形態係数の定義と計算例|輻射伝熱と平面の幾何学的関係の対応

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輻射伝熱は電磁波により熱エネルギーが運ばれる伝熱形態です。懐中電灯を思い浮かべれば分かるように、電磁波は直進する性質があるため、面の向きによって受け取る輻射熱の量が変化します。

また、輻射伝熱の授受が行われる面は、実際には有限の大きさのため、これについても考慮しなければなりません。

輻射伝熱で伝わる熱量は、面の配置や大きさにより変化しますが、このような性質を定量化したものを伝熱工学では、形態係数と呼びます。

形態係数とは?

面 $A_1,\,A_2$ があり、$\q_1$ を $A_1$ から $A_2$ 方向への天頂角を$\q_2$ を $A_2$ から $A_1$ 方向への天頂角とし、$R$ を二面間の距離とする。

このとき、形態係数 $F_{12}$ を次のように定義する。

\begin{split}
F_{12} &= \ff{1}{A_1}\int_{A_1}\int_{A_2} \ff{\cos\q_1\cos\q_2}{\pi R^2}\diff A_1\diff A_2\\
\,
\end{split}

今回は、形態係数の定義と円板の場合の形態係数について解説します。

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太陽からの輻射と緯度の関係

形態係数について考える前に、緯度によって太陽からの輻射熱がどのように変化するのかを見積もってみましょう。

図のように赤道と、緯度 $\q$ の位置に面積 $A$ の平板が置かれている状況を考えます。これらの板が受ける輻射エネルギーについて考えてみましょう。

※ 簡単のため、今回は地軸の傾きや大気の存在は考慮しないものとします。

緯度と輻射エネルギーの関係の模式図

$I_{sun}$ を太陽の輻射強度、$R$ を太陽ー地球間の距離とします。すると、各平板が受ける輻射エネルギーは、こちらの結果より次のように求めれらます。

$$
\left\{
\begin{split}
\,&E_{equ} = I_{sun}A\cos 0^{\circ}\,\diff \Omega \EE
\,&E_{\q} = I_{sun}A\cos \q\,\diff \Omega \EE
\end{split}
\right.
$$

まず、$I_{sun}$ については太陽表面の温度が $5700\,\RM{K}$ であることより、

\begin{split}
I_{sun}=\ff{\sigma T^4}{\pi} \NEQ 1.9\times 10^{7}
\end{split}

と求められます。$\diff \Omega$ については立体角の定義より、

\begin{split}
\diff \Omega = \ff{A \cos\q’}{R^2}
\end{split}

とできますが、太陽が地球より十分離れているため、太陽からの輻射エネルギーがほぼ平行に入射していると見なせます。

したがって、$\q’=0$ とでき、さらに、$R=1\,\RM{au}\NEQ 1.5\times 10^{11}\,\RM{m}$ であることより、

\begin{split}
\diff \Omega = \ff{1\times 1}{(1.5\times 10^{11})^2} \NEQ4.4\times10^{-23}
\end{split}

と求められます。以上より、輻射エネルギーを

\begin{split}
E_{equ} &= 1.9\times 10^{7}\times \ff{\pi}{4}\times(1.4\times10^9)^2 \times 1\times4.4\times10^{-23} \EE
&\NEQ 1.3\times10^3\, \RM{W}
\end{split}

と求められます。

ところで、太陽定数として知られている、地球上空で太陽に対して垂直な面が受ける単位時間・単位面積当たりの輻射エネルギーが $1.37\times10^3\,\RM{W}$ です。悪くない計算精度であると言えます。

一方、ある緯度における輻射エネルギーは、先程の計算結果に $\cos \q$ を乗じたものとなります。これより北極や南極のような極地では、受ける輻射熱が $0$ になることも理解できます。

例えば、東京(緯度:$36^{\circ}$)において太陽からの輻射エネルギーは、

\begin{split}
E_{tokyo} &= 1.3\times10^3\times \cos 36^{\circ} \EE
&\NEQ 1.0\times10^3\,\RM{W}
\end{split}

と計算でき、赤道に比べて $8$ 割程度の大きさの輻射エネルギーとなっていることが分かります。

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形態係数とは?

先述の結果から分かるように、面が受ける輻射エネルギーは面の配置により変化することが分かります。

そそで、温度 $T_1$ の水平に置かれた面積 $\diff A_1$ の黒体平板 $1$ と、温度 $T_2$ で面積 $\diff A_2$ の黒体平板 $2$ の間での伝熱を考えます。

形態係数の模式図

今、黒体平板 $1$ からの輻射強度を $I_1$ とすると輻射強度不変の法則より、

\begin{split}
I_1=\ff{\sigma T_1^4}{\pi}
\end{split}

とできます。ただし、$\sigma$ をステファン=ボルツマン定数とします。

このとき、$R$ だけ離れた平板 $2$ に到達する $\diff A_1$ からの輻射エネルギー $\diff E_1$ は、輻射強度の定義式より、

\begin{split}
\diff E_1 = I_1\diff A_1\cos\q_1\diff \Omega_1
\end{split}

と表せます。なお、立体角を $\diff \Omega_1$ としています。ここで、$\diff \Omega_1$ については定義より、

\begin{split}
\diff \Omega_1 = \ff{\diff A_2 \cos\q_2}{R^2}
\end{split}

とできます。以上より、

\begin{split}
\diff E_1 = \big(\sigma T_1^4\diff A_1\big)\ff{\cos\q_1\cos\q_2}{\pi R^2}\diff A_2
\end{split}

となります。ただし、$\sigma T_1^4\diff A_1$ は円板 $1$ から半球状に放射される全エネルギーを表します。

同様の議論を円板 $2$ からの輻射エネルギーについても適用できるので、円板 $2$ から円板 $1$ に到達する輻射エネルギー $\diff E_2$ を

\begin{split}
\diff E_2 = \big(\sigma T_2^4\diff A_2\big)\ff{\cos\q_1\cos\q_2}{\pi R^2}\diff A_1
\end{split}

と記述できます。

以上より、円板 $1$ から円板 $2$ に輻射される正味のエネルギーを次のように計算できます。

\begin{split}
\D Q_{12} &= \diff E_1-\diff E_2\EE
&= \sigma(T_1^4-T_2^4)\diff A_1\cdot \ff{\cos\q_1\cos\q_2}{\pi R^2}\diff A_2
\end{split}

上式から分かるように、$\diff A_1$ から $\diff A_2$ に到達する輻射エネルギーの割合は、$\DL{\ff{\cos\q_1\cos\q_2}{\pi R^2}\diff A_2}$ により決まります。したがって、これを微小平面間の形態係数と呼ぶことにします。

面積を $A_1, A_2$ まで拡大すると、$A_1$ から $A_2$ に到達するエネルギー $Q_{12}$ は、積分することで次のように求められます。

\begin{split}
Q_{12} &= \sigma(T_1^4-T_2^4)A_1 \int_{A_1}\int_{A_2}\ff{1}{A_1} \ff{\cos\q_1\cos\q_2}{\pi R^2}\diff A_1\diff A_2
\end{split}

ここで、

\begin{split}
F_{12} &= \ff{1}{A_1}\int_{A_1}\int_{A_2} \ff{\cos\q_1\cos\q_2}{\pi R^2}\diff A_1\diff A_2
\end{split}

と置き、$F_{12}$ のことを形態係数、または角関係と呼びます。

形態係数とは?

面 $A_1,\,A_2$ があり、$\q_1$ を $A_1$ から $A_2$ 方向への天頂角を$\q_2$ を $A_2$ から $A_1$ 方向への天頂角とし、$R$ を二面間の距離とする。

このとき、形態係数 $F_{12}$ を次のように定義する。

\begin{split}
F_{12} &= \ff{1}{A_1}\int_{A_1}\int_{A_2} \ff{\cos\q_1\cos\q_2}{\pi R^2}\diff A_1\diff A_2\\
\,
\end{split}

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平行円板間の形態係数

実際に形態係数を求めてみましょう。今回は図のような、一方が微小面で片方が円板の場合の形態係数を求めてみます。

微小面と円板の形態係数

いきなりですが、形態係数の定義を用いて $F_{12}$ を以下のように表せます。

\begin{split}
F_{12} &= \ff{1}{\pi r_1^2}\int_{0}^{r_1} \ff{\cos^2\q}{\pi (r^2+h^2)}(2\pi \diff r) \\[8pt]
&= \ff{2h^2}{r_1^2}\int_{0}^{r_1}\ff{1}{(r^2+h^2)^2}\diff r \EE
\end{split}

ここで、$x=\DL{\ff{r}{h}}$ とすると、

\begin{split}
F_{12} &= \ff{2}{hr_1^2}\int_{0}^{\ff{r_1}{h}}\ff{1}{(x^2+1)^2}\diff x \EE
\end{split}

と変数変換できます。$\DL{\int \ff{1}{(x^2+1)^2}\diff x}$ の積分は少々大変ですが、以下の様な戦略で積分計算を実行します。

まず、

\begin{split}
\left(\ff{x}{x^2+1} \right)’=\ff{2}{(x^2+1)^2}-\ff{1}{x^2+1}
\end{split}

とできることを利用して、これに部分積分を適用して

\begin{split}
&\int \ff{1}{(x^2+1)^2}\diff x = \ff{1}{2}\cdot\ff{x}{1+x^2}+\ff{1}{2}\int\ff{1}{1+x^2}\diff x
\end{split}

とできます。第二項は $\arctan$ の定義を活用できるので、上式の積分結果を、

\begin{split}
\int \ff{1}{(x^2+1)^2}\diff x =& \ff{1}{2}\cdot\ff{x}{1+x^2}+\ff{1}{2}\arctan x +C
\end{split}

と求めることができます。これより、最初の定積分を

\begin{split}
\int_{0}^{\ff{r_1}{h}}\ff{1}{(x^2+1)^2}\diff x = \ff{1}{2}\cdot\ff{hr_1}{h^2+r_1^2}+\ff{1}{2}\arctan\left(\ff{r_1}{h} \right)
\end{split}

と求められます。以上より $F_{12}$ は

\begin{split}
F_{12} = \ff{1}{r_1(h^2+r_1^2)}+\ff{1}{hr_1^2}\arctan\left(\ff{r_1}{h} \right)
\end{split}

となります。

円板間の形態係数

次に、中心軸が一致した二枚の円板が、互いに平行に向いているときの形態係数につい考えます。

円板間の形態係数

今回は詳細な計算過程は示しませんが、

\begin{split}
F_{12} &=\ff{1}{2}\left\{ X-\sqrt{X^2-4\left( \ff{R_2}{R_1} \right)}\,\right\}
\end{split}

となることが知られています。ただし、$\DL{R_1=\ff{r_1}{h},R_2=\ff{r_2}{h},X=1+\ff{1+R_2^2}{R_1^2}}$ とします。

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