統計力学的温度とは?|統計力学による温度の再定義

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熱力学にて熱力学第零法則に基づいて温度という物理量を導入しました。とはいえ、熱力学第零法則より定義された温度はマクロな状態に依存していて、分子の運動状態との関係については不透明なままです。

そこで、分子のミクロな状態と温度というマクロな物理量の関係を統計力学の立場から再考することにします。

このように、統計力学の立場から定義される温度のことを統計力学的温度と呼び、次のように定義されます。

統計力学的温度の定義

$E$ を内部エネルギー、$k_B$ をボルツマン定数、$E$ での微視的状態数を $W$ とする。

このとき、統計力学的温度 $T$ を次のように定義する。

\begin{eqnarray}
\ff{\diff}{\diff E}(\log W)=\ff{1}{k_BT} \\
\,
\end{eqnarray}

統計力学的温度を導く準備として、熱力学に基づいて定義された熱力学的温度について復習しましょう。

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熱力学的温度とは?

温度は気体のマクロな状態を表す物理量と言えます。より具体的には、物体を構成する分子の平均的な運動を表す指標とも言うことができます。

まずは、”温度“の定義について復習しましょう。

一般に広く用いられる温度熱力学に基づいて定義された温度です。実務的には水の三重点を $\RM{273.16\,K}$ と定義された理想気体温度が利用されています。

もう一つ、どのような物質にも依存しない温度を定義することができます。この”温度”は熱力学的温度と呼ばれ、その理論的根拠は熱力学第三法則となります。

熱力学的温度は具体的には、エントロピーが $0$ となった状態を絶対零度とし、温度の基準とします。

このように、熱力学的温度は物質の種類に依らない普遍的な定義として利用できる利点があります。

しかしながら、熱力学的温度はマクロな状態により決まるエントロピーを温度の基準としているため、統計力学の立場からは満足いく定義とは言えません。

そこで、分子のミクロな運動に基づいた新たな温度、すなわち統計力学的温度を導入することを考えることにします。

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統計力学的温度とは?

新たに導入したい統計力学的温度の定義においてヒントになるのは、やはり熱力学的温度の定義であり、エントロピー温度の関係です。統計力学的温度は、エントロピー温度の関係をミクロな立場から見直すことでから得られます。

この関係を見直す際、鍵となるのは熱力学的等重率エントロピーを結びつける、ボルツマンの原理です。

さて、ボルツマンの原理によればエントロピー $S$ と、ある内部エネルギー $E$ での微視的状態数 $W$ の間には、次の関係が成立します。

\begin{split}
S=k_B\log W=k_B\log \big(W(E)\cdot\D E\big)
\end{split}

ただし、$k_B$ をボルツマン定数とします。

この両辺を $E$ で微分すると、

\begin{eqnarray}
\ff{\diff S}{\diff E}=k_B\cdot\ff{\diff}{\diff E}(\log W)\tag{1}
\end{eqnarray}

となります。ところで、準静的微小変化に対する熱力学第一法則によれば、

\begin{split}
\diff E=\diff Q-p\diff V
\end{split}

の関係がありました。これにエントロピーの定義 $\diff Q=T\diff S$ を適用すると、

\begin{split}
1=T\ff{\diff S}{\diff E}-p\ff{\diff V}{\diff E}
\end{split}

と変形できて、また体積は不変のため $\diff V=0$ と言えます。ゆえに、

\begin{split}
\ff{\diff S}{\diff E}=\ff{1}{T}
\end{split}

と整理できます。この結果を式$(1)$に戻すと、

\begin{eqnarray}
\ff{\diff}{\diff E}(\log W)=\ff{1}{k_BT}
\end{eqnarray}

という式が得られます。$W$ はこちらで解説したように、熱力学等重率を $W(E)$ として

\begin{split}
W=W(E)\cdot\D E=\ff{2V^N\D E}{3N\Gamma\left(\ff{3N}{2} \right)}\left(\ff{2\pi m}{h^2}\right)^{\ff{3N}{2}}E^{\ff{3N}{2}-1}
\end{split}

と表すことができるように、全て既知の定数あるいは物理量のため、$\DL{\ff{\diff}{\diff E}(\log W)}$ も既知の値となります。

したがって、右辺の”温度” $T$ の値も自動的に決まります。

これより、ミクロな状態に基礎を持つ微視的状態数 $W$ によって温度を決められることが言えます。この温度は最初に説明した統計力学的温度と言えるでしょう。

以上より、統計力学的温度を次のように定義することとします。

統計力学的温度の定義

$E$ を内部エネルギー、$k_B$ をボルツマン定数、$E$ での微視的状態数を $W$ とする。

このとき、統計力学的温度 $T$ を次のように定義する。

\begin{eqnarray}
\ff{\diff}{\diff E}(\log W)=\ff{1}{k_BT} \\
\,
\end{eqnarray}

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統計力学的温度と気体分子運動論

上で定義した統計力学的温度を具体化していきましょう。まず、$W=W(E)\cdot\D E$ を具体的に書き下すと、

\begin{split}
W=W(E)\cdot\D E=\ff{2V^N\D E}{3N\Gamma\left(\ff{3N}{2} \right)}\left(\ff{2\pi m}{h^2}\right)^{\ff{3N}{2}}E^{\ff{3N}{2}-1}
\end{split}

とできます。ここで、$\A=\DL{\ff{2V^N\D E}{3N\Gamma\left(\ff{3N}{2} \right)}\left(\ff{2\pi m}{h^2}\right)^{\ff{3N}{2}}}$ と置いてボルツマンの原理を適用すると、

\begin{split}
S&=k_B\log W\EE
&=k_B\log \big(\A E^{\ff{3N}{2}-1}\big)\EE
&=k_B\log \A+k_B\left(\ff{3N}{2}-1 \right)\log E \EE
&\NEQ k_B\log \A+\ff{3Nk_B}{2}\log E
\end{split}

となります。最終行では分子数の $N$ が十分に大きいことより、近似を行いました。よって、

\begin{split}
\log W=\log \A+\ff{3N}{2}\log E
\end{split}

が得られます。これに、先述の統計力学的温度の定義を適用すると、以下の式が得られます。

\begin{split}
\ff{\diff}{\diff E}(\log W)&=\ff{3N}{2}\cdot\ff{1}{E}=\ff{1}{k_BT}\EE
\therefore\,T&=\ff{2E}{3Nk_B}
\end{split}

このように、より基本的な物理量より温度を計算できることが分かります。

さて、上式を変形すると

\begin{split}
E=\ff{3}{2}Nk_BT
\end{split}

となることが分かります。これは気体分子運動論にて導出した内部エネルギーについての式、$\DL{E=\ff{3}{2}Nk_BT}$ と見事に一致します。

これからも、統計力学的温度はミクロな世界と確かに関係を持っていることが分かります。

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