今回は、有限の大きさの黒体から放射される輻射エネルギーについて考えていきます。
この考察を通して、ランバートの法則や輻射強度不変の法則など、いくつかのな理論的な帰結が得られます。
今回の考察は、オルバースのパラドックスを考える上での理論的な基礎となります。
ステラジアンとは?
まず、平行に配置された2つの無限平板間の黒体の輻射伝熱は、ステファン=ボルツマンの法則を用いて
\begin{split}
q=\sigma(T_1^4-T_0^4)
\end{split}
と記述できました。
しかしながら、現実には無限の大きさを持つ平板は存在しないため、応用上では有限の大きさの平板からの輻射について計算したいという事情があります。
そこで、有限の大きさの黒体から放射される輻射エネルギーについて、今回は考えていきましょう。
簡単のため、$2$ 枚の黒体円板間の輻射について考えます。このとき、黒体平板から放射される輻射エネルギーは半球状に一様な強さで輻射されることが知られています。
さて、有限の大きさの $2$ 枚の黒体円板を平行に配置した図のような状況を考えます。
下面の任意の微小面積 $\diff A$ から放射された輻射は上面に全て到達する訳では無く、ある角度 $\Omega$ の開き具合の円錐の範囲内で放射された輻射のみが、対面に到達するという点に、注意する必要があります。
なお、専門的にはこの角度 $\Omega$ を立体角、あるいはステラジアンと呼びます。
ステラジアン(立体角)の定義
ステラジアンの定義について、もう少し詳しく解説しておきます。
ステラジアンは角度と似ていて、円錐の開き具合を表したパラメータとして理解できます。ステラジアンは、$\RM{SI}$ 単位であり、単位の記号として $\RM{sr},\,\RM{deg2}$ が使われます。
ステラジアンは、半径 $R$ の球の中心に頂点に持つ円錐が、球面を切り取る面積 $S$ と半径の $2$ 乗の比として定義されます。したがって、ステラジアンは次のように計算できます。
\begin{split}
[\RM{sr}]=\ff{S}{R^2}
\end{split}
つまり、$1$ ステラジアンは $S=R^2$ となるような開き具合の円錐を表します。また、球面全体のステラジアンは $4\pi$ となります。
輻射強度とは?
次に、微小な立体角 $\diff \Omega$ 内に放射される輻射エネルギーについて考えましょう。
輻射強度とは?
図のように、微小面積 $\diff A$ から天頂角 $\q,$ 方位角 $\varphi$ の方向へ立体角 $\diff \Omega$ を通って放射されるエネルギーの大きさを輻射強度(単位:$\RM{W/sr}$)と呼ぶことにします。
このとき、天頂角 $\q$ 方向に放射される輻射強度 $I$ なる物理量を次のように定義できます。
\begin{eqnarray}
I=\ff{e}{\diff A\cos\q\,\diff\Omega}\tag{1}
\end{eqnarray}
ただし、$e$ を $\diff \Omega$ を通過する輻射エネルギーの大きさとします。
上式は $\diff A$ からの輻射エネルギーの内、天頂角 $\q$ 方向から見た見かけの面積($\diff A\cos\q$ )に応じて $I$ が変化することを表しています。
ランバートの余弦法則とは?
今回の黒体面や凹凸のある面のように、光を半球状に均一に反射する表面のことを完全拡散放射面、あるいはランバート面と呼びます。
一方、入射光を特定の角度に反射する、鏡面のような表面のことを指向放射面と呼びます。
さて、式$(1)$よりランバート面では、単位立体角当たりの輻射エネルギーを
\begin{eqnarray}
\ff{e}{\diff\Omega}=I\diff A\cos\q
\end{eqnarray}
と表せることが分かります。ここで、$\diff E=\DL{\ff{e}{\diff A}}$ とおくと、
\begin{eqnarray}
\ff{\diff E}{\diff\Omega}=I\cos\q \tag{2}
\end{eqnarray}
となります。$\diff E$ はある天頂角方向の、単位立体角当たりの輻射エネルギーを表します。そのため、単位立体角当たりの全放射能とも呼ばれます。
式$(2)$より、同じ立体角でも天頂角の増加と共に、単位立体角当たりの全放射能 $\diff E$ は減少し、最終的には $\q=90{}^{\circ}$ で $0$ となることが分かります。これを、ランバートの余弦法則と言います。
輻射強度不変の法則
輻射強度 $I$ とステファン=ボルツマンの法則との対応について考えます。
始めに、半径 $R$ の球面上の微小面積 $\diff A$ 上を通過する輻射エネルギーから考え始めましょう。
$\diff A$ の大きさは、天頂角と方位角を用いて次のように計算できます。
\begin{eqnarray}
\diff A = (R\sin\q\diff \varphi)(R\diff\q)=R^2\sin\q\diff\q\diff\varphi
\end{eqnarray}
これにステラジアンの定義を用いると、
\begin{eqnarray}
\diff \Omega = \ff{\diff A}{R^2} = \sin\q\diff\q\diff\varphi
\end{eqnarray}
となることより、単位立体角当たりの全放射能は、ランバートの余弦法則を利用して
\begin{eqnarray}
\diff E= I\cos\q\sin\q\diff\q\diff\varphi
\end{eqnarray}
と記述できます。これを積分すると、円板から放射される全エネルギー $E$ となるので、
\begin{eqnarray}
E= \int_{0}^{2\pi}\int_{0}^{\ff{\pi}{2}}I\cos\q\sin\q\diff\q\diff\varphi
\end{eqnarray}
とできます。さらに、輻射強度は一定であるため、定数と見なせます。したがって、$I$ を積分の外に出せて、
\begin{eqnarray}
E&=& I\int_{0}^{2\pi}\int_{0}^{\ff{\pi}{2}}\cos\q\sin\q\diff\q\diff\varphi \EE
&=& \pi I
\end{eqnarray}
と計算できます。
今、黒体円板の絶対温度が $T$ であるとき、輻射エネルギーの総和 $E$ は、ステファン=ボルツマンの法則より、$E=\sigma T^4$ とできます。
したがって、輻射強度を、
\begin{split}
I&=\ff{\sigma T^4}{\pi}
\end{split}
と求められます。
これより、$\diff A$ からの距離に関わらず $I$ の大きさが変化しないことが分かります。このように単位立体角当たりに含まれる $I$ の大きさは不変であるため、これを輻射強度不変の法則と呼びます。
ルーメン・ルクス・カンデラとは?
光源から放射される電磁波の内、人間の眼に光と感じる明るさを光束と呼びます。単位としては、$\RM{SI}$ 単位のルーメン($\RM{lm}$)が使われます。
そして、$1$ステラジアン当たりに放射される光束をルーメン($\RM{lm}$)と呼びます。
例えば、$1000\,\RM{lm}$ の光源とは、この光源から放出される光の全光束が $1000\,\RM{lm}$ であるという意味になります。
光束は人間の感じる量を表すため、心理的な物理量と言えます。光源全体から放出される光束を全光束と呼び、電球の性能を表す数値として使われます。
対象の面が$1$ 平方メートル当たりに $1\,\RM{lm}$ で照らされた時の明るさを、$1$ ルクスと呼びます。ルクスは照度の単位として使われます。
最後に、特定の方向について、光源から照射された光の強さを光度と呼び、カンデラという単位($\RM{cd}$)で表されます。カンデラは次のように定義されます。
例えば、懐中電灯などで面を照らす最大の光度についてはカンデラで表示することができます。