エネルギーのゆらぎとは?|エネルギーの変動値の導出と評価

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今回は系の『エネルギーのゆらぎ』について考えます。”ゆらぎ”は物理的な表現で、数学的には標準偏差(=平均値からの変動)のことを意味します。

このとき、エネルギーのゆらぎは次のように表されます。

エネルギーのゆらぎ

$c_v$ を定積比熱、$k_B$ をボルツマン定数、$T$ を温度とする。

このとき、エネルギーのゆらぎ(=標準偏差) $\D E$ は次のように表せる。

\begin{split}
\D E=\sqrt{c_vk}\,T
\end{split}

また、エネルギーの平均値 $\langle E\rangle$ に対するゆらぎの相対的な大きさは次のように評価できる。

\begin{split}
\ff{\D E}{\langle E\rangle}=\ff{1}{\sqrt{N}}
\end{split}

ただし、$N$ を系に含まれる粒子数とする。

今回は統計力学を用いて、上のエネルギーのゆらぎの式を導出することを目指します。

導出の準備として定積比熱エネルギーの平均値の関係について、まずは考察していきます。

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定積比熱とエネルギーの平均値

早速ですが、定積比熱とエネルギーの平均値 $\langle E\rangle$ との関係は、定積比熱の定義より、

\begin{split}
c_v=\ff{\del }{\del T}\langle E\rangle
\end{split}

と表せます。系がカノニカルアンサンブルであると考えると $\langle E\rangle$ は、分配関数 $Z=\DL{\sum_{i=1}^nw_i\,e^{-\beta E_i}}$ を用いて

\begin{split}
\langle E\rangle=\ff{1}{Z}\sum_{i=1}^nE_iw_ie^{-\beta E_i}
\end{split}

とできます。ただし、$w_i$ を縮退率、$\beta=\DL{\ff{1}{k_BT}}$ とします。これを上に適用して変形を進めると

\begin{split}
c_v&=\ff{\del }{\del T}\langle E\rangle \EE
&=\ff{\del \beta}{\del T}\ff{\del \langle E\rangle}{\del \beta} \EE
&=-k_B\beta^2\cdot\ff{1}{Z^2}\left( \ff{\del}{\del \beta}\sum_{i=1}^nE_iw_ie^{-\beta E_i}\cdot Z-\ff{\del Z}{\del \beta}\cdot\sum_{i=1}^nE_iw_ie^{-\beta E_i} \right)\EE
&=-k_B\beta^2\cdot\ff{1}{Z^2}\left\{ -Z\sum_{i=1}^nE_i^2w_ie^{-\beta E_i}+\left(\sum_{i=1}^nE_iw_ie^{-\beta E_i} \right)^2\right\}\EE
&=k_B\beta^2\cdot\left\{ \ff{\sum_{i=1}^nE_i^2w_ie^{-\beta E_i}}{Z}-\left(\ff{\sum_{i=1}^nE_iw_ie^{-\beta E_i}}{Z} \right)^2\right\}
\end{split}

そして、ある部分系に $E_i$ のエネルギーが分配される確率、つまり分配確率 $p_i$ は $\DL{p_i=\ff{\sum_{i=1}^nw_ie^{-\beta E_i}}{Z}}$ と表せることを思い出すと、

\begin{split}
c_v&=k_B\beta^2\left\{ \sum_{i=1}^nE_i^2p_i-\left( \sum_{i=1}^nE_ip_i \right)^2\right\}
\end{split}

と変形できます。今、$\DL{\sum_{i=1}^nE_i^2p_i}$ は二乗平均 $\langle E^2\rangle$ と一致し、$\DL{\sum_{i=1}^nE_ip_i}$ は平均値 $\langle E\rangle$ と一致します。したがって、定積比熱とエネルギーの平均値との関係が、

\begin{split}
c_v&=k_B\beta^2\Big(\langle E^2\rangle-\langle E\rangle^2\Big)
\end{split}

となることが導かれます。

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定積比熱とエネルギーのゆらぎ

定積比熱をエネルギーの二乗平均と平均の二乗で表した理由は、これによりエネルギーのゆらぎを導けるためです。

この背景を理解するため、まずは平均値と分散標準偏差の関係について説明します。すなわち、分散を $(\D E)^2$ とすると、分散の定義より、

\begin{split}
(\D E)^2&=\sum_{i=1}^n(E_i-\langle E\rangle)^2p_i \EE
\end{split}

が成立し、これを変形すると、

\begin{split}
(\D E)^2&=\sum_{i=1}^nE_i^2p_i-2\langle E\rangle\sum_{i=1}^nE_ip_i+\langle E\rangle^2\sum_{i=1}^np_i\EE
&=\langle E^2\rangle-2\langle E\rangle^2+\langle E\rangle^2\EE
&=\langle E^2\rangle-\langle E\rangle^2
\end{split}

とできます。この結果から標準偏差が次のように求められます。

\begin{split}
\D E=\sqrt{\langle E^2\rangle-\langle E\rangle^2}
\end{split}

これを先程の定積比熱の式に適用すると、エネルギーの標準偏差は

\begin{split}
c_v&=k_B\beta^2(\D E)^2=\ff{(\D E)^2}{kT^2}\EE
&\therefore\,\D E=\sqrt{c_vk_B}\,T
\end{split}

になることが分かります。

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エネルギーのゆらぎの導出と評価

前述の $\D E$ は数学的には標準偏差と呼ばれますが、物理学の世界では標準偏差のことをゆらぎと表現します。すなわち、エネルギーの標準偏差は物理学の世界ではエネルギーのゆらぎと表現され、具体的には

\begin{split}
\D E=\sqrt{c_vk_B}\,T
\end{split}

となることが言えます。

エネルギーのゆらぎの程度を評価するため、エネルギーの平均値に対するゆらぎの相対的な大きさについて考えてみましょう。相対的な大きさは、エネルギーのゆらぎエネルギーの平均値との比で表せるため、

\begin{split}
\ff{\D E}{\langle E\rangle}=\ff{\sqrt{c_vk_B}\,T}{\langle E\rangle}
\end{split}

とできます。

さて、定積比熱については気体や個体で異なる値を取りますが、係数部分を無視すると $c_v\NEQ Nk_B$ と見積もれ、同様にエネルギーの平均値 $\langle E\rangle$ も $Nk_BT$ と見積もれます、したがって、相対的な大きさを

\begin{split}
\ff{\D E}{\langle E\rangle}&=\ff{\sqrt{c_vk_B}\,T}{\langle E\rangle}\EE
&\NEQ\ff{\sqrt{N}\,k_BT}{Nk_BT}=\ff{1}{\sqrt{N}}
\end{split}

と評価できます。例として $1$ モルの物質のエネルギーのゆらぎの相対的な大きさについて考えましょう。$1$ モルの物質には $6.02\times10^{23}$ 個の分子が含まれるため、ゆらぎの相対的な大きさは

\begin{split}
\ff{\D E}{\langle E\rangle}&\NEQ\ff{1}{\sqrt{N}}\EE
&=\ff{1}{\sqrt{6.02\times10^{23}}}\EE
&\NEQ\ff{1}{10^{12}}=10^{-12}
\end{split}

と評価できます。

計算結果は、エネルギーのゆらぎの相対的な大きさが平均値の一兆分の一程度の大きさであることを教えてくれます。一兆分の一程度のエネルギーのゆらぎは温度計の精度よりもずっと小さく、そのため、ゆらぎを実験的に検出すること自体がほぼ不可能であることが分かります。

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