熱の出入りの無い容器内での流れのことを、等エントロピー流れと呼びます。等エントロピー流れにおいて、オイラーの運動方程式は次のように表せます。
等エントロピー流れにおいて、オイラーの運動方程式は次のように表せる。
\begin{eqnarray}
\ff{\del \B{v}}{\del t} -\B{v}\times\B{\zeta}&=& -\RM{grad}\left( \ff{1}{2}v^2+u+\Phi \right)\\
\,
\end{eqnarray}
ただし、$\B{\zeta}$ を渦度とします。今回は等エントロピー流れについて解説し、どのような方程式で表されるのかについて解説します。
エントロピーとは?
まずは、エントロピーについての簡単な解説を行います。エントロピーとは、熱力学にて定義される物理量であり、様々な場面で利用されます。
ここでは、孤立系(断熱され、物質の出入りも無い系)に対してのエントロピーを考えます。この系に対して大きさ $\D Q$ の熱が作用したとします。
この変化が準静的過程であるとすると、前後での温度変化は無いと言えます。そのため、系の温度は $T_1$ で一定と言えます。さて、このときエントロピーの変化 $\D S$ を次のように定義します。
準静的過程にて、$\D Q$ の熱量変化があったとき、
エントロピーの変化 $\D S$ を次のように定義する。
\begin{split}
\D S = \ff{\D Q}{T} \\
\,
\end{split}
したがって、この時のエントロピー変化は、
\begin{split}
\D S = \ff{\D Q}{T_1} = S_2-S_1
\end{split}
と求められます。ところで、熱量の変化はエントロピーを使って、
熱量の変化とエントロピーの変化には次のような関係がある。
\begin{split}
\D Q = T \D S \\
\,
\end{split}
とできることも覚えておいてください。
等エントロピー流れとは?
エントロピーとエンタルピー
ところで、熱力学第一法則は、内部エネルギーの変化 $\D U$ 、熱量の変化 $\D Q$、仕事を $\D W$ を使って次のように表せます。
内部エネルギーの変化 $\D U$ と熱量の変化 $\D Q$、
仕事 $\D W$ の間には次のような関係がある。
\begin{split}
\D U = \D Q+\D W \\
\,
\end{split}
準静的過程においては、体積変化が無いため、$\D W$ は $V \D p$ とできます。流体の密度を $\rho$ とすると、$m=\rho V$ の関係があるため、
\begin{split}
V = \ff{m}{\rho}
\end{split}
とできます。これを踏まえて熱力学第一法則を整理すると、
\begin{split}
\D U = T \D S+\ff{m}{\rho}\D p \\
\end{split}
となります。ここで、単位体積当たりの内部エネルギーと、単位体積当たりのエントロピーの変化を $\D u, \D s$ とすると、
\begin{split}
\D u = T \D s+\ff{1}{\rho}\D p \\
\end{split}
という関係が導けます。
等エントロピー流れとは?
ところで、流体が断熱容器に入れられているとすると、エントロピーの変化は $0$ となります。このような流れのことを等エントロピー流れと呼びます。
等エントロピー流れ:エントロピーの時間変化が無い流れのこと
このとき、先述の式は、
\begin{eqnarray}
\D u = \ff{1}{\rho}\D p \tag{1}
\end{eqnarray}
となります。この関係式は後ほど利用します。
渦度とオイラーの運動方程式
等エントロピー流れにおけるオイラーの運動方程式を考えていきます。まず、オイラーの運動方程式を渦度を用いて書き換えます。復習になりますが、オイラーの運動方程式は次のように表せました。
\begin{eqnarray}
\ff{\del \B{v}}{\del t}+(\B{v}\cdot \nabla)\B{v}= -\ff{1}{\rho}\nabla p+\B{f}
\end{eqnarray}
$\nabla$(ナブラ)についての詳しい解説はこちら。この式の左辺第二項 $(\B{v}\cdot \nabla)\B{v}$ を渦度を用いて書き換えていきます。はじめに、渦度に $\B{v}$ の外積を掛けて計算すると次のようになります。
\begin{split}
\B{v}\times(\nabla\times \B{v})&=
\begin{vmatrix}
\B{i} & \B{j} & \B{k} \EE
u & v & w \EE
\DL{ \ff{\del w}{\del y}-\ff{\del v}{\del z}} & \DL{\ff{\del u}{\del z}-\ff{\del w}{\del x}} & \DL{\ff{\del v}{\del x}-\ff{\del u}{\del y}}
\end{vmatrix} \\[6pt]
&= \left( v\ff{\del v}{\del x}+w\ff{\del w}{\del x}-v\ff{\del u}{\del y}-w\ff{\del u}{\del z} \right)\B{i} \\[6pt]
&\qquad +\left( -u\ff{\del v}{\del x}+w\ff{\del w}{\del y}+u\ff{\del u}{\del y}-w\ff{\del v}{\del z} \right)\B{j} \\[6pt]
&\qquad\quad +\left( -u\ff{\del w}{\del x}-v\ff{\del w}{\del y}+u\ff{\del u}{\del z}+v\ff{\del v}{\del z} \right)\B{k}
\end{split}
ただし、$\B{v}=(u,v,w)$ とします。次に、 $\DL{\ff{1}{2}\nabla\B{v}^2}$ を計算すると、以下のようになります。
\begin{split}
\ff{1}{2}\nabla\B{v}^2 &= \ff{1}{2}\nabla(u^2+v^2+w^2) \EE
&= \left(u\ff{\del u}{\del x}+v\ff{\del v}{\del x}+w\ff{\del w}{\del x}\right)\B{i}\EE
&\qquad+\left(u\ff{\del u}{\del y}+v\ff{\del v}{\del y}+w\ff{\del w}{\del y}\right)\B{j}\EE
&\quad\qquad+\left(u\ff{\del u}{\del z}+v\ff{\del v}{\del z}+w\ff{\del w}{\del z}\right)\B{k}
\end{split}
以上より、$(\B{v}\cdot \nabla)\B{v}$ が、
\begin{split}
(\B{v}\cdot \nabla)\B{v} &= -\B{v}\times(\nabla\times \B{v})+\ff{1}{2}\nabla\B{v}^2 \EE
&=-\B{v}\times\B{\zeta}+\ff{1}{2}\nabla\B{v}^2
\end{split}
と変形できることが分かります。
渦度を $\B{\zeta}$ として、$(\B{v}\cdot \nabla)\B{v}$ の間には次のような関係がある。
\begin{split}
(\B{v}\cdot \nabla)\B{v} = -\B{v}\times\B{\zeta}+\ff{1}{2}\nabla\B{v}^2 \\
\,
\end{split}
したがって、渦度を $\B{\zeta}$ としてオイラーの運動方程式は次のように書き換えることができます。
渦度 $\B{\zeta}$ を用いて、オイラーの運動方程式は次のように変形できる。
\begin{eqnarray}
\ff{\del \B{v}}{\del t} -\B{v}\times\B{\zeta}= -\ff{1}{2}\nabla\B{v}^2-\ff{1}{\rho}\nabla p+\B{f} \\
\,
\end{eqnarray}
ベルヌーイの定理の導出
さて、オイラーの運動方程式は理想流体に対して成立する運動方程式でした。この理想流体に対して成立する方程式に、ベルヌーイの定理がありました。
運動方程式は現象を解析する基礎となるため、ベルヌーイの定理も導けるはずです。実際に検証してみましょう。渦度を用いたオイラーの運動方程式を再掲します。
\begin{eqnarray}
\ff{\del \B{v}}{\del t} -\B{v}\times\B{\zeta}&=& -\ff{1}{2}\nabla\B{v}^2-\ff{1}{\rho}\nabla p+\B{f} \EE
&=& -\ff{1}{2}\nabla\B{v}^2-\ff{1}{\rho}\nabla p-\nabla \Phi
\end{eqnarray}
今、$\B{f}$ が重力のような保存力であると仮定すると、
\begin{eqnarray}
\B{f} = -\nabla \Phi
\end{eqnarray}
とできます。ただし、$\Phi$(ファイ)をポテンシャルエネルギーとします。例えば、重力の場合、$\Phi=gh$ とできます。
ポテンシャルエネルギー を用いることで、$\B{f}=-\nabla \Phi$ と表せます。今、流体が等エントロピー流れであるとすると、式(1)より先述の式は次のようになります。
\begin{eqnarray}
\ff{\del \B{v}}{\del t} -\B{v}\times\B{\zeta}= -\ff{1}{2}\nabla\B{v}^2-\nabla \B{u}-\nabla \Phi
\end{eqnarray}
これより、
\begin{eqnarray}
\ff{\del \B{v}}{\del t} -\B{v}\times\B{\zeta}&=& -\RM{grad}\left( \ff{1}{2}v^2+u+\Phi \right)\tag{2}
\end{eqnarray}
とできます。
等エントロピー流れにおいて、オイラーの運動方程式は次のように表せる。
\begin{eqnarray}
\ff{\del \B{v}}{\del t} -\B{v}\times\B{\zeta}&=& -\RM{grad}\left( \ff{1}{2}v^2+u+\Phi \right)\\
\,
\end{eqnarray}
定常流のとき、$\DL{\ff{\del \B{v}}{\del t}=0}$ であるので、
\begin{eqnarray}
\B{v}\times\B{\zeta}&=& \RM{grad}\left( \ff{1}{2}v^2+u+\Phi \right)
\end{eqnarray}
と整理できます。ところで、$(\B{v}\times\B{\zeta})\cdot\B{v}=0$ であり、流線の接線方向に沿ったベクトルを $\B{s}$ とすると、$\DL{\RM{grad}\cdot\B{v}=\ff{\del}{\del s}}$ とできるので、
\begin{eqnarray}
\ff{\del}{\del s}\left( \ff{1}{2}v^2+u+\Phi \right)=0
\end{eqnarray}
よって、
\begin{eqnarray}
\ff{1}{2}v^2+u+\Phi=const. \tag{3}
\end{eqnarray}
となり、流線に沿ってこの値が定数となることが示せました。流体が非圧縮性流体の時、特に $\DL{u=\ff{p}{\rho}}$ であり、さらに $\Phi=gh$ とすると、上式は、
\begin{split}
&\ff{1}{2}v^2+\ff{p}{\rho}+gh=const. \EE
\therefore\,\, &\ff{1}{2}\rho v^2+p+\rho gh=const.
\end{split}
とできて、ベルヌーイの定理が確かに導けました。これより、式(3)がより一般的なベルヌーイの定理であることが分かります。