複素速度ポテンシャルが表す流れ場について解説します。
今回は特に、複素速度ポテンシャルが一次関数で表される場合と、べき関数で表される場合の流れを見ていきます。
例えば、複素速度ポテンシャルが $w=Az^{-2},Az^{-4}$ で表されるとき、次のような流線を描くことが知られています。
一様流
初めに、一次関数で表される複素速度ポテンシャルがどのような流れを表すのかを考えます。
今、複素速度ポテンシャルは次のように表せます。ただし、$A$ を複素定数とし、$A=a+ib$ とします。($a,b$ は実数)
\begin{split}
w=Az
\end{split}
$z=x+iy$ として複素速度ポテンシャルを展開すると次の式を得られます。
\begin{split}
w&=(a+ib)(x+iy) \EE
&= (ax-by)+i(bx+ay)
\end{split}
これより、速度ポテンシャル $\varphi$ と流れ関数 $\psi$ を次のようにできます。
$$
\left\{
\begin{split}
\,\varphi&=ax-by \EE
\,\psi&= bx+ay
\end{split}
\right.
$$
これより $u,v$ を次のように表示でき、定数となることが分かります。
$$
\left\{
\begin{split}
\,u&=\ff{\del \varphi}{\del x}=a \EE
\,v&= \ff{\del \varphi}{\del y} = -b
\end{split}
\right.
$$
$u,v$ が定数になることから、複素速度ポテンシャルが一次関数で表されるとき、一様な流速を持つ流れ場を表すことが理解できます。流れの様子は次のようになります。
図から流速の大きさは $\sqrt{a^2+b^2}$ と表せ、さらに、平行軸との成す角を $\q$ として、$\q = \DL{\tan^{-1}\ff{b}{a}}$ という関係にあることも理解できます。
なお、$A$ が実数のとき $b=0$ のため、$\q=0$ となります。これは、$x$ 軸に平行な流れを表すと言えます。
べき乗の複素速度ポテンシャル
次に、べき関数の複素速度ポテンシャルが表す流れ場について考えます。今、複素速度ポテンシャルとして次のようなべき関数を考えます。($k$ は実数)
\begin{split}
w=Az^{k}
\end{split}
$z$ を極形式を使って表すと $z=r(\cos\q+i\sin\q)$ とでき、これより、複素速度ポテンシャルを
\begin{split}
w=Ar^{k}(\cos\q+i\sin\q)^{k}
\end{split}
とも表せます。さらに、ド・モアブルの定理より、
\begin{split}
w=Ar^{k}(\cos k\q+i\sin k\q)
\end{split}
となります。
以上より、次のように速度ポテンシャルと流れ関数の表式が得られます。
$$
\left\{
\begin{split}
\,\varphi&=Ar^{k}\cos k\q \EE
\,\psi&= Ar^{k}\sin k\q
\end{split}
\right.
$$
流れの様子は流線を見れば分かり、流線は $\psi = const.$ とすると得られます。
例えば、$\psi=0$ の場合を考えると、$\q=\DL{\ff{n\pi}{k}}$($n$:整数)となり、流線は図のように表せます。このとき、$\psi=0$ の流線上で流速が $0$ となるため、この線を”壁”と見なすこともできます。
$\psi=c\,(c\neq 0)$ の場合について考えると、以下のような流線を描けます。
まず、$k=1,2,4$ の場合での流線は次のようになります。
次に、$k=-2,-4$ の場合での流線は次のようになります。
これらの図より、指数が正のとき原点から遠ざかるような流れであり、負のときは原点に吸い込まれるような流れであることが分かります。
凸部と凹部の流れ
べき関数で表される複素速度ポテンシャルの流れの様子を見ることができたので、次は流速について見ていきます。
さて、流体の速度を表す複素速度 $q$ は以前学んだように、次のように計算できます。
\begin{split}
q=\ff{\diff w}{\diff z} &= kAz^{k-1}
\end{split}
そして、$q$ の絶対値が流速を表すことから、流速は $|q|=kAr^{k-1}$ とできます。
このことを踏まえ、凸部と凹部を回る流れの流速について考えます。
左図のような凹部を回る流れでは凹部の角に近づくにつれ、$r\to 0$ となるため、流速 $|q|$ は $0$ となります。
一方、凸部を回る流れでは角に近づくにつれ、$r\to0$ となりますが、ここでの流速は $|q|\to\infty$ となることが分かります。
現実には粘性があるために流速が無限となることは無く、代わりに流れの剥離などの複雑な流れが生じます。