物理量の平均値と自由粒子の平均エネルギーの導出|分配関数の応用

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エネルギー等分配則を理解する準備として、自由粒子の平均エネルギーの導出過程について解説します。

まず、一般論としてある物理量 $A$ (速度・運動量・エネルギー等)の平均値 $\langle A\rangle$ は次にように表せ、

物理量の平均値

$q,p$ を一般化座標一般化運動量として一般の物理量 $A$ の平均値 $\langle A\rangle$ は次のように表せる。

\begin{eqnarray}
\langle A\rangle=\ff{ \DL{\int_{-\infty}^{\infty}\cdots\int_{-\infty}^{\infty}A(\B{q},\B{p}})e^{-\ff{E_i}{k_B\,T}}\diff\B{q}\diff\B{p} }{ \DL{\int_{-\infty}^{\infty}\cdots\int_{-\infty}^{\infty}e^{-\ff{E_i}{k_B\,T}}\diff\B{q}\diff\B{p}} }
\end{eqnarray}

ただし、$k_B$ をボルツマン定数とする。

この公式を用いると、三次元空間を運動する一個の粒子に分配されるエネルギーの平均値が次のように求められます。

自由粒子の平均エネルギー

温度 $T$ の $3$ 次元空間内の自由粒子一個に分配される平均エネルギー $\langle E\,\rangle$ は次のように表される。

\begin{eqnarray}
\langle E\,\rangle=\ff{3}{2}k_BT
\end{eqnarray}

ただし、$k_B$ をボルツマン定数とする。

これを導出する準備とし、まずは物理量の平均値を計算する手法について説明します。

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物理量の期待値と平均値の関係

まずは一般論から始めます。

統計力学では、個々の粒子・分子の運動を計算する代わりに、系全体が平均的にどのような状態になるかが分かれば良いという考え方をします。そして、これを達成するために確率の考え方を取り入れます。

確率は現実の記述に不足と思われるかもしれませんが、対象の粒子数が膨大であること、確率と平均が結びつくことの二つから、統計力学の計算結果は十分な実用性を持ちます。

さて、確率と平均が結びつくと述べましたが、これももちろん確率論の結果をベースにしています。

すなわち、確率 $p_i$ とその観測回数 $x_i$ の積の総和、つまり期待値 $E$ と平均値 $\mu$ の間は次のような関係があります。

\begin{split}
\mu=E=\sum_{i=1}^nx_ip_i
\end{split}

これを物理量の平均値の計算に応用してみましょう。

具体的には、ある物理量の値が $A_i$ となる確率が $p_i$ であったとしましょう。すると、$A$ の期待値 $E$ は $\DL{E=\sum_{i=1}^nA_ip_i}$ とできます。したがって、上式より $A$ の平均値 $\langle A\rangle$ が次のように表せることが分かります。

\begin{split}
\langle A\rangle=\sum_{i=1}^nA_ip_i
\end{split}

ところで、カノニカルアンサンブルの理論によれば、$p_i$ は、分配関数を $Z=\DL{\sum_{i=1}^nw_i\,e^{-\ff{E_i}{k_B\,T}}}$ として

\begin{split}
p_i=\ff{w_i\,e^{-\ff{E_i}{k_B\,T}}}{Z}
\end{split}

とも表せるのでした。したがって、$\langle A\rangle$ について

\begin{eqnarray}
\langle A\rangle=\ff{1}{Z}\sum_{i=1}^nA_iw_i\,e^{-\ff{E_i}{k_B\,T}}\tag{1}
\end{eqnarray}

という式を得ることができます。

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離散型から連続型への変換

式$(1)$で得た平均値の式は、離散型のため計算上扱いづらいという問題があります。これを解決するため、式を連続型、つまり積分を用いた表現に書き直すことを考えます。

手始めに、分配関数を連続型に書き換えることから始めます。すなわち、$N$ 個の分子を含む部分系があり、このエネルギーが $E_i$ であったとします。そして、この状態に対応する位相空間上代表点の座標が $(\B{q},\B{p})$ であったとします。また、$E_i$ の状態における縮退度が $w_i$ であるとします。

今、代表点近傍の微小体積 $\diff v$ は $\diff q_1\cdots\diff q_{3N}\diff p_1\cdots\diff p_{3N}$ であることに留意すると、縮退度 $w_i$ が次のように表すことができます。

\begin{eqnarray}
w_i=\ff{\diff v}{h^{3N}}=\ff{\diff\B{q}\diff\B{p}}{h^{3N}}=\ff{\diff q_1\cdots\diff q_{3N}\diff p_1\cdots\diff p_{3N}}{h^{3N}}
\end{eqnarray}

ところで、$\DL{\sum_{i=1}^n}$ は $E_i$ を位相空間全体に渡って足し合わせたものと言えます。そのため、総和記号を $6N$ 重の無限積分に置き換えることができると言えます。これより $Z$ を

\begin{split}
Z=\sum_{i=1}^nw_i\,e^{-\ff{E_i}{k_B\,T}}=\int_{-\infty}^{\infty}\cdots\int_{-\infty}^{\infty}\ff{\diff\B{q}\diff\B{p}}{h^{3N}}e^{-\ff{E_i}{k_B\,T}}
\end{split}

と連続型の表式に変形することに成功しました。

ところで、確率 $p_i$ については代表点 $(\B{q},\B{p})$ での確率密度が $f(\B{q},\B{p})$ とすることで $p_i=f(\B{q},\B{p})\diff\B{q}\diff \B{p}$ と表せます。

よって $p_i$ にも先程と同様の議論を適用することで、

\begin{split}
p_i&=\ff{w_i\,e^{-\ff{E_i}{k_B\,T}}}{Z}=\ff{\DL{\ff{\diff\B{q}\diff\B{p}}{h^{3N}}}}{\DL{\int_{-\infty}^{\infty}\cdots\int_{-\infty}^{\infty}\ff{\diff\B{q}\diff\B{p}}{h^{3N}}e^{-\ff{E_i}{k_B\,T}}}}\EE
&=\ff{e^{-\ff{E_i}{k_B\,T}}\diff\B{q}\diff\B{p}}{ \DL{\int_{-\infty}^{\infty}\cdots\int_{-\infty}^{\infty}\diff\B{q}\diff\B{p}e^{-\ff{E_i}{k_B\,T}}}}
\end{split}

とできます。以上より物理量の平均値 $\langle A\rangle$ を次のように、離散型から連続型の式に変換できます。

\begin{eqnarray}
\langle A\rangle=\ff{ \DL{\int_{-\infty}^{\infty}\cdots\int_{-\infty}^{\infty}A(\B{q},\B{p}})e^{-\ff{E_i}{k_B\,T}}\diff\B{q}\diff\B{p} }{ \DL{\int_{-\infty}^{\infty}\cdots\int_{-\infty}^{\infty}e^{-\ff{E_i}{k_B\,T}}\diff\B{q}\diff\B{p}} } \tag{2}
\end{eqnarray}

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自由粒子の平均エネルギーの導出

式$(2)$に基づいて、自由粒子の平均エネルギーを導出していきます。なお、今回は簡単のため、$1$ 個の粒子についての平均エネルギーを考えます。

まず、粒子が持つ力学的エネルギーについては、ポテンシャルエネルギーを $U$、運動エネルギーを $T$ として次のように記述できます。

\begin{split}
E=U+T
\end{split}

粒子(分子)は非常に軽いため、ポテンシャルエネルギーは $0$ と見なせます。したがって、$E\NEQ T$ と近似でき、また、$T$ は分子の運動量を $p$、質量を $m$ として、$\DL{T=\ff{1}{2m}(p_1^2+p_2^2+p_3^2)}$ と表せます。

以上の条件を式$(2)$に適用すると、

\begin{split}
\langle E\,\rangle&=\ff{ \DL{\int_{-\infty}^{\infty}Ee^{-\ff{E}{k_B\,T}}\diff\B{p}} }{ \DL{\int_{-\infty}^{\infty}e^{-\ff{E}{k_B\,T}}\diff\B{p}} }\EE
&=\ff{1}{2m}\ff{ \DL{\iiint_{-\infty}^{\infty}(p_1^2+p_2^2+p_3^2)e^{-\ff{1}{2mk_B\,T}(p_1^2+p_2^2+p_3^2)}\diff p_1\diff p_2\diff p_3} }{ \DL{\iiint_{-\infty}^{\infty}e^{-\ff{1}{2mk_B\,T}(p_1^2+p_2^2+p_3^2)}\diff p_1\diff p_2\diff p_3} }\EE
\end{split}

分母についてはガウス積分から比較的簡単に計算できます。

\begin{split}
\iiint_{-\infty}^{\infty}e^{-\ff{1}{2mk_B\,T}(p_1^2+p_2^2+p_3^2)}\diff p_1\diff p_2\diff p_3&=\left(\int_{-\infty}^{\infty} e^{-\ff{p^2}{2mk_B\,T}}\diff p\right)^3\EE
&=(2m\pi k_B\,T)^{\ff{3}{2}}
\end{split}

問題は分子の計算です。一気に計算できないので、次のような変形を行います。

\begin{split}
&\iiint_{-\infty}^{\infty}(p_1^2+p_2^2+p_3^2)e^{-\ff{1}{2mk_B\,T}(p_1^2+p_2^2+p_3^2)}\diff p_1\diff p_2\diff p_3\EE
=&\iint_{-\infty}^{\infty}\left\{ \int_{-\infty}^{\infty}(p_1^2+p_2^2+p_3^2)e^{-\ff{p_1^2}{2mk_B\,T}}\diff p_1\right\}e^{-\ff{p_2^2+p_3^2}{2mk_B\,T}} \diff p_2\diff p_3\EE
=&\iint_{-\infty}^{\infty}\left\{ \int_{-\infty}^{\infty}p_1^2e^{-\ff{p_1^2}{2mk_B\,T}}\diff p_1+(p_2^2+p_3^2)\int_{-\infty}^{\infty}e^{-\ff{p_1^2}{2mk_B\,T}}\diff p_1\right\}e^{-\ff{p_2^2+p_3^2}{2mk_B\,T}} \diff p_2\diff p_3\EE
\end{split}

第一項の $\DL{\int_{-\infty}^{\infty}p_1^2e^{-\ff{p_1^2}{2mk_B\,T}}\diff p_1}$ の計算については、こちらで求めたように

\begin{split}
\int_{-\infty}^{\infty}p_1^2e^{-\ff{p_1^2}{2mk_B\,T}}\diff p_1=\ff{\sqrt{\pi}}{2}(2m k_B\,T)^{\ff{3}{2}}
\end{split}

そして $\DL{(p_2^2+p_3^2)\int_{-\infty}^{\infty}e^{-\ff{p_1^2}{2mk_B\,T}}\diff p_1}$ はガウス積分より、

\begin{split}
(p_2^2+p_3^2)\int_{-\infty}^{\infty}e^{-\ff{p_1^2}{2mk_B\,T}}\diff p_1=(p_2^2+p_3^2)\sqrt{2m\pi k_B\,T}
\end{split}

これらの結果を用いると分子を

\begin{split}
\iint_{-\infty}^{\infty}\left\{ \ff{\sqrt{\pi}}{2}(2m k_B\,T)^{\ff{3}{2}}+(p_2^2+p_3^2)\sqrt{2m\pi k_B\,T}\right\}e^{-\ff{p_2^2+p_3^2}{2mk_B\,T}} \diff p_2\diff p_3\EE
\end{split}

と整理できます。同様の操作を繰り返すことで、分子の値が $\DL{3\pi^{\ff{3}{2}}(2mk_B\,T)^{\ff{5}{2}}}$ と求められます。

以上より、$\langle E\,\rangle$ は

\begin{split}
\langle E\,\rangle&=\ff{1}{2m}\ff{3\pi^{\ff{3}{2}}(2mk_B\,T)^{\ff{5}{2}}}{(2m\pi k_B\,T)^{\ff{3}{2}}}=\ff{3}{2}k_BT
\end{split}

となります。

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