今回は楕円の周長に関わる楕円積分と呼ばれる積分について考えていきます。
楕円積分には、第一種楕円積分、第二種楕円積分、第三種楕円積分がありますが、ここでは第一種楕円積分と第二種楕円積分について解説していきます。
物理学的には、次のように定義される第一種完全楕円積分が重要となります。
母数を $k$ として、以下のように表される積分を第一種完全楕円積分と呼ぶ。
\begin{eqnarray}
K(k)&=F\left(k,\ff{\pi}{2}\right)&=\int_{0}^{\ff{\pi}{2}}\ff{\diff\varphi}{\sqrt{1-k^2\sin^2\varphi}}
\end{eqnarray}
なお、第一種種完全楕円積分は次のようにべき級数展開される。
\begin{split}
K(k)&=\ff{\pi}{2}+\ff{\pi}{2}\sum_{n=1}^{\infty}\left\{\ff{(2n-1)!!}{(2n) !!}\right\}^2 (k^2)^{n}
\end{split}
ただし、$k^2<1$ とし、$n!!$ を二重階乗(一つ飛ばしに自然数の積を計算する方法)とする。
物理学上の応用例として、振り子の周期の厳密解の表示などがあります。まずは楕円積分の名前の由来となった、楕円の周長を求めることについて考えていきます。
楕円の周長の計算
さて、楕円の周長を求めることを考えます。具体的には、以下のような長半径が $a$、短半径が $b$ の楕円の孤長について計算することにします。
このとき、任意の楕円上の点は、極座標を用いることで
$$
\left\{
\begin{split}
x&=a\cos\q \EE
y&=b\sin\q
\end{split}
\right.\tag{1}
$$
と表すことができます。さて、楕円の微小部分の線素の長さ $\diff s$ は三平方の定理より、
\begin{split}
\diff s=\sqrt{\diff x^2+\diff y^2}
\end{split}
とできて、これに $(1)$ を利用することで、
\begin{split}
\diff s&=\sqrt{a^2\cos^2 \q+b^2\sin^2 \q}\,\diff\q\EE
&=a\sqrt{1-\ff{a^2-b^2}{a^2}\sin^2\q}\,\diff\q
\end{split}
が得られます。さらに、$\DL{k^2=\ff{a^2-b^2}{a^2}}$ と置くと
\begin{eqnarray}
\diff s&=a\sqrt{1-k^2\sin^2\q}\,\diff\q\tag{2}
\end{eqnarray}
と表示できます。なお、$k^2<1$ であり、負の数値も取り得ることに注意してください。
第二種完全楕円積分とは?
上で得た結果より、長軸上の点 $\RM{A}$ から点 $\RM{B}$ までの周長 $s$ が求められます。すなわち、$\RM{A}$ から点 $\RM{B}$(偏角 $\q$)までの間の孤長 $s$ が式$(2)$より以下のように求められます。
\begin{eqnarray}
s&=a\int_{0}^{\q}\sqrt{1-k^2\sin^2\varphi}\,\diff\varphi
\end{eqnarray}
ところで、先程定義したパラメータ $k$ のことを今後は母数と呼ぶことにします。
さて、このように積分の下限が $0$ で上限が $\q$ であるような式を第二種楕円積分と呼び、$E(k,\q)$ と表すことにします。
\begin{eqnarray}
E(k,\q)&=\int_{0}^{\q}\sqrt{1-k^2\sin^2\varphi}\,\diff\varphi
\end{eqnarray}
そして、$\q=\DL{\ff{\pi}{2}}$ とした積分のことを第二種完全楕円積分と呼び、$E(k)$ で表します。
\begin{eqnarray}
E(k)&=\int_{0}^{\ff{\pi}{2}}\sqrt{1-k^2\sin^2\varphi}\,\diff\varphi
\end{eqnarray}
母数を $k$ として、以下のように表される積分を第二種完全楕円積分と呼ぶ。
\begin{eqnarray}
E(k)&=\int_{0}^{\ff{\pi}{2}}\sqrt{1-k^2\sin^2\q}\,\diff\q \\
\,
\end{eqnarray}
第二種完全楕円積分の定義から分かるように、$E(k)$ は楕円の周の全長の四分の一に相当します。したがって、楕円の周の全長 $S$ を、
\begin{eqnarray}
S=4a\cdot E(k)
\end{eqnarray}
と表示できることが分かります。
第一種完全楕円積分とは?
第一種楕円積分とは?
楕円の周の計算からは離れますが、第二種楕円積分の被積分関数を逆数とした積分のことを第一種楕円積分と呼びます。
\begin{eqnarray}
F(k,\q)&=\int_{0}^{\q}\ff{\diff\varphi}{\sqrt{1-k^2\sin^2\varphi}}
\end{eqnarray}
第一種楕円積分は、$t=\sin\varphi$ という置換を行うことで、
\begin{eqnarray}
F(k,\q)&=\int_{0}^{\q’}\ff{\diff t}{\sqrt{(1-t^2)(1-k^2t^2)}}
\end{eqnarray}
とできます。ただし、$\q’=\sin\q$ とします。
第一種完全楕円積分とは?
そして、$\q$ を $\DL{\ff{\pi}{2}}$ としたときの上の積分のことを第一種完全楕円積分と呼び、$K(k)$ と表示することにします。
\begin{eqnarray}
K(k)=F\left(k,\ff{\pi}{2}\right)&=\int_{0}^{\ff{\pi}{2}}\ff{\diff\varphi}{\sqrt{1-k^2\sin^2\varphi}}
\end{eqnarray}
母数を $k$ として、以下のように表される積分を第一種完全楕円積分と呼ぶ。
\begin{eqnarray}
K(k)&=F\left(k,\ff{\pi}{2}\right)&=\int_{0}^{\ff{\pi}{2}}\ff{\diff\varphi}{\sqrt{1-k^2\sin^2\varphi}}\\
\,
\end{eqnarray}
なお、第一種完全楕円積分は $t=\sin\varphi$ という置換を行うことで、
\begin{eqnarray}
K(k)&=\int_{0}^{1}\ff{\diff t}{\sqrt{(1-t^2)(1-k^2t^2)}}
\end{eqnarray}
と表示することもできます。
第一種完全楕円積分の級数展開
第一種完全楕円積分の解は初等関数で表すことができません。そこで、第一種完全楕円積分のべき級数展開表示について考えることにします。
まず、被積分関数を $k$ についての関数と見てマクローリン展開を実行すると、次のように表すことができます。
\begin{split}
\ff{1}{\sqrt{1-k^2\sin^2\varphi}}&=1+\ff{1}{2}k^2\sin^2\varphi+\ff{3}{8}k^4\sin^4\varphi+\ff{5}{16}k^6\sin^6\varphi+\cdots\EE
&=1+\sum_{n=1}^{\infty}\ff{(2n-1)!!}{2^n\,n!}(k^2\sin^2\varphi)^n
\end{split}
なお、$m!!$ は自然数 $m$ に対して一つ飛ばしに積を計算する二重階乗を表すとします。
これを第一種完全楕円積分の式に適用すると、
\begin{split}
K(k)&=\int_{0}^{\ff{\pi}{2}}\ff{\diff\varphi}{\sqrt{1-k^2\sin^2\varphi}}\EE
&=\int_{0}^{\ff{\pi}{2}}\left\{1+\sum_{n=1}^{\infty}\ff{(2n-1)!!}{2^n\,n!}(k^2\sin^2\varphi)^n \right\}\diff\varphi \EE
&=\ff{\pi}{2}+\sum_{n=1}^{\infty}\ff{(2n-1)!!}{2^n\,n!}(k^2)^{n}\int_{0}^{\ff{\pi}{2}}\sin^{2n}\varphi\,\diff\varphi
\end{split}
とでき、$\DL{\int_{0}^{\ff{\pi}{2}}\sin^{m}\varphi\,\diff\varphi}$ の積分については、次のような対応関係があり、
\begin{split}
I_m&=\int_{0}^{\ff{\pi}{2}}\sin^{m}\varphi\,\diff\varphi \EE
&=\int_{0}^{\ff{\pi}{2}}\sin\varphi\cdot\sin^{m-1}\varphi\,\diff\varphi \EE
&= (m-1)\int_{0}^{\ff{\pi}{2}}\sin^{m-2}\varphi\cdot(1-\sin^{2}\varphi)\diff\varphi \EE
&= -(m-1)I_m+(m-1)I_{m-2}\EE
\therefore\, I_m&=\ff{m-1}{m}I_{m-2}
\end{split}
今、$m=2n$ であるので、
\begin{split}
I_{2n}&=\ff{2n-1}{2n}\cdot\ff{2n-3}{2n-2}\cdots\ff{\pi}{2}=\ff{\pi}{2}\ff{(2n-1)!!}{(2n)!!}
\end{split}
と求めれらます。これを $K(k)$ の結果に適用すると、
\begin{split}
K(k)&=\ff{\pi}{2}+\sum_{n=1}^{\infty}\ff{(2n-1)!!}{2^n\,n!}(k^2)^{n}\cdot \ff{\pi}{2}\ff{(2n-1)!!}{(2n)!!}\EE
&=\ff{\pi}{2}+\ff{\pi}{2}\sum_{n=1}^{\infty}\left\{\ff{(2n-1)!!}{(2n) !!}\right\}^2 (k^2)^{n}
\end{split}
が得られます。ただし、$2^n\,n!=(2n)!!$ であることを用いています。
$n=1,5,10,30$ として実際に描画したものを第一種完全楕円積分と比較したものを下図に示します。
図より、導出した式は確かに第一種完全楕円積分のべき級数展開となっていることが理解できます。