デュロン・プティの法則とは?|個体のモル比熱の法則と統計力学

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室温程度の環境で個体のモル比熱(正確には定積モル比熱)は、一部の例外を除いて一般気体定数 $R_0$ の $3$ 倍程度となることが知られています。

この経験的事実は、発見者二人の名前を冠してデュロン・プティの法則と呼ばれます。

デュロン・プティの法則

十分に温度が高いとき、個体元素の定積モル比熱 $c_v$ は一部の例外を除き、$c_v=3R_0$ となる。

ただし、$R_0$ を一般気体定数とする。

今回は、デュロン・プティの法則統計力学の立場から分析し、この法則がなぜ成立するのかを見ていきます。

デュロン・プティの法則は低温になると破れます。低温環境での定積比熱を理解するために量子力学の力を借りなければなりません。

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デュロン・プティの法則とは?

冒頭で述べたように、$1$モル当たりの個体元素のモル比熱(正確には定積モル比熱)はほぼ同程度の値を取ることが知られています。たとえば、$\RM{Al,Fe,Cu,Au,Ag}$ のモル比熱は表のようになります。

\begin{array}{c|ccccc}
\, & \RM{Al} & \RM{Fe} & \RM{Cu} & \RM{Au} & \RM{Ag} \\
\hline
\RM{J/(mol\cdot K)} & 24.3 & 25.0 & 24.5 & 25.2 & 25.5\\
\hline
– & 2.92R_0 & 3.01R_0 & 2.95R_0 & 3.03R_0 & 3.07R_0\\
\end{array}

これらのモル比熱と一般気体定数 $R_0=8.31\, \RM{J/mol\cdot K}$ との比を計算してみると、ほぼ $3R_0$ となります。

熱力学の表現に合わせると、個体の定積モル比熱が $c_v=3R_0$ であると表現できます。

この傾向は $\RM{Be}$ や $\RM{C}$ 等の一部の例外を除いて成立することが知られています。この経験則は二人の発見者の名を冠してデュロン・プティの法則と呼ばれます。

デュロン・プティの法則

十分に温度が高いとき、個体元素の定積モル比熱 $c_v$ は一部の例外を除き、$3R_0$ となる。

ただし、$R_0$ を一般気体定数とする。

この法則が成立する背景を統計力学を用いて分析していきます。

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固体原子の平均エネルギーの導出

デュロン・プティの法則を導くに当たり、まずは固体中の原子の物理的なモデルを考えることにします。

固体原子の模式図

さて、個体中のある原子に注目すると、重力やファンデルワールス力等の様々な力が作用しています。しかし、これらの力の正確な定式化は難しいため、単純化してばねによりつながっている状態としてモデル化することにします。

次に、注目している原子が持つ力学的エネルギーについて考えます。

今、原子をばねに繋がれた質点とモデル化できるため、ポテンシャルエネルギーは $U_i=\DL{\ff{1}{2}k_iq_i^2}$ とでき、(変位: $q_i$、ばね定数:$k_i$)そして、運動エネルギーを $T_i=\DL{\ff{p_i^2}{2m}}$ とできます。(原子の質量:$m$、運動量:$p_i$)

したがって、原子の持つ力学的エネルギー $E_i$ を $\DL{E_i=T_i+U_i=\DL{\ff{1}{2}k_iq_i^2+\ff{p_i^2}{2m}}}$ とできます。したがって、この原子の分配関数

\begin{split}
Z&=w_i\,e^{-\beta E_i}\EE
&=\ff{1}{h}\iint_{-\infty}^{\infty}e^{-\beta E}\diff q_i\diff p_i\EE
&=\ff{1}{h}\left( \int_{-\infty}^{\infty} e^{-\ff{k\beta}{2}q_i^2 }\diff q_i\right)\cdot\left( \int_{-\infty}^{\infty}e^{-\ff{\beta}{2m} p_i^2}\diff p_i\right)\EE
&=\ff{1}{h}\left( \ff{2\pi}{k\beta}\cdot \ff{2m\pi}{\beta}\right)^{\ff{1}{2}}\EE
&=\ff{2\pi}{h}\sqrt{\ff{m}{k}}\cdot\ff{1}{\beta}
\end{split}

と求められます。なお、式変形の途中で分配関数離散型から連続型への変換を行い、そしてガウス積分を用いています。 また、$\DL{\ff{1}{k_B\,T}=\beta}$ としています。

以上より、この原子の平均エネルギー $\langle E\rangle$ が公式から次のように求められます。

\begin{split}
\langle E\,\rangle&=-\ff{\diff}{\diff \beta}(\log Z)\EE
&=-\ff{\diff}{\diff \beta}\log\left( \ff{2\pi}{h}\sqrt{\ff{m}{k}}\cdot\ff{1}{\beta} \right)\EE
&=\ff{1}{\beta}=k_BT
\end{split}

さらに、固体中の原子の自由度が $6$ であることに注目すると、エネルギー等分配則より原子の平均エネルギーをこのように求められます。

\begin{split}
6\langle E\,\rangle&=3k_BT
\end{split}

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デュロン・プティの法則と統計力学

上の計算より、結晶中の一個の原子が持つ平均エネルギーが $\DL{3k_BT}$ であることが分かりました。

これより、結晶全体が持つ平均エネルギーを求めることができます。すなわち、$N$ 個の粒子から成る結晶の平均エネルギーは一個の原子の平均エネルギーの $N$ 倍であるので、

\begin{split}
\langle E\,\rangle&=N\cdot 3k_BT
\end{split}

とできます。

さて、$k_B$ はアボガドロ数 $N_A$ と一般気体定数 $R_0$ を使って、$\DL{k_B=\ff{R_0}{N_A}}$ という関係にあり、したがって、

\begin{split}
\langle E\,\rangle&=\ff{N}{N_A}\cdot3R_0 T
\end{split}

とできます。

そして、モル数は $n=\DL{\ff{N}{N_A}}$ と定義されるため、

\begin{split}
\langle E\,\rangle&=3nR_0 T
\end{split}

と整理できます。これより、一モル当たりの比熱、すなわちモル比熱が $3R_0$ であると言えます。以上より、デュロン・プティの法則が示されました。

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