しと一様流の合成を考えます。このときの流れはどのようになるでしょうか?
円柱周りの流れ
まず、ポテンシャル流れの合成を行うと次のようになり、
\begin{split}
w&=Uz+\ff{k}{z}
\end{split}
これより、流れ関数を $\psi=Uy-\DL{\ff{ky}{x^2+y^2}}$ と求めることができます。
さて、$k>0$ の場合に対して流線を描くと図のようになります。
ランキンの卵形と同様に、一様流の中に円形領域の存在を確認できます。このように、円形の領域を持つことから、この流れを円柱周りの流れと見なすことができます。
一方、$k<0$ の場合の流れは図のようになり、円柱周りの流れとは全く異なる流れになることが分かります。この流れでは、一様流の流線が二重湧き出しに吸い込まれるような流れになることを見て取れます。
次は、円柱周りの流れと循環の関係について考察しましょう。
円柱周りの流れと循環
円柱周りの流れの循環について考えます。ランキンの卵形と同様に、まずは複素速度を考えます。
このとき、複素速度は次のようになるので、
\begin{split}
q&=\ff{\diff w}{\diff z}=U-\ff{k}{z^2}
\end{split}
実軸上のよどみ点の座標は $z_0=\DL{\pm\sqrt{\ff{k}{U}}}$ となります。これより、$R>|z_0|$ の半径を持つ円 $C$ 上の循環を考えると、
\begin{split}
\oint_C q\,\diff s&=\Gamma+iQ\EE
&= \oint_C\left( U-\ff{k}{z^2} \right)\diff z \EE
&= 0
\end{split}
となり、やはり循環も湧き出し(吸い込み)の流量が $0$ であることが分かります。