以前、流線について解説しましたが、今回は流線を数式で表示することを目標に考察していきます。まずは、結論から先に示しておきます。
また、流線は流れ関数$\psi$(プサイ)によっても記述することができ、以下の式を満足するような関数のことを流体力学では流れ関数と呼びます。
今回は、流線の方程式と流れ関数の導出方法について解説していきます。
流線の方程式
簡単のため、二次元の世界での流れを考えます。このような流れを二次元流れと呼びます。この二次元流れの中で次のような流線があったとします。→流線とは?
流線はある瞬間の各速度ベクトルの包絡線として定義されますが、視点を変えると、流線の接線は速度ベクトルであるとも言えます。→流線の定義とは?
例えば、流線のある一点での接線が図のようになったとします。そして、この位置での速度が$V$であったとします。
直交座標系で考えて速度ベクトルのベクトル分解を行うと、$x, y$方向の速度を$u, v$と分解できます。ここで流線が$y=f(x)$という関数で表せるとすると、接線の定義と微分から、
\begin{eqnarray}
\ff{\diff y}{\diff x} = \ff{u}{v}
\end{eqnarray}
という関係式が成立することが分かります。上式を変形すると、
\begin{eqnarray}
\ff{\diff x}{u} = \ff{\diff y}{v}
\end{eqnarray}
という式が導けます。この方程式は流体の圧縮性・非圧縮性に関わらず成立する方程式であること覚えておいてください。
流線と流れ関数
もう少し流線の方程式について考えてみましょう。先述の流線の方程式を再掲します。この方程式は流体の圧縮性・非圧縮性に関わらず成立する方程式であること覚えておいてください。
これを変形すると、
\begin{eqnarray}
-v\diff x + u\diff y = 0 \tag{1}
\end{eqnarray}
とできます。
ところで、流線が $\psi$(プサイ)なる関数を使って表せるとします。なお、$\psi$ の大きさについての物理的な側面については後ほど考察します。この関数は$x, y$ の二変数関数となるので、$\psi (x,y)$と表示できます。
$\psi$を全微分すると次のようになります。
\begin{eqnarray}
\diff \psi = \ff{\del \psi}{\del x} \diff x + \ff{\del \psi}{\del y} \diff y \tag{2}
\end{eqnarray}
$\psi$ の値が流線上で一定とすると、$\diff \psi = 0$となります。すなわち、$\psi=const.$ であるとき、$\psi$ は流線と一致すると言えます。したがって、式(1)と(2)の係数を比較すると、
$$
\left\{
\begin{eqnarray}
u &=& \ff{\del \psi}{\del y}\EE
-v &=& \ff{\del \psi}{\del x}
\end{eqnarray}
\right.
$$
の関係式が導けます。ところで、$\psi$の二階偏微分については以下の等式が成立します。
\begin{eqnarray}
\ff{\del^2 \psi}{\del y \del x} = \ff{\del^2 \psi}{\del x \del y}
\end{eqnarray}
これより、
\begin{split}
&-\ff{\del v}{\del y} = \ff{\del u}{\del x} \EE
&\therefore \,\, \ff{\del u}{\del x} + \ff{\del v}{\del y} = 0
\end{split}
という式を導けます。関数$\psi$を通して流線の方程式が導けることが示されました。さて、この式を満足するような関数のことを流体力学では流れ関数と呼びます。
※ 流れ関数の定義式を偏微分すると、
\begin{split}
\ff{\del u}{\del x} + \ff{\del v}{\del y} &=& \,\ff{\del^2 \psi}{\del x\del y}\,-\ff{\del^2 \psi}{\del y\del x} = 0
\end{split}
となります。これより、流れ関数が流線、そして流量と関係がありそうなことが分かります。流れ関数の正体については次章で考察していきます。
流れ関数の物理的意味
それでは、流れ関数の物理的な意味について考えてみましょう。状況を考えやすくするため、二点$\RM{P, Q}$間を横切って流入・流出する流量について考えましょう。
図のように、$\RM{PAQB}$に囲まれた領域を考えます。
また、流体は非圧縮性流体とします。なお、この領域の中に湧き出しや吸い込みもないとします。
連続の式の回について解説したように、非圧縮性流体では$\RM{PQ}$の断面を横切る流量は一定になるため、$\RM{PAQ}$と$\RM{PBQ}$を横切る流量も等しくなります。
始めに、$\RM{PAQ}$の線素$\diff s$を横切る流量について計算してみます。線素$\diff s$に対して、垂直な方向の流速を$q_n$、$\diff x, \diff y$を横切る流速をそれぞれ$-v, u$とします。
非圧縮性流体では連続の式について解説したように、流量は流速と断面積から計算できます。したがって、連続の式は次のようになります。
\begin{split}
q_n \diff s = – v\,\diff x+u\diff y
\end{split}
これを$\RM{P}$から$\RM{Q}$まで線積分すると、断面全体を通過する流量を計算でき、流量を$Q_{\RM{AB}}$と置くと、
\begin{split}
Q_{\RM{AB}}&=\int_{\RM{P}}^{\RM{Q}} q_n \diff s \EE
&= \int_{\RM{P}}^{\RM{Q}} (u\diff y\,- v\diff x) \EE
&= \int_{\RM{P}}^{\RM{Q}} \diff \psi \,\,= \psi
\end{split}
と計算できます。さて、先述の結果から分かるように、$\diff \psi=u\diff y- v\diff x$ であるため、この積分結果は$\psi$となります。つまり、流れ関数$\psi$は、流量の言い換えであると言えます。
なお、流量はスカラーであるため、流れ関数もスカラー関数となります。→スカラーとは?
これより、流量が一定であるとき $\diff \psi$ が $0$ となる理由が分かります。流量が一定となるなるように流れ関数(流線)を引くと、等高線のような図を描けます。また、流量が多い所では流れ関数(流線)が密になることも分かります。
流れ関数はポテンシャル流れとも関連します。ポテンシャル流れについては別の機会に詳しく解説します。