平板の非定常熱伝導解析|熱伝導方程式の解法③

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今回は、平板についての非定常熱伝導を考え、境界条件として熱伝達による熱の出入りを設定します。

棒の非定常熱伝導では、両端の温度を固定したディリクレ条件で考えましたが、今回は第三種境界条件と呼ばれる、壁面での熱伝達熱伝導の大きさが一致するという境界条件を適用します。

平板の非定常熱伝導

厚さ $2L$ の平板に対して、境界条件が次のように与えられたとする。

$$
\left\{
\begin{split}
&\,T = T_0\quad(t=0) \EE
&\,-k\ff{\del T}{\del x} = h(T-T_{\infty})\quad(t>0,x=-L,L) \EE
&\,\ff{\del T}{\del x} = 0\quad(t>0,x=0)
\end{split}
\right.
$$

このとき、温度分布 $T(t,x)$ は次のように表せる。

\begin{eqnarray}
\ff{T-T_{\infty}}{T_0-T_{\infty}}=\sum_{n=1}^{\infty} \ff{4\sin(\omega_n L)}{\sin(2\omega_n L)+2\omega_nL}\cdot e^{-\A\omega_n^2 t}\cos (\omega_n x)
\end{eqnarray}

ただし、$\omega_n$ は $\DL{\omega\tan(\omega L) = \ff{h}{k}}$ を満たすとする。

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平板の非定常熱伝導の基礎方程式

平板の非定常熱伝導を考えるにあたり、まずは基礎方程式を導く必要があります。解析の対象として、厚さ $2L$ の平板を考え、この板に対して図のような座標軸を設定します。

平板の非定常熱伝導

さて、平板の内部に発熱が無く、また一次元熱伝導について考えるため、熱伝導方程式から基礎方程式を次のように記述できます。

\begin{eqnarray}
\ff{\del T}{\del t} = \A\ff{\del T^2}{\del x^2}
\end{eqnarray}

ただし、熱拡散率を $\A$ とします。

初期条件・境界条件の設定

この問題に対して、以下のような初期条件と境界条件を設定します。まず、$t=0$ の初期状態において、平板が一様な温度 $T_0$ であるとします。

次に、壁面より熱伝達により伝熱しているとすると、その熱流束の大きさは次のように表せます。

\begin{eqnarray}
q_w = h(T-T_{\infty})
\end{eqnarray}

このとき、壁面での熱伝達と熱伝導が一致しているため、フーリエの法則より、

\begin{eqnarray}
q_w=-k\left. \ff{\del T}{\del x} \right|_{x=-L,L} = h(T-T_{\infty})\quad(t>0)
\end{eqnarray}

とできます。また、$x=0$ にて温度勾配が $0$ となることも言えるので、

\begin{eqnarray}
\left.\ff{\del T}{\del x} \right|_{x=0} = 0\quad(t>0)
\end{eqnarray}

となります。これらが今回考える問題の境界条件となります。

基礎方程式と境界条件の無次元化

計算を簡単にするため、基礎方程式と境界条件の無次元化を行います。

無次元化は、$\q=\DL{\ff{T-T_{\infty}}{T_0-T_{\infty}}}$ として行います。まず、基礎方程式は以下のようになります。

\begin{eqnarray}
\ff{\del \q}{\del t} = \A\ff{\del \q^2}{\del x^2}\tag{1}
\end{eqnarray}

そして、境界条件は以下のように整理できます。

$$
\left\{
\begin{split}
&\,\q = 1\quad(t=0) \EE
&\,-k\ff{\del \q}{\del x} = h\q\quad(t>0,x=-L,L) \EE
&\,\ff{\del \q}{\del x} = 0\quad(t>0,x=0)
\end{split}
\right.\tag{2}
$$

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変数分離法による解法

棒の非定常熱伝導と同様に、変数分離法を用いて計算を行います。すなわち、$T(t,x)=\tau(t)X(x)$ という、一変数関数の積であると仮定して、$(1)$ に適用して、

\begin{split}
X\ff{\del \tau}{\del t} &= \A\tau\ff{\del X^2}{\del x^2} \EE
\therefore\,\,\ff{1}{\A \tau}\ff{\del \tau}{\del t} &= \ff{1}{X}\ff{\del X^2}{\del x^2}=-\omega^2
\end{split}

として、波動方程式の解法と同様の議論より、定数を $-\omega^2\,(\omega>0)$ とおいて

$$
\left\{
\begin{split}
\,&\ff{\del \tau}{\del t} = -\A\omega^2 \tau \EE
\,&\ff{\del X^2}{\del x^2} = -\omega^2X
\end{split}
\right.
$$

と分離できます。第一式についてはロケット方程式での結果、第二式については振り子の微分方程式での結果を利用して、

$$
\left\{
\begin{split}
\,&\tau(t) = C_1e^{-\A\omega^2 t} \\[8pt]
\,&X(x)=C_2\cos \omega x+C_3\sin \omega x
\end{split}
\right.
$$

と表すことができます。ただし、$C_1,C_2,C_3$ を積分定数とします。以上より、$T(t,x)$ を次のように定められます。

\begin{eqnarray}
\q=\tau(t)X(x) = C_1e^{-\A\omega^2 t}(C_2\cos \omega x+C_3\sin \omega x)\tag{3}
\end{eqnarray}

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積分定数の決定

境界条件から積分定数を決定することを考えます。まず、$(3)$ を $x$ で微分すると、

\begin{split}
\ff{\del\q}{\del x} = \omega C_1e^{-\A\omega^2 t}(-C_2\sin \omega x+C_3\cos \omega x)
\end{split}

境界条件より、$x=0$ にて $\DL{\ff{\del\q}{\del x}}=0$ であることより、

\begin{split}
C_3=0
\end{split}

となります。これより、

\begin{split}
\q=\tau(t)X(x) = Ce^{-\A\omega^2 t}\cos \omega x
\end{split}

と整理できます。これを、$\DL{-k\ff{\del \q}{\del x} = h\q\quad}\,\,(t>0,x=-L,L)$ に適用すると、

\begin{split}
k\omega Ce^{-\A\omega^2 t}\sin \omega L &= hCe^{-\A\omega^2 t}\cos \omega L \EE
\therefore\,\,\omega\tan(\omega L) &= \ff{h}{k}
\end{split}

となります。これを満たす $\omega$ はニュートン・ラプソン法などの数値計算により求めるため、具体的な形を今回は示せませんが、複数の解、$\omega_1, \omega_2,\cdots,\omega_n,\cdots$ を持つと言えます。

これらの解を足し合わせたものも、最初の偏微分方程式を満たす解となるため、

\begin{split}
\q = \sum_{n=1}^{\infty} C_ne^{-\A\omega_n^2 t}\cos \omega_n x
\end{split}

と表示できます。ここで、$t=0$ にて、$\q=1$ であることより、

\begin{split}
\sum_{n=1}^{\infty} C_n\cos \omega_n x = 1
\end{split}

となります。$C_n$ については、技巧的になりますが、両辺に $\cos\omega_mx$ を掛けて $[0,L]$ の区間で積分することで求められます。

左辺については、$\cos\omega_mx$ を掛けて積分すると、次のようになります。

\begin{split}
&\quad\,\,\int_0^L\sum_{n=1}^{\infty} C_n\cos \omega_n x\cos\omega_m x\,\diff x \EE &=\sum_{n=1}^{\infty}C_n\int_0^L \cos \omega_n x\cos\omega_m x\,\diff x \EE
&= \sum_{n=1}^{\infty}\ff{C_n}{2}\left[ \ff{1}{\omega_n+\omega_m}\sin(\omega_n+\omega_m)x+\ff{1}{\omega_n-\omega_m}\sin(\omega_n-\omega_m)x \right]_0^L
\end{split}

この計算結果は $\sin\omega L =0$ であることより、次のように分類できます。

$$
C_n\int_0^L \cos \omega_n x\cos\omega_m x\,\diff x =
\left\{
\begin{split}
\,&0\quad (n\neq m) \EE
\,&C_n\left( \ff{\sin(2\omega_n L)}{4\omega_n}+\ff{L}{2} \right)\quad (n=m)
\end{split}
\right.
$$

※ $\DL{\lim_{x\to0}\ff{\sin x}{x}=1}$ も計算の過程で用いています。

上の結果より、右辺については $\cos\omega_nx$ のみを掛けて積分すれば良いと言え、

\begin{split}
\int_{0}^L\cos\omega_nx\diff x = \ff{\sin \omega_nL}{\omega_n}
\end{split}

となります。以上より、

\begin{split}
C_n = \ff{4\sin(\omega_n L)}{\sin(2\omega_n L)+2\omega_n L}
\end{split}

と $C_n$ を求められます。以上、今までの計算結果を適用すると、平板の非定常熱伝導の解を次のように表示できることが分かります。

\begin{eqnarray}
\q=\sum_{n=1}^{\infty} \ff{4\sin(\omega_n L)}{\sin(2\omega_n L)+2\omega_nL}\cdot e^{-\A\omega_n^2 t}\cos (\omega_n x)
\end{eqnarray}

ただし、$\omega_n$ は $\DL{\omega\tan(\omega L) = \ff{h}{k}}$ を満たすとします。

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フーリエ数とビオ数の対応

得られた解の見通しを良くするため、ビオ数フーリエ数を用いることを考えます。

指数関数の指数については、$\beta_n = \omega_n L$ として、

\begin{eqnarray}
-\A\omega_n^2 t = -(\omega_nL)^2\cdot\ff{\A t}{L^2} = -\beta_n^2\,Fo
\end{eqnarray}

と変形でき、さらに $\DL{\xi = \ff{x}{L}}$ とすることで、解を

\begin{eqnarray}
\q=\sum_{n=1}^{\infty} \ff{4\sin \beta_n}{\sin(2\beta_n)+2\beta_n}\cdot e^{-\beta_n^2\,Fo}\cos (\beta_n \xi)
\end{eqnarray}

と表せます。 ところで、ビオ数を用いると

\begin{split}
\omega_n\tan(\omega_n L) &= \ff{h}{k} \EE
\tan(\omega_n L) &= \ff{1}{\omega_n L}\cdot\ff{hL}{k} \EE
\therefore\,\,\tan(\beta_n) &= \ff{Bi}{\beta_n}
\end{split}

の関係があります。今、熱伝導率が無視できるほど小さいとすると、壁面温度は一定と近似できるため、これはディリクレ条件と見なせるようになります。このとき、$Bi\to\infty$ となるので、$\beta$ の解は、

\begin{split}
\beta=\ff{\pi}{2},\ff{3\pi}{2},\cdots,\ff{(2n-1)\pi}{2},\cdots
\end{split}

となります。このときの $\q$ は、

\begin{eqnarray}
\q=\sum_{n=1}^{\infty} \ff{4(-1)^{n-1}}{(2n-1)\pi}\cdot e^{-\ff{(2n-1)^2\pi^2}{4}Fo}\cdot \cos \left( \ff{(2n-1)\pi}{2} \xi\right)
\end{eqnarray}

となって、温度分布がフーリエ数のみにより決まることが言えます。同様のことが、集中熱容量モデルについて考えるときに成立します。

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