グランドポテンシャルとは?|大分配関数と熱力学の接点

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前回、大分配関数の具体的な式を導出しました。今回はグランドポテンシャルという物理量を導入し、大分配関数熱力学との関係を探っていきます。

結論を示すと、大分配関数グランドポテンシャルの間には次のような関係が成立します。

大分配関数とグランドポテンシャルの関係

グランドポテンシャル $J$ と大分配関数 $Z_G$ には次のような関係がある。

\begin{split}
\log Z_G=-\ff{J}{k_BT}=\ff{pV}{k_BT}
\end{split}

ただし、$k_B$ をボルツマン定数、$p,T,V$ を圧力・絶対温度・体積、$\DL{\beta=\ff{1}{k_BT}}$ とする。

これを導出するため、まずはグランドポテンシャルという物理量について説明します。

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グランドポテンシャルとは?

グランドポテンシャルとは、次のように定義される物理量のことです。

グランドポテンシャルとは?

$F$ をヘルムホルツの自由エネルギー、$G$ をギブスの自由エネルギーとして、グランドポテンシャル(熱力学ポテンシャル) $J$ を次のように定義する。

\begin{split}
J=F-G=-pV
\end{split}

ただし、$p,V$ を圧力・体積とする。

グランドポテンシャルという大仰な名前が付いていますが、何ということは無く圧力と体積の積がその正体です。

ところで以前、大分配関数と物理量の平均値の関係を導いていました。

具体的には、$Z_G$ を大分配関数、$\langle E\,\rangle$ をエネルギーの平均値、$\langle N\rangle$ を粒子数の平均値、そして、$k_B,T,\mu$ をボルツマン定数・絶対温度・化学ポテンシャル(粒子 $1$ 個当たりのギブスの自由エネルギー)として次の関係式が成立しました。

\begin{split}
\diff (\log Z_G)&=-\langle E\,\rangle\diff \beta-\langle N\rangle\diff\gamma
\end{split}

なお、$\DL{\beta=\ff{1}{k_BT},\gamma=-\ff{\mu}{k_BT}}$ とします。

右辺についてはその中身が分かっている一方、左辺の $\log Z_G$ の正体が分からないため、これについて考えていきましょう。

$\log Z_G$ の正体については天下り的にはなりますが、先述のグランドポテンシャルを用いて次のように表せることが知られています。

大分配関数とグランドポテンシャルの関係

グランドポテンシャル $J$ と大分配関数 $Z_G$ の間には以下の関係がある。

\begin{split}
\log Z_G=-\ff{J}{k_B\,T}=\ff{pV}{k_B\,T}=\beta J
\end{split}

ただし、$k_B$ をボルツマン定数、$p,T,V$ を圧力・絶対温度・体積、$\DL{\beta=\ff{1}{k_BT}}$ とする。

上式の証明を次節にて示していきます。

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大分配関数とグランドポテンシャルの関係式の証明

前述の大分配関数とグランドポテンシャルの関係式 $\DL{\log Z_G=-\ff{J}{k_B\,T}=\ff{pV}{k_B\,T}}$ の証明を行っていきます。

証明は $\DL{\ff{pV}{k_BT}}$ の全微分を行うことから始まります。すなわち、

\begin{split}
\diff\left( \ff{pV}{k_BT} \right)&=\ff{1}{k_B}\ff{\diff(pV)\cdot T-(pV)\diff T}{T^2}\EE
&=\ff{p\diff V+V\diff p}{k_BT}-\ff{pV}{k_BT^2}\diff T
\end{split}

右辺第一項の、$\diff pV+p\diff V$ はギブスの自由エネルギーの全微分の結果と比較して、

\begin{split}
p\diff V+V\diff p=\diff G-\diff E+T\diff S+S\diff T
\end{split}

とでき、これに $\diff E=T\diff S-p\diff V$ を用いると

\begin{split}
p\diff V+V\diff p=\diff G+p\diff V+S\diff T
\end{split}

この結果を上式に適用して整理すると、

\begin{split}
\diff\left( \ff{pV}{k_BT} \right)&=\ff{\diff G+p\diff V+S\diff T}{k_BT}-\ff{pV}{k_BT^2}\diff T\EE
&=\ff{\diff G}{k_BT}+\ff{p\diff V}{k_BT}+\ff{ST-pV}{k_BT^2}\diff T
\end{split}

とできます。次の一手として、$\diff G=N\diff\mu,ST-pV=E-G$ であることを利用します。すると、

\begin{split}
\diff\left( \ff{pV}{k_BT} \right)&=\ff{N}{k_BT}\diff \mu+\ff{p\diff V}{k_BT}+\ff{E-G}{k_BT^2}\diff T
\end{split}

とできて、第一項については、$\DL{\diff\left( \ff{N\mu}{k_BT} \right)}$ の全微分を考えると、

\begin{split}
\ff{N}{k_BT}\diff \mu&=\diff\left( \ff{N\mu}{k_BT} \right)+\ff{N\mu}{k_BT^2}=\diff\left( \ff{N\mu}{k_BT} \right)+\ff{G}{k_BT^2}
\end{split}

の関係にあるため、これを適用して

\begin{split}
\diff\left( \ff{pV}{k_BT} \right)&=N\cdot\diff\left( \ff{\mu}{k_BT} \right)+\ff{E}{k_BT^2}\diff T+\ff{p}{k_BT}\diff V\EE
&=-E\cdot\diff\left(\ff{1}{k_BT}\right)-N\cdot\diff\left( \ff{\mu}{k_BT} \right)+\ff{p}{k_BT}\diff V
\end{split}

とできます。

ここまで来れば証明まであと一歩です。最後の一手として、$\diff V=0$ であることを用います。なぜなら、グランドカノニカルアンサンブルの舞台である断熱容器の体積は変化しないためです。したがって、

\begin{split}
\diff\left( \ff{pV}{k_BT} \right)&=-E\cdot\diff\left(\ff{1}{k_BT}\right)-N\cdot\diff\left( \ff{\mu}{k_BT} \right)\EE
&=-\langle E\,\rangle\diff \beta-\langle N\rangle\diff\gamma
\end{split}

が得られます。これより、

\begin{split}
\log Z_G&=\ff{pV}{k_B\,T}
\end{split}

が示されました。また、グランドポテンシャルが $J=-pV$ であることを用いると、

\begin{split}
\log Z_G&=-\ff{J}{k_BT}=-\beta J
\end{split}

ともできます。

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大分配関数とグランドポテンシャルの公式

大分配関数グランドポテンシャルを用いると、粒子数の平均値を簡単に表すことができます。

大分配関数と粒子数の平均値の関係

$\DL{\beta=\ff{1}{k_BT},\gamma=-\ff{\mu}{k_BT}}$ として、粒子数の平均値 $\langle N\rangle$ は次のように表される。

\begin{split}
(1)\quad\langle N\rangle&=\ff{1}{\beta}\ff{\del(\log Z_G)}{\del \mu} \\[8pt]
(2)\quad\langle N\rangle&=-\ff{\del J}{\del \mu}
\end{split}

ただし、$Z_G$ を大分配関数、$k_B$ をボルツマン定数、$T$ を絶対温度、$J$ をグランドポテンシャル、$\mu$ を化学ポテンシャルとする。

まず、$(1)$ の証明を行います。始めに右辺を変形し、

\begin{split}
\ff{1}{\beta}\ff{\del(\log Z_G)}{\del \mu}&=\ff{1}{\beta}\ff{\del Z_G}{\del \mu}\ff{\del(\log Z_G)}{\del Z_G}
\end{split}

ここで、$Z_G=\DL{\sum_{i,j}w_{i,j}\,e^{-\beta(E_{i,j}-\mu N_i)}}$ を適用すると、

\begin{split}
\ff{1}{\beta}\ff{\del Z_G}{\del \mu}\ff{\del(\log Z_G)}{\del Z_G}&=\ff{1}{\beta}\ff{\sum_{i,j}N_iw_{i,j}\,e^{-\beta(E_{i,j}-\mu N_i)}}{Z_G}\EE
&=\ff{1}{\beta}\cdot\langle N\rangle
\end{split}

式変形の最後で物理量の期待値と平均値の関係を適用して、粒子数の平均値 $\langle N\rangle$ とできることを利用しています。以上より、$\DL{\langle N\rangle=\ff{1}{\beta}\ff{\del(\log Z_G)}{\del \mu}}$ が示されました。

次に、$(2)$ の証明を行います。証明では $\log Z_G$ がグランドポテンシャルと $\beta$ を用いて、

\begin{split}
\log Z_G=-\beta J
\end{split}

の関係にあることを用います。これに公式 $(1)$ を適用すると、

\begin{split}
\langle N\rangle&=\ff{1}{\beta}\ff{\del(\log Z_G)}{\del \mu} \EE
&=\ff{1}{\beta}\ff{\del (-\beta J)}{\del \mu} \EE
&=-\ff{\del J}{\del \mu}
\end{split}

とできます。$\DL{\langle N\rangle=-\ff{\del J}{\del \mu}}$ が示されました。

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