ジューコフスキーの仮説とは? 平板周りの流れの解析|翼周りの流れの解析④

スポンサーリンク
ホーム » 流体力学 » ジューコフスキーの仮説とは? 平板周りの流れの解析|翼周りの流れの解析④

一様流中に置かれた円柱・平板・楕円柱周りの流れの解析を行います。最初に円柱周りの流れの解析から始めて、ジューコフスキー変換により、平板・楕円柱周りの流れの解析を行います。

また、平板周りの流れの解析を通して、ジューコフスキーの仮説クッタの条件)について解説します。

ジューコフスキーの仮説

流速 $U$ の一様流中に、迎角 $\A$ で置かれた平板に対して、端点での流速が無限大になることを避けるため、次の大きさで表される循環を平板周りに与える。

\begin{split}
\Gamma=4\pi U a\sin\A
\end{split}

この条件をジューコフスキーの仮説(クッタの条件)と呼ぶ。

スポンサーリンク

一様流中に置かれた円柱周りの流れ

始めに、円柱周りの流れから考えます。

一様流中に置かれた円柱周りの流れは、二重湧き出し一様流の合成により再現できることが知られています。すなわち、円柱周りの流れの複素速度ポテンシャルは次のように記述されます。

\begin{split}
w&=Uz+\ff{Ua^2}{z}
\end{split}

今、$x,y$ を実数として、$z=x+iy$ とすると、流れ関数は $\varphi=Uy-\DL{\ff{Ua^2y}{x^2+y^2}}$ とでき、これより流線を下図のように描画することができます。

円柱周りの流れ

迎角を有する円柱周りの流れ

一様流が水平方向のみでなく、斜めに当たる場合の流れの取り扱いについて考えます。

一様流が水平方向に対して迎角 $\A$ で円柱に当たっている状況を考えます。

これを複素平面の変換の言葉に翻訳すると、『一様流を原点中心で $\A$ 回転させる』ということになります。ただし、テクニックの観点から言えば $z$ 平面を $-\A$ 回転させることにも相当するので、『$z$ 平面を $-\A$ 回転させる』ことを考え、複素速度ポテンシャルを

\begin{eqnarray}
w=Uze^{-i\A}+\ff{Ua^2}{ze^{-i\A}}\tag{1}
\end{eqnarray}

とします。複素平面上での回転については、こちらで詳しく解説しています。

この複素速度ポテンシャルから流線を描くと、図のようになります。

角度を有する一様流に対する円柱周りの流れ

このようにして、円柱に対して一様流が迎角 $\A$ で当たる様子を再現できます。

スポンサーリンク

平板周りの流れ

ジューコフスキー変換を円柱周りの流れに適用することで、平板や楕円柱周りの流れを再現できます。

まずは、平板周りの流れから見ていきます。まず、ジューコフスキー変換を次のように定め、

\begin{split}
\zeta = z+\ff{a^2}{z}
\end{split}

変換対象の円柱の半径を $a$ としたとき、平板周りの流れを得ることができます。実際に迎角 $\A$ を有する平板周りの流れを描くと次のようになります。

平板周りの流れ

平板周りの流れのよどみ点の座標を求めに行きます。

ジューコフスキー変換の表式より、$\DL{z=\ff{1}{2}(\zeta+\sqrt{\zeta^2-4a^2})}$ とできて、これを式(1)に適用すると、複素速度ポテンシャル

\begin{split}
w&=U\left\{\ff{e^{-i\A}}{2}\left(\zeta+\sqrt{\zeta^2-4a^2}\right) +\ff{a^2e^{i\A}}{\ff{1}{2}\left(\zeta+\sqrt{\zeta^2-4a^2}\right)}\right\} \EE
\end{split}

と求められます。

このような複雑な式から複素速度を求めるのは大変なので、チェーンルールを利用します。すると、平板周りの複素速度は次のように求められます。

\begin{eqnarray}
q&=&\ff{\diff w}{\diff \zeta} =\ff{\diff w}{\diff z}\ff{\diff z}{\diff \zeta} =\ff{\diff w}{\diff z}\ff{1}{\ff{\diff \zeta}{\diff z}} \EE
&=& \left(Ue^{-i\A}-\ff{Ua^2}{e^{-i\A}}\ff{1}{z^2} \right) \ff{z^2}{z^2-a^2} \EE
&=&\ff{e^{-i\A}z^2-a^2e^{i\A}}{z^2-a^2}U\tag{2}
\end{eqnarray}

よどみ点の座標は、$q=0$ とすれば求められます。ゆえに、式(2)より、$z=\pm ae^{i\A}$ にてよどみ点となることが分かります。

これより、$\zeta$ 平面上のよどみ点の座標は、

\begin{split}
\zeta &= \pm ae^{i\A}+\ff{a^2}{\pm ae^{i\A}} \EE
&= \pm 2a\cos\A
\end{split}

と求められます。

平板周りの流れ

スポンサーリンク

楕円柱周りの流れ

次に、楕円柱周りの流れについて考えます。

楕円周りの流れ

楕円柱周りの複素速度は、先程と同様の議論により、

\begin{eqnarray}
q&=\ff{e^{-i\A}z^2-R^2e^{i\A}}{z^2-a^2}U\tag{3}
\end{eqnarray}

と求められます。ただし、$R\neq a$ とします。

これより、よどみ点の座標は $z=\pm Re^{i\A}$ となり、$\zeta$ 平面上の座標は、

\begin{split}
\zeta &= \pm Re^{i\A}+\ff{a^2}{\pm Re^{i\A}} \EE
&= \left( R+\ff{a^2}{R} \right)\cos\A+i\left( R-\ff{a^2}{R} \right)\sin\A
\end{split}

となります。

スポンサーリンク

平板・楕円柱周りの流れと循環の合成

ところで、式(2)から分かるように、$z=a$ の点、すなわち、端点で流速が無限大になるという不合理が生じていることが分かります。

この不合理は、数学的には循環を合成することで解消されます。循環が生まれる物理的な仕組みについては別の機会に解説します。

まずは、楕円柱周りの流れに対して、循環を加えた場合の流れについて考えます。循環は回転流であるため、このときの複素速度ポテンシャルは次のようになります。

\begin{eqnarray}
w=Uze^{-i\A}+\ff{UR^2}{ze^{-i\A}}+i\ff{\Gamma}{2\pi}\log(ze^{-i\A})
\end{eqnarray}

ただし、循環を $\Gamma$(ガンマ)で表すとします。

この複素速度ポテンシャルから流線の様子を描画すると、図のようになります。

楕円柱周りの流れと循環

さて、複素速度

\begin{eqnarray}
q&=\ff{\diff w}{\diff z}\ff{\diff z}{\diff \zeta}=\ff{Ue^{-i\A}}{z^2-a^2}\left(z^2+i\ff{\Gamma e^{i\A}}{2\pi U}z-R^2e^{2i\A} \right)\tag{4}
\end{eqnarray}

となります。よどみ点にて $q=0$ となることより、

\begin{eqnarray}
0&=&z^2+i\ff{\Gamma e^{i\A}}{2\pi U}z-R^2e^{2i\A} \EE
&=&z+i\ff{\Gamma e^{i\A}}{2\pi U}-\ff{R^2e^{2i\A}}{z}
\end{eqnarray}

と置けます。これを $z$ について解き、ジューコフスキー変換の式に代入することで、楕円柱上のよどみ点の座標が求められます。

ジューコフスキーの仮説

特に、$R=a$ としたとき、ジューコフスキー変換の結果は平板となります。したがって、循環を平板周りの流れに加えた時の、よどみ点の座標 $\zeta_0$ を次のように求めれらます。

\begin{split}
\zeta_0&=\ff{1}{2\pi U}\big(\Gamma\sin\A\pm \sqrt{(4\pi Ua)^2-\Gamma^2}\cdot\cos\A \big)
\end{split}

これより、$\Gamma$ の値を変化させることで $\zeta_0$ の位置を変えられることが分かります。すなわち、$\Gamma$ を上手く選ぶことで $\zeta_0$ を平板の端点に配置でき、流速が端点にて無限大になる不合理を回避できるのです。

$\zeta_0$ を平板の端点に配置することは、式(4)を、$z=a$ にて $q=0$ となるよう、$\Gamma$ を設定することに相当します。具体的に $\Gamma$ を計算すると、

\begin{split}
0&=a+i\ff{\Gamma e^{i\A}}{2\pi U}-\ff{a^2e^{2i\A}}{z} \EE
i\ff{\Gamma e^{i\A}}{2\pi U} &= a-\ff{a^2e^{2i\A}}{z} \EE
i\Gamma &=2\pi U \left( ae^{i\A}-ae^{-i\A} \right) \EE
\therefore\,\, &\Gamma = 4\pi Ua\sin\A
\end{split}

となります。

このように、$\Gamma=4\pi U a\sin\A$ と設置することで、よどみ点を平板の端点に配置でき、端点で流速が無限大になることを回避できます。

流速が端点で無限大にならないように設けるこの条件を、ジューコフスキーの仮説、あるいはクッタの条件と呼びます。

ジューコフスキーの仮説

流速 $U$ の一様流中に、迎角 $\A$ で置かれた平板に対して、端点での流速が無限大になることを避けるため、次の大きさで表される循環を平板周りに与える。

\begin{split}
\Gamma=4\pi U a\sin\A
\end{split}

この条件をジューコフスキーの仮説(クッタの条件)と呼ぶ。

ジューコフスキーの仮説は、現実の翼に生じる揚力を計算するときに用いられます。

タイトルとURLをコピーしました