液体や気体などの流体は圧縮に対する弾性はありますが、せん断力が作用しないという性質があります。
※ 流体の性質についての詳しい解説はこちらで行っています。
これより、流体中を伝わる波は横波ではなく縦波のみであると言えます。
つまり、水面を伝わる波は一見、横波のように見えて、実は表面重力波と呼ばれる特殊な波と言えます。
今回は、今までに学んだ流体力学の知識を活かして表面重力波について解析していきます。
※ 表面重力波は宇宙論で語られる重力波とは全く異なるものです。
圧力方程式の導出
ところで、渦度を用いたオイラーの運動方程式は次のように表せました。
\begin{eqnarray}
\ff{\del \B{v}}{\del t} -\B{v}\times\B{\zeta}&=& -\RM{grad}\left( \ff{1}{2}v^2+u+\Phi \right)\\
\end{eqnarray}
そして、流れがポテンシャル流れであるとき、$\B{\zeta}=\B{0}$ であるため、上式は、
\begin{eqnarray}
\ff{\del \B{v}}{\del t}&=& -\RM{grad}\left( \ff{1}{2}v^2+u+\Phi \right)\\
\end{eqnarray}
となります。
さらに、速度ポテンシャル関数 $\varphi$(ファイ)を使って流速 $\B{v}$ は、$\B{v}=\RM{grad}\varphi$ と表せるので、
次のように整理できます。
\begin{eqnarray}
0&=& \RM{grad}\left( \ff{\del \varphi}{\del t}+\ff{1}{2}v^2+u+\Phi \right)\\
\end{eqnarray}
これを積分すると、$C$ を定数として以下のような式を導出できます。
\begin{eqnarray}
\ff{\del \varphi}{\del t}+\ff{1}{2}v^2+u+\Phi=C
\end{eqnarray}
この方程式を圧力方程式または、一般化したベルヌーイの定理と呼びます。
※ 太字はベクトルを表します。詳しくはこちらで解説しています。
※ $u$ の正体については、次節で明らかにします。
圧力方程式の具体化
圧力方程式を具体的に書き下し、表面重力波導出の準備を行います。
まず、$u$ についてですが、
\begin{eqnarray}
u=\ff{p}{\rho}
\end{eqnarray}
とできることが知られています。
ただし、$\rho$ を流体の密度、$p$ を圧力とします。
また、重力のみが作用しているとき、ポテンシャルエネルギーは $gz$ とできるため、
圧力方程式は次のように書き換えられます。
\begin{eqnarray}
\ff{\del \varphi}{\del t}+\ff{1}{2}v^2+\ff{p}{\rho}+gz=C \\
\end{eqnarray}
さて、$C$ は初期状態から決まる値です。
すなわち、静止状態かつ、基準の位置では、$\DL{\ff{\del \varphi}{\del t}=0, v=0, z=0}$ とできるため、
基準の位置での圧力と密度を $p_0, \rho_0$ として、
\begin{eqnarray}
C=\ff{p_0}{\rho_0} \\
\end{eqnarray}
とできます。
この圧力方程式を表面重力波の計算に用います。
表面重力波の方程式
水を理想流体として近似して考えるとき、重力のみが作用している水の運動は圧力方程式に従うと言えます。
つまり、水面の変位を水平方向からの距離で規定すると、この変位は座標と時間の関数となるため、
水面での変位は、$z=\xi(x,y,t)$(グザイ)と置くことができます。
これより、大気圧を $p_0$ として圧力方程式は次のように変形できます。
\begin{split}
&\ff{\del \varphi}{\del t}+\ff{1}{2}v^2+\ff{p_0}{\rho_0}+g\xi=\ff{p_0}{\rho_0} \\[6pt]
\therefore\,\, &\xi = -\ff{1}{g}\ff{\del \varphi}{\del t}-\ff{1}{2g}\B{v}^2\\
\,
\end{split}
ところで、この流れはポテンシャル流れであるため、水面の $z$ 方向に関する速度 $w$ は、
\begin{eqnarray}
w = \ff{\del \varphi}{\del z}
\end{eqnarray}
と表せます。($\varphi$ は速度ポテンシャルとします)
ところで、速度は物質微分を利用しても次のようにも表せます。
\begin{split}
w&=\ff{\del \varphi}{\del z}\EE
&= \ff{\del\varphi}{\del t}+u\ff{\del\varphi}{\del x}+v\ff{\del\varphi}{\del y}
\end{split}
水面でもこの方程式が成立するため、
\begin{split}
w&=\ff{\del\xi}{\del t}+u\ff{\del\xi}{\del x}+v\ff{\del\xi}{\del y}
\end{split}
となります。
以上をまとめると、
$$
\left\{
\begin{split}
&\xi = -\ff{1}{g}\ff{\del \varphi}{\del t}-\ff{1}{2g}\B{v}^2 \\[6pt]
&w= \ff{\del\xi}{\del t}+u\ff{\del\xi}{\del x}+v\ff{\del\xi}{\del y}
\end{split}
\right.
$$
となります。
水面波の振幅が小さいとすると、これらの式は次のように近似できます。
$$
\left\{
\begin{split}
&\xi = -\ff{1}{g}\ff{\del \varphi}{\del t} \\[6pt]
&w=\ff{\del \varphi}{\del z}= \ff{\del\xi}{\del t}
\end{split}
\right.
$$
2式から $\xi$ を消去して、
\begin{split}
\ff{\del \varphi}{\del z}= -\ff{1}{g}\ff{\del^2\varphi}{\del t^2}
\end{split}
とできて、
\begin{eqnarray}
\ff{\del^2\varphi}{\del t^2}+g\ff{\del \varphi}{\del z}=0 \tag{1}
\end{eqnarray}
という微分方程式を導けます。
表面重力波の導出
表面重力波の方程式を導けましたが、このままでは解けないため、
速度ポテンシャルが満たすべき方程式をもう一つ考えます。
表面重力波が $x,z$ 方向の二次元に限られているとすると、ポテンシャル流れのため、
$\varphi$ は次のラプラス方程式を満たすと言えます。
\begin{eqnarray}
\ff{\del^2\varphi}{\del x^2}+\ff{\del^2\varphi}{\del z^2}=0 \tag{2}
\end{eqnarray}
これが、速度ポテンシャルが満たすもう一つの微分方程式となります。
ラプラス方程式の解はいくつか候補がありますが、表面重力波は三角関数で近似できるため、
\begin{eqnarray}
\varphi = f(z)\sin (kx-\omega t)
\end{eqnarray}
とすることができます。
ただし、$k$ は波数($2\pi$ 当たりの波の個数)$\omega$ は角振動数とします。
これを式(2)に代入して計算すると、次のように整理できます。
\begin{split}
0&=\ff{\del^2\varphi}{\del x^2}+\ff{\del^2\varphi}{\del z^2} \EE
&=\ff{\del^2 f(z)}{\del z^2}\sin (kx-\omega t)-k^2f(z)\sin (kx-\omega t) \EE
&= \left(\ff{\del^2 f(z)}{\del z^2}-k^2f(z) \right)\sin (kx-\omega t)
\end{split}
この方程式が恒等的に成立するには、$\DL{\ff{\diff^2 f(z)}{\diff z^2}-k^2f(z)}=0$ とならなければなりません。
この微分方程式の $f(z)$ の一般解は、
\begin{eqnarray}
f(z) &=& C_1e^{kz}+C_2e^{-kz} \tag{3}\EE
&=& C\cosh kz
\end{eqnarray}
であり、したがって、$\varphi = C\cosh kz\cdot\sin (kx-\omega t)$ とできます。
これを式(1)に代入すると、
\begin{eqnarray}
\omega^2 C\cosh kz\cdot\sin (kx-\omega t) = gkC\sinh kz\cdot\sin (kx-\omega t)
\end{eqnarray}
となります。
これより、$\omega^2=gk\tanh kz$ の関係を導けます。
以上、求めた結果を $\xi$ の方程式に代入すると次のような関数が求められます。
\begin{split}
\xi &= -\ff{1}{g}\ff{\del \varphi}{\del t} \EE
&= \ff{C\omega}{g}\cosh kz\cdot\cos (kx-\omega t) \EE
\therefore\,\, \xi&=\ff{Ck}{\omega}\sinh kz\cdot\cos (kx-\omega t)
\end{split}
さて、波の位相速度 $c$ は $\DL{c=\ff{\omega}{k}}$ の関係があるため、
\begin{split}
c=\sqrt{\ff{g}{k}\tanh kz}
\end{split}
とできますが、底($z\to\infty$)では変位が $0$ となるため、$C_2=0$ でなければなりません。(式(3)参照)
しがって、$\DL{\lim_{z\to -\infty}\tanh kz = 1}$ となり、底での位相速度は
\begin{split}
c=\sqrt{\ff{g}{k}}
\end{split}
となります。
一方、水面($z=h$)では、$\tanh$ の性質から、$\tanh kh = kh$ となります。
このときの位相速度は、
\begin{split}
c=\sqrt{gh}
\end{split}
となります。
これより、式から分かるように、水面での位相速度は水深に比例して増加することが分かります。
表面重力波の流体の運動
表面重力波の方程式を解くことができたので、次は流体の運動を考えていきます。
ここでも、表面重力波がポテンシャル流れであることを利用します。
すなわち、流速 $u, w$ は次のようにできて、
$$
\left\{
\begin{split}
&u=\ff{\del \varphi}{\del x} \\[6pt]
&w=\ff{\del \varphi}{\del z}
\end{split}
\right.
$$
これより、$u,z$ は、
$$
\left\{
\begin{split}
u&=\ff{\del \varphi}{\del x} =k\cosh kz\cdot\cos (kx-\omega t) \\[6pt]
w&=\ff{\del \varphi}{\del z} =k\sinh kz\cdot\sin (kx-\omega t)
\end{split}
\right.
$$
となります。
時刻 $t$ での流体の位置は、$u, v$ を時間で積分すれば求められます。
ここで、流体の平均の位置を $x_0, z_0$ とすると、
時刻 $t$ での流体の位置は、$x=x_0+x(t), z=z_0+z(t)$ と表せます。
このとき、$x(t), z(t)$ は $x_0, z_0$ での $u_0, w_0$ を時間積分すれば求められ、
$$
\left\{
\begin{split}
x-x_0&=\int u_0\,\diff t =-\ff{k\cosh kz_0}{\omega}\cdot\sin (kx_0-\omega t)\\[6pt]
z-z_0&=\int w_0\,\diff t=\ff{k\cosh kz_0}{\omega}\cdot\cos (kx_0-\omega t)
\end{split}
\right.
$$
となります。
ここで、$(x-x_0)^2+(z-z_0)^2$ を計算してみると、
\begin{split}
(x-x_0)^2+(z-z_0)^2&=\left( \ff{k\cosh kz_0}{\omega} \right)^2
\end{split}
とできて、これが円の方程式であることから、
流体は平均位置を中心として円運動を行うことが分かります。