熱伝導により伝わる熱流束の大きさは、以下のフーリエの法則によって記述されます。
フーリエの法則から、伝熱工学の最も重要な基礎方程式である熱伝導方程式が導かれます。それでは、フーリエの法則についての詳しい解説を以下に行っていきます。
フーリエの法則とは?
フーリエ解析で有名なジョゼフ・フーリエは、熱伝導について研究を行い、個体内の熱エネルギーの移動がフーリエの法則により記述できることを見出しました。
すなわち、熱伝導により伝わる熱流束の大きさは、以下のフーリエの法則により記述されます。
フーリエの法則の教えるところによれば、個体(静止流体)内のある点を通過する熱流束は、その点での温度勾配に比例して大きくなるということが分かります。
以下、熱流束と温度勾配という用語について解説します。
熱流束とは?
フーリエの法則に登場する熱流束という概念は、以下のように説明されます。
熱流束の概念は以下のように図示できます。図のように、物体のある断面を通過するエネルギーの内、法線方向の成分を単位断面積当たりの数値に換算すると、熱流束が求められます。
熱流束を考える上で重要なポイントは、ある面を通過するエネルギーの内、法線方向のエネルギーを考えることです。
断面積を $S$ として、単位時間当たりに法線方向に移動するエネルギーを $\dot{Q}$ とすると、この面を通過する熱流束は、
\begin{split}
q=\ff{\dot{Q}}{S}
\end{split}
と表せます。つまり、熱流束は次のように計算されます。
熱エネルギーは熱力学第二法則に従うので、高温側から低温側に伝わる性質があります。したがって、熱流束の方向も高温側から低温側に向く方向を正と約束します。
また、熱流束は、流体力学における流量の概念とも似ています。
温度勾配とは?
温度勾配という概念は以下のように説明されます。
温度勾配の概念を図示すると、図のようになります。
例えば、水平方向に距離 $\D L$ 離れた $2$ 点の温度がそれぞれ $T_H,T_L$ であったとします。このとき、温度勾配は、
\begin{split}
\ff{T_H-T_L}{\D L}
\end{split}
と計算されます。
フーリエの法則の物理的な意味
フーリエの法則が述べる物理的な意味について、考察を深めていきましょう。
さて、実験事実として、厚さが $L$、断面積が $S$ の板の両面の温度が $T_H,T_L$ であるとき、この板を熱伝導で通過する熱流束の間に、次式で表されるような比例関係があることが知られています。
\begin{split}
q= \ff{\dot{Q}}{S}\propto \ff{T_H-T_L}{L}
\end{split}
この比例係数を $k$ とすると上式は、
\begin{split}
q= k\ff{T_H-T_L}{L}
\end{split}
とできます。$k$ は熱伝導に関わる係数のため、熱伝導率と呼ばれます。なお、熱伝導率は物体に固有の数値です。以上がフーリエの法則の主張する内容です。
フーリエの法則についてより詳しく考察するため、以下のような図を考えます。
この図は、ある時刻 $t$ での温度分布がグラフのようであったことを表しています。また、板厚を $L$ とし、両端の温度を $T_H,T_L\,\,(T_H>T_L)$ とします。
板内部での温度分布を表すこのグラフは、時刻 $t$ と位置 $x$ を変数に持つ $2$ 変数関数であり、$T(x,t)$ と書くことができます。
さて、時刻 $t_1$ における、板内部の位置 $x$ での温度勾配について考えると、温度勾配の定義より、$T(x,t)$ の偏微分係数として、
\begin{split}
\ff{\del T(x,t_1)}{\del x}
\end{split}
と表現できます。
グラフから分かるように、偏微分係数の値は $\DL{\ff{\del T(x,t_1)}{\del x} \leq 0}$ の関係にあります。フーリエの法則を数式を用いて表現するとき、この性質は重要なポイントになります。
ところで、$x$ における熱流束を $q(x)$ として、板の熱伝導率を $k$ とます。$\DL{\ff{\del T(x,t_1)}{\del x} \leq 0}$ であることに注意すると、フーリエの法則より $x$ を通過する熱流束の大きさは、
\begin{eqnarray}
q(x,t_1)=-k\ff{\del T(x,t_1)}{\del x}\tag{1}
\end{eqnarray}
と記述できます。
以上より、フーリエの法則は、
\begin{split}
q=-k\ff{\del T}{\del x}
\end{split}
と記述されるのです。
式$(1)$から分かるように、熱流束は位置だけでなく、時刻も変数に持つ多変数関数となります。
このことを意識して、時刻もフーリエの法則に含まれるように修正すると、熱伝導方程式を得ることができます。