ギブスのパラッドクスとは?|エントロピー変化のパラドックス

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前回、分配関数を用いたエントロピーの導出を行いましたが、これを元に気体の混合によるエントロピー変化の計算を行うと、ギブスのパラドックスと呼ばれる不合理が導かれます。

ギブスのパラドックス

同じ温度・圧力の同種の気体を混合しても、エントロピーの変化は $0$ となる。

一方、気体粒子が区別可能として、このときのエントロピー変化を計算するとエントロピーは増大する。

この矛盾をギブスのパラドックスと呼ぶ。

今回はギブスのパラドックスというエントロピーにまつわる不合理と、その解決法について説明します。

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ギブスのパラッドクスとは?

ギブスのパラドックスを考えるにあたり、次のような仮定を設けます。

ギブスのパラドックスの仮定

同一の温度・圧力かつ同種の気体粒子であっても、区別可能である

同種気体の混合を考える前に、異なる種類で同じ温度・圧力の気体(例えば常温常圧の窒素と酸素)を混合したときのエントロピーの増減について考えましょう。このとき、混合前後の様子は図のようになります。

気体混合の模式図

簡単のため同体積(=モル数も同じ)として、混合前後のエントロピーの変化を計算すると、エントロピーの計算公式から

\begin{split}
\D S&=\left(nc_v\ln T-nR\ln \ff{2V}{V}+S_1\right)-(nc_v\ln T-n_1R\ln V+S_1)\EE
&\qquad+\left(nc_v’\ln T-nR\ln \ff{2V}{V}p+S_2\right)-(nc_v’\ln T-nR\ln V+S_2)\EE
&=2nR\ln 2>0
\end{split}

計算結果より、気体を混合するとエントロピーが増大することが分かります。これは、窒素同士など、同種の気体同士を混合した場合でもエントロピーが増大することを意味します。

ところが、実際に同種気体を混合してエントロピー変化を測定しても、混合前後でエントロピーの変化は検出されません。計算と実験結果に矛盾が生じてしまいました。

この矛盾はギブスのパラッドクスと呼ばれます。

ギブスのパラドックス

同じ温度・圧力の同種の気体を混合しても、エントロピーの変化は $0$ となる。

一方、気体粒子が区別可能として、このときのエントロピー変化を計算するとエントロピーは増大する。

この矛盾をギブスのパラドックスと呼ぶ。

ここからは、ギブスのパラドックスが生じる理由とその解決策について考えていきます。

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ギブスのパラッドクスが生じる原因とは?

ギブスのパラドックスについてより深く考えるため、統計力学の助けを借りることにします。

以前、分配関数から導出したように気体分子が区別できる場合、そのエントロピーは、

\begin{split}
S&=k_BN\left\{ \ff{3}{2}+\ff{3}{2}\log \ff{4m\pi}{3h^2}+\ff{3}{2}\log \ff{E}{N}+\log V \right\}
\end{split}

と表せました。(分配関数を用いたエントロピーの導出)

ゆえに、混合前のエントロピーの合計値は、

\begin{split}
S&=S_1+S_2\EE
&=2k_BN\left\{ \ff{3}{2}+\ff{3}{2}\log \ff{4m\pi}{3h^2}+\ff{3}{2}\log \ff{E}{N}+\log V \right\}
\end{split}

と計算できます。

そして、混合後の気体のエントロピーについては、$E\to 2E,N\to 2N, V\to 2V$ となることに注意して

\begin{split}
S&=2k_BN\left\{ \ff{3}{2}+\ff{3}{2}\log \ff{4m\pi}{3h^2}+\ff{3}{2}\log \ff{E}{N}+\log 2V \right\}\EE
&=2k_BN\left\{ \ff{3}{2}+\ff{3}{2}\log \ff{4m\pi}{3h^2}+\ff{3}{2}\log \ff{E}{N}+\log V \right\}+2k_BN\log 2
\end{split}

と求められます。先述のようにエントロピーが増加しており、ギブスのパラドックスを確認できます。

今までオルバースのパラッドクスダランベールのパラドックスで見てきたように、理論の前提条件や仮定にパラドックスを生じさせる原因が潜んでいます。

今回の場合、ギブスのパラッドクスを解く鍵となるのは、同種の気体分子同士を区別できるかどうか?という点です。つまり、同種気体の混合でのエントロピー変化の計算の前提として、分子を区別できるものと考えていましたが、本当に区別可能なのかということを考える必要があります。

少し考えれば分かるように、同種の気体分子を区別することは非常に難しいことです。異なる気体であれば試薬を用いて区別することが可能です。しかし、同種の気体であると試薬を用いた化学的な判定は使えませんし、物理的に質量を測るとしてもそれがどちらの容器から来たものなのか判別はできません。

このような事情があるため、同種の気体粒子の区別が可能であるという仮定は誤りであり、現実には同種の気体分子の区別はできないということが言えます。

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ギブスのパラドックスの解決

実験的には粒子の区別ができないことを適用し、改めてエントロピーについて考えます。

再び、エントロピーと分配関数の関係式より

\begin{eqnarray}
S=\ff{E}{T}+k_B\log Z \tag{1}
\end{eqnarray}

が言えて、$Z$ については

\begin{split}
Z=\left( \ff{2m\pi}{\beta h^2} \right)^\ff{3N}{2}\cdot V^N
\end{split}

とできます。(分配関数を用いたエントロピーの導出)

粒子の区別ができないため、$Z$ を $N!$ で割らなければなりません。ゆえに、

\begin{split}
Z=\left( \ff{2m\pi}{\beta h^2} \right)^\ff{3N}{2}\cdot \ff{V^N}{N!}
\end{split}

スターリングの公式から $N! \NEQ N^Ne^{-N}$ と近似できることを用いると、

\begin{split}
Z=\left( \ff{2m\pi}{\beta h^2} \right)^\ff{3N}{2}\cdot\left( \ff{V}{N}e \right)^N
\end{split}

とできます。これを$(1)$に適用すると、

\begin{split}
S&=\ff{E}{T}+k_B\log \left\{ \left( \ff{2m\pi}{\beta h^2} \right)^\ff{3N}{2}\cdot\left( \ff{V}{N}e \right)^N \right\} \EE
&=k_BN\left( \ff{5}{2}+\ff{3}{2}\log \ff{4m\pi}{3h^2}+\ff{3}{2}\log \ff{E}{N}+\log \ff{V}{N} \right)
\end{split}

が得られます。この式を元にエントロピーを計算してみましょう。まず、混合前のエントロピーの合計値は、

\begin{eqnarray}
S&=&S_1+S_2 \EE
&=&2k_BN\left( \ff{5}{2}+\ff{3}{2}\log \ff{4m\pi}{3h^2}+\ff{3}{2}\log \ff{E}{N}+\log \ff{V}{N} \right)\tag{2}
\end{eqnarray}

混合後のエントロピーについては粒子数が $2N$、体積が $2V$ の状態であることに注意すると、分配関数

\begin{split}
Z&=\left( \ff{2m\pi}{\beta h^2} \right)^\ff{3\cdot 2N}{2}\cdot\left( \ff{2V}{2N}e \right)^{2N}\EE
&=\left( \ff{2m\pi}{\beta h^2} \right)^{3N}\cdot\left( \ff{V}{N}e \right)^{2N}
\end{split}

となり、ゆえにエントロピーを、

\begin{eqnarray}
S&=&\ff{E}{T}+k_B\log \left\{ \left( \ff{2m\pi}{\beta h^2} \right)^{3N}\cdot\left( \ff{V}{N}e \right)^{2N} \right\} \EE
&=&3k_BN+k_BN\left(3\log \ff{4m\pi}{3h^2}+3\log \ff{E}{N}+2\log \ff{V}{N}+2 \right)\EE
&=&k_BN\left(5+3\log \ff{4m\pi}{3h^2}+3\log \ff{E}{N}+2\log \ff{V}{N} \right)\EE
&=&2k_BN\left(\ff{5}{2}+\ff{3}{2}\log \ff{4m\pi}{3h^2}+\ff{3}{2}\log \ff{E}{N}+\log \ff{V}{N} \right)\tag{3}
\end{eqnarray}

と求められます。$(2)$ と $(3)$ のエントロピーが見事に一致しました。これから、ギブスのパラドックスは解決されたと言えます。

なお、異種の気体を混合したときのエントロピーは、粒子の質量を $$m_1,m_2$ として、

\begin{split}
S&=k_BN\left\{ 5+\ff{3}{2}\log \left(\ff{4m_1\pi}{3h^2}\cdot\ff{E}{N} \right)\right.\EE
&\quad\left.+\ff{3}{2}\log \left(\ff{4m_2\pi}{3h^2}\cdot\ff{E}{N} \right)+2\log \ff{V}{N} \right\}+2k_BN\log 2
\end{split}

となって、最初に求めたエントロピーの増加がきちんと示されます。

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