個体壁と流体の間で伝わる熱量 $\dot{Q}$ は、個体壁の表面積を $A$、温度差を $\D T$、そして熱伝達率を $h$ として、$\dot{Q}=h\D T A$ と表せます。
式から分かるように、伝熱量は流体と接する表面積の大きさに比例することが言えます。このような性質があるため、ラジエータは表面積が大きくなるような形状となっています。
このように、付加された面のことを拡大伝熱面と呼び、ラジエータの放熱量を考える上で重要な概念となります。
今回は、拡大伝熱面という概念について解説し、それに関連してフィンの伝熱量ならびに、その伝熱効率について考察していきます。
拡大伝熱面とは?
フィンの伝熱効率について考察する前に、拡大伝熱面という概念について説明を始めます。まず、熱伝達により伝わる熱流束 $q$ はニュートンの冷却法則より次のように表せました。
\begin{split}
q=h(T_w-T_{\infty})
\end{split}
ただし、$h$ を熱伝達率、$T_w$ を壁面温度、$T_{\infty}$ を遠方での流体の温度とします。
さて、熱伝達率の単位に注目すると $\RM{W/(m^2\,K)}$ で表されることから分かるように、熱伝達による伝熱量は面積に比例することが分かります。
これより、単位時間当たりの伝熱量 $\dot{Q}$ と、壁面の表面積 $A$ との間には、次のような関係が成立すると言えます。
\begin{split}
\dot{Q}=Aq=Ah(T_w-T_{\infty})
\end{split}
これより、物体表面からの伝熱量を増大させるためには表面積を増やせば良いと結論できます。これは、暑い日には半袖を着ることからも理解できるでしょう。これは、素肌が空気に触れる面積を増やすことに相当します。
この事実は工学的にも応用でき、面を付加することが放熱量を増やす有効な手段となります。
伝熱工学では、元の表面と付加された表面とを合せて拡大伝熱面と呼びます。なお、元の表面に付加された表面をフィンと呼びます。したがって、拡大伝熱面とフィン付き伝熱面は、ほぼ同一の概念と言えます。
拡大伝熱面を通過する伝熱量
フィンを通過する伝熱量について具体的に求めていきます。
まず、平板の厚みを $L$、密度・比熱・熱伝導率をそれぞれ $\rho,c,k$ として、さらに拡大伝熱面の左右の流体の温度と熱伝達率をそれぞれ、$T_H,T_L,h_H,h_L\,(h_H>h_L)$ とします。
さて、フィン表面全体の温度が根本の温度と等しい理想的な状態にあるとします。
さらに、系全体が定常熱伝導の状態にあるとすると、伝熱量はどの位置でも等しくなるため、以下の等式が成立します。
\begin{split}
\dot{Q}=-A_0h_H(T_0-T_H)=A_0k\ff{T_0-T_1}{L}=(A_0+A_f)h_L(T_1-T_L)
\end{split}
ただし、$T_0,T_1$ を左側と右側表面の平板表面の温度とします。上式から $T_0,T_1$ を消去して $\dot{Q}$ に関して整理すると、
\begin{split}
\dot{Q}=\ff{T_H-T_L}{\DL{ \ff{1}{h_HA_0}+\ff{L}{kA_0}+\ff{1}{h_L(A_0+A_f)}}}
\end{split}
となります。
さて、フィンが無いとき、左側の高温の流体から右側の低温の流体へ伝わる伝熱量 $\dot{Q}$ は総括熱抵抗 $R_t$ を利用して、次のように記述できました。
\begin{split}
\dot{Q} = \ff{T_H-T_L}{R_t} = \ff{T_H-T_L}{\DL{ \ff{1}{A_0}\left( \ff{1}{h_H}+\ff{L}{k}+\ff{1}{h_L}\right)} }
\end{split}
これを先程の式と比較すると、フィンの付加により総括熱抵抗は、
\begin{split}
R_t= \ff{1}{h_HA_0}+\ff{L}{kA_0}+\ff{1}{h_L(A_0+A_f)}
\end{split}
に変化したと言えます。ポイントは、フィンの面積分だけ総括熱抵抗が変化していることです。ところで、熱抵抗の定義より $R_t$ を小さくするほど伝熱量は増加すると言えます。
したがって、フィンの伝熱量を最大化するための合理的な戦略は、各熱抵抗の内で最大のものを低減することであると言えます。
ラジエータのような熱交換器では管内を流れる冷却水と空気との間で熱交換を行いますが、通常、冷却水より空気の方が熱伝達率が小さいため、空気側の熱抵抗が最大となります。
このような事情があるため、ラジエータは空気側へフィンを向けた構造となっています。
フィン効率とは?
先述の結果より、フィンにより伝熱量は、
\begin{split}
\dot{Q} = \ff{T_H-T_L}{\DL{ \ff{1}{h_HA_0}+\ff{L}{kA_0}+\ff{1}{h_L(A_0+A_f)}} }
\end{split}
と計算されることが分かりました。
ただし、これはフィン全体の温度が根本と同じであると仮定した理想的な場合であることに注意しなければなりません。実際には空気への放熱により、フィン先端に向かうほど温度は低下します。
したがって、フィンによる面積の増加は伝熱量の増加にそのまま反映されるわけではなく、通常は上の計算値よりも小さくなります。
これは、放熱に関与するフィンの面積が実質的に減少したとも言えるので、補正係数として $\eta$(イータ)なる数値を導入するとします。なお、$\eta$ をフィン効率と呼び、次のように定義します。
フィン効率を用いると、フィンからの実際の伝熱量を次のように表せます。
\begin{split}
\dot{Q} = \ff{T_H-T_L}{\DL{ \ff{1}{h_HA_0}+\ff{L}{kA_0}+\ff{1}{h_L(A_0+\eta A_f)}} }
\end{split}
フィン効率の詳細な導出過程についてはこちらで行っていますが、フィン根元温度、フィン表面の平均温度、$T_L$ との温度差により $\eta$ が決まります。