強制対流層流熱伝達に引き続き、今回は強制対流乱流熱伝達について考えます。
なお、ここでは各種形状の強制対流乱流熱伝達における、ヌセルト数について紹介します。
また、円筒の強制対流乱流熱伝達の例題についても考えます。
強制対流乱流熱伝達とは?
乱流とは流速が不規則に変動する流れのことです。そして、強制対流の内で乱流により促進される熱伝達のことを、強制対流乱流熱伝達と呼びます。
工業上課題となる流れのほとんどは乱流であるため、乱流熱伝達による伝熱の大きさを見積ることは重要な課題となります。したがって、一般性と精度の両方を兼ね備えた乱流モデルの構築は、熱流体力学の最重要課題となっています。
しかしながら、乱流は不規則な変動を含むためその数学的な取り扱いは非常に難しく、流体力学の中でも最難関の分野となっています。
さて、乱流の特徴としては平均速度分布が平坦化されることが挙げられます。これは乱流内では運動量の混合が活発に起きるためです。
これは速度の速い流体塊が、低速な流体塊に運動量を分け与えているとも考えることができます。このとき、同時に熱エネルギーの混合も盛んに行われます。結果として強制対流乱流熱伝達では強制対流層流熱伝達に比べて熱伝達率が増加します。
各種形状のヌセルト数
各種形状での強制対流乱流熱伝達でのヌセルト数を紹介します。
円管内乱流強制対流のヌセルト数
円管内乱流強制対流におけるヌセルト数として、次の $\RM{Dittus-Boelter}$ の式が知られています。
\begin{split}
Nu = 0.023Re^{\ff{4}{5}}Pr^n\quad(10^3<Re<10^7)
\end{split}
$n$ については、流体を加熱する場合は $n=0.4$、冷却する場合は $n=0.3$ となります。
平板乱流強制対流のヌセルト数
平板からの乱流強制対流のヌセルト数は次のように表せます。
\begin{split}
Nu = 0.03Re^{\ff{4}{5}}Pr^{\ff{1}{3}}\quad(0.7<Pr<100)
\end{split}
円柱乱流強制対流のヌセルト数
円柱のよどみ点近傍での乱流強制対流におけるヌセルト数は次のように表せます。
\begin{split}
Nu = 1.14Pr^{0.385}Re^{\ff{1}{2}}
\end{split}
このように、よどみ点近傍での熱伝達率は一定値となります。
球の乱流強制対流のヌセルト数
球からの乱流強制対流の平均ヌセルト数は次のように表せます。
\begin{split}
&\overline{Nu} = 2+(0.4Re^{\ff{1}{2}}+0.06Re^{\ff{2}{3}})Pr^{\ff{2}{5}}\left( \ff{\mu}{\mu_w} \right)^{\ff{1}{4}} \\[7pt]
&(0.71<Pr<380,\,3.5<Re<7.6\times10^4 )
\end{split}
なお、自由落下する液滴の熱伝達の式として次の、$\RM{Ranz-Marshall}$ の式も知られています。
\begin{split}
Nu &= 2+0.6Re^{\ff{1}{2}}Pr^{\ff{1}{3}}\EE
(0.6<Pr&<380,\,1<Re<10^5 )
\end{split}
例題
給湯器をモデルとして、給水パイプを通過する水温の変化について考えます。
計算に必要な諸元を以下のように仮定します。
パイプ入り口水温 $T_{in}$:$20\,\RM{{}^{\circ}C}$、給湯器の筐体内の気温:$200\,\RM{{}^{\circ}C}$ 、空気からパイプへの熱伝達率 $h_a$:$30\,\RM{W/Km^2}$、パイプの長さ $l$:$1\,\RM{m}$、パイプ内径 $d$:$20\,\RM{mm}$、質量流量 $\dot{m}$:$0.1\,\RM{kg/s}$、水のプラントル数 $Pr$:$7$、水の熱伝導率 $k$:$0.6\,\RM{W/Km}$、水の粘度 $\mu$:$1.0\times10^{-3}\,\RM{Pa\cdot s}$
まず、円管内のヌセルト数を導く準備として、円管内の流れのレイノルズ数 $Re$ を計算します。$Re$ は定義より次のように計算できます。
\begin{split}
Re &= \ff{U d}{\nu} \EE
&= \ff{4\dot{m}}{\pi \mu d} \EE
&= \ff{4\times 0.1}{\pi\times1.0\times10^{-3}\times20\times10^{-3}} \EE
&\NEQ 6.4\times10^3
\end{split}
円管の場合、臨界レイノルズ数が $2300$ とされているため、パイプ内の流れが乱流であることが分かります。したがって、円管内の流れのヌセルト数は先述の式より、
\begin{split}
Nu &= 0.03\times (6.4\times10^3)^{\ff{4}{5}}\times7^{0.4}\NEQ72
\end{split}
と求められます。
これより、円管内の熱伝達率は以下のようになります。
\begin{split}
h &= \ff{k\cdot Nu}{d} \NEQ 2.2\times10^3
\end{split}
したがって、総括熱抵抗の定義式より、パイプ出口の温度 $T_{out}$ を次のように求められることが分かります。
\begin{split}
T_{out} &= T_{in}+\left( \ff{1}{h}+\ff{1}{h_a} \right)q
\end{split}
ただし、熱流束を $q$ として、パイプの熱抵抗は無視できるほど小さいとします。
$1\,\RM{m}$ のパイプに与えられる平均熱流束を $1.0\times10^3\,\RM{W/m^2}$ とすると上式より、
\begin{split}
T_{out} &= 20+\left( \ff{1}{1900}+\ff{1}{30} \right)\times1.0\times10^3 \EE
&\NEQ 54\,\RM{{}^{\circ}C}
\end{split}
となり、パイプ出口の温度を求められます。