今回は、非圧縮粘性流体の運動を記述するナビエス・トークス方程式の導出過程について解説します。
※ 太字はベクトルを表し、$\nabla$(ナブラ)は微分演算子と呼ばれるものです。詳しくはこちらで解説しています。
粘性流体に作用する3つの力
簡単のため、$x$ 軸に対して平行方向に作用する力を考えます。
まず最初に思いつくのは、圧力です。
流体には圧力が作用し、パスカルの原理から、圧力の方向は面に対して垂直であると言えます。
したがって、$yz$ 平面に対しては、圧力が $x$ 軸方向に対して水平方向に作用することが分かります。
次に考えられるのは、重力のような体積力です。
体積力は名前の通り、体積に比例して増加するという特徴があります。
最後に考えなければいけないのは、粘性力です。
今回は粘性流体を考えているため、粘性力も考えなければなりません。
したがって、流体に作用する力は、圧力・体積力・粘性力の3つであると言えます。
粘性力の導出
圧力を $p$ とすると、$\diff x$ 離れた面に作用する圧力は $\DL{p+\ff{\del p}{\del x}}$ と表せます。
したがって、正味の圧力は $-\DL{\ff{\del p}{\del x}}$ とでき、
$\diff x = 1, \diff y = 1, \diff z = 1$ とすると、圧力による正味の力を $-\DL{\ff{\del p}{\del x}}$ と表示できます。
一方、粘性力は面を離す力に対し、抵抗する方向に作用する力であるため、図のような矢印の向きとなります。
これより、正味の粘性力を次のように計算できます。
\begin{split}
-\s_{xx}+\left(\s_{xx}+\ff{\del \s_{xx}}{\del x}\right) = \ff{\del \s_{xx}}{\del x}
\end{split}
この結果は、流速 $u$ と粘性係数 $\mu$ を用いて次のように整理できます。
\begin{split}
\ff{\del\sigma_{xx}}{\del x} = \mu\ff{\del^2 u}{\del x^2}
\end{split}
$\tau_{yx}, \tau{zx}$ についても同様に計算でき、$x$ 軸方向に作用する粘性力を求められます。
以上より、粘性力 $q_x$ は用いて次のように表せます。
\begin{split}
q_x=\mu\left( \ff{\del^2 u}{\del x^2}+\ff{\del^2 u}{\del y^2}+\ff{\del^2 u}{\del z^2} \right)
\end{split}
詳しくはこちらで解説していますが、粘性力は一般に次のように表せることが知られています。
粘性力を計算できたので、いよいよナビエストークス方程式の導出に取り組みます。
ナビエ・ストークス方程式の導出
それでは、$x$ 軸方向に関する運動方程式を導いていきましょう。
まず、運動方程式の基本的な形は、次のように表せました。
\begin{split}
F_x=ma_x
\end{split}
これまでの考察より、$F_x$ は簡単に求めることができます。
また、質量に関しても流体の密度を $\rho$ として、$m=\rho(\diff x\diff y\diff z)$ とできます。
今、$\diff x = 1, \diff y = 1, \diff z = 1$ とすると、質量は $\rho$ とできます。
問題となるのは、加速度 $a_x$ です。
普通の感覚で考えると、流速を $u$ として、$\DL{a_x = \ff{\diff u}{\diff t}}$ と記述できるように思えますが、
直感に反し、流体力学においては次のように加速度が記述されます。
\begin{split}
a_x&=\ff{D u}{D t} \\[6pt]
&= \ff{\del u}{\del t}+u\ff{\del u}{\del x}+v\ff{\del u}{\del y}+w\ff{\del u}{\del z}
\end{split}
ただし、$\DL{\ff{D}{D t}}$ は物質微分を表します。
これより、運動方程式の右辺は次のように表すことができるのです。
\begin{split}
ma_x&=\rho\ff{D u}{D t}\EE
&= \rho\left(\ff{\del u}{\del t}+u\ff{\del u}{\del x}+v\ff{\del u}{\del y}+w\ff{\del u}{\del z}\right)
\end{split}
$\nabla$ は”ナブラ”と呼ばれる微分演算子です。詳しくはこちらで解説しています。
一方、左辺は圧力・粘性力・体積力の和なので、
\begin{split}
F_x&=-\ff{\del p}{\del x}+\mu\nabla^2 u+f_x
\end{split}
とできます。
以上より、運動方程式を次のように記述できます。
\begin{split}
\rho\left(\ff{\del u}{\del t}+u\ff{\del u}{\del x}+v\ff{\del u}{\del y}+w\ff{\del u}{\del z}\right) &=-\ff{\del p}{\del x}+\mu\nabla^2 u+f_x
\end{split}
少し整理すると、このようになり、
\begin{split}
\rho\left(\ff{\del u}{\del t}+u\ff{\del u}{\del x}+v\ff{\del u}{\del y}+w\ff{\del u}{\del z}\right) &=-\ff{1}{\rho}\ff{\del p}{\del x}+\ff{\mu}{\rho}\nabla^2 u+f_x
\end{split}
さらに、動粘性係数 $\nu$(ニュー)は $\DL{\nu=\ff{\mu}{\rho}}$ と表せるため、次のようにできます。
\begin{split}
\ff{\del u}{\del t}+u\ff{\del u}{\del x}+v\ff{\del u}{\del y}+w\ff{\del u}{\del z}&=-\ff{1}{\rho}\ff{\del p}{\del x}+\nu\nabla^2 u+f_x
\end{split}
$y, z$ 軸方向についても同様に考えることができ、
非圧縮性粘性流体の運動方程式、すなわちナビエストークス方程式が導けます。
$$
\left\{
\begin{split}
&\ff{\del u}{\del t}+u\ff{\del u}{\del x}+v\ff{\del u}{\del y}+w\ff{\del u}{\del z} =-\ff{1}{\rho}\ff{\del p}{\del x}+\nu\left( \ff{\del^2 u}{\del x^2}+\ff{\del^2 u}{\del y^2}+\ff{\del^2 u}{\del z^2} \right)+f_x \\[6pt]
&\ff{\del v}{\del t}+u\ff{\del v}{\del x}+v\ff{\del v}{\del y}+w\ff{\del v}{\del z} =-\ff{1}{\rho}\ff{\del p}{\del y}+\nu\left( \ff{\del^2 v}{\del x^2}+\ff{\del^2 v}{\del y^2}+\ff{\del^2 v}{\del z^2} \right)+f_y \\[6pt]
&\ff{\del w}{\del t}+u\ff{\del w}{\del x}+v\ff{\del w}{\del y}+w\ff{\del w}{\del z} =-\ff{1}{\rho}\ff{\del p}{\del z}+\nu\left( \ff{\del^2 w}{\del x^2}+\ff{\del^2 w}{\del y^2}+\ff{\del^2 w}{\del z^2} \right)+f_z
\end{split}
\right.
$$
このままでは、見づらいので、ベクトル解析の記号を使いましょう。
すると、ナビエ・ストークス方程式は以下のように簡単にできます。
\begin{split}
\ff{\del \B{v}}{\del t}+\B{v}(\nabla\cdot \B{v})&=-\ff{1}{\rho}\nabla p+\nu\nabla^2 \B{v}+f_x
\end{split}
粘性を無視できる流体では、右辺第二項が $0$ となって、オイラーの運動方程式と一致することが分かります。
ナビエ・ストークス方程式は解けるか?
ナビエ・ストークス方程式を解くことができれば、ニュートン流体の運動を完全に把握することができます。
ナビエ・ストークス方程式が解けるのかについて少し考えてみましょう。
まず、未知数の数についてですが、これは流速の $u, v, w$ の3つと、圧力の1つであり、計4つであることが分かります。
※ 体積力に関しては重力や電磁気力などであり、既知の数式として表せるため、未知数には含まれません。
さて、ナビエストークス方程式を成分表示すると、3つの連立方程式になることはこれまでの議論kら分かります。
通常の連立方程式の感覚で考えると、あと一つ方程式があればナビエ・ストークス方程式が解けように感じれらます。
実際、もう一つ方程式があり、この方程式は連続方程式と呼ばれるものです。
4つの方程式が得られたため、ナビエ・ストークス方程式を解くことができます。と、言いたいところですが、そうは上手くいきません。
ポイントは、ナビエ・ストークス方程式が非線形微分方程式であるということです。
ナビエ・ストークス方程式の非線形項に相当するのは、左辺第二項です。
非線形項は、未知変数のような振る舞いをします。
そのため、当初よりも未知変数が増え、解くためには4本以上の方程式が必要になります。
ナビエストークス方程式の未知数を確定させるためには12本の方程式が必要ですが、12本の方程式は得られていません。
ゆえに、ナビエ・ストークス方程式は現在でも解かれてはいません。