ガス輻射とは?|ガス層からの放射と吸収の機構と法則【ビアの法則】

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これまでは個体からの輻射伝熱の性質について考えてきました。

実は、個体からの輻射だけでなく気体からの輻射も存在していて、この輻射はガス輻射と呼ばれます。身近にガス輻射は存在しており、ガス輻射の代表例は太陽からの輻射です。

また、個体では表面のみが輻射に関与していましたが、ガス輻射ではガス全体が輻射に関与している点に留意しなければなりません。

ビアの法則

ガス層に入射した輻射の強度は、ガス層の厚さと共に指数関数的に減少する。

$L$ をガス層の厚さ、$\kappa_{\lambda}$ を単色吸収率として輻射強度は次のように表せる。

\begin{split}
\ff{I_{\lambda}(L)}{I_{\lambda}(0)}=e^{-\kappa_{\lambda}L}\\
\,
\end{split}

ガス輻射の放射強度

$I_{b\lambda}(T)$ を絶対温度 $T$ での黒体輻射強度、$\kappa_{\lambda}$ を単色放射率とする。

このとき、厚さ $L$ のガスから受ける、ある波長からの輻射強度 $I_{\lambda}(T)$ を次のように表せる。

\begin{split}
I_{\lambda}(T) &= I_{b\lambda}(T)\Big(1-e^{-\kappa_{\lambda}L}\Big) \\
\,
\end{split}

今回はガス輻射の機構とその理論、そしてビアの法則ついて解説します。

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ガス輻射の吸収と放射の機構

個体の輻射についてこれまでは考えていましたが、気体からの輻射も実は存在するのです。気体からの輻射はガス輻射と呼ばれます。

ガス輻射の存在は、ガスの塊である太陽からの光が現実に地表に到達していることより納得できるでしょう。

さらに、個体での輻射は表面のみで生じていましたが、気体では輻射がその内部で吸収あるいは反射されるの点も、個体の輻射と異なる点です。

したがって、気体の輻射を考える場合では、ガス全体の体積に対して議論するような取り扱いが必要となります。

ガス輻射のその他の大きな特徴として、特定の波長領域のみが選択的に吸収される性質を持つことが挙げられます。なお、この性質には選択吸収性と呼ばれます。

このような選択吸収性を示す理由は、気体が独立した分子の集団から構成されていることと、気体分子の構造、二つに求められます。

例えば、二酸化炭素の場合、吸収波長は $4.3\,\RM{\mu m}$ と $15\,\RM{\mu m}$ 、そして $1.9\,\RM{\mu m}$ と $2.7\,\RM{\mu m}$ となります。

CO2の吸収波長

複数の吸収波長を持つ理由は、二酸化炭素分子が複数の振動モードを持つ点にあります。

CO2の基準振動モード

二酸化炭素の基準振動モードは、上のような $3$ 種類であることが分かっています。

左図の対称な振動では、分子内の電荷分布が時間的に変化しないため吸収や反射は起きませんが、残る2つの非対称な振動では、吸収・反射が起きます。この振動モードに対応する吸収波長が $4.3\,\RM{\mu m}$ と $15\,\RM{\mu m}$ となります。

さらに、これら3つの基準振動が重ね合わされることにより、$1.9\,\RM{\mu m}$ と $2.7\,\RM{\mu m}$ にも吸収波長が現れることとなります。

ただし、酸素や窒素のような対称な2原子分子では電荷分布の時間変化が無く、ヘリウムやアルゴンといった単原子分子では元より原子間振動が存在しないため、輻射の吸収や放射も存在しません。このように、気体の種類により輻射の性質が変化していきます。

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ビアの法則

キルヒホッフの法則のように、ガス輻射に対してもビアの法則と呼ばれる法則が成立します。

ビアの法則

ガス層に入射した輻射の強度は、その厚さと共に指数関数的に減少する。

$L$ をガス層の厚さ、$\kappa_{\lambda}$ を単色吸収率として輻射強度は次のように表せる。

\begin{split}
\ff{I_{\lambda}(L)}{I_{\lambda}(0)}=e^{-\kappa_{\lambda}L}\\
\,
\end{split}

まず、ある波長 $\lambda$ の電磁波が輻射強度 $I_{\lambda}(0)$ でガス層に入射した場合について考えます。

ビアの法則の模式図

このとき、厚さ $\diff x$ のガス層を通過する間に減少する輻射強度 $\diff I_{\lambda}(x)$ は、比例係数 $\kappa_{\lambda}$ を用いて次のように記述できることが知られています。

\begin{split}
\diff I_{\lambda}(x) = I_{\lambda}(x+\diff x)-I_{\lambda}(x)=-\kappa_{\lambda}I_{\lambda}(x)\diff x
\end{split}

この比例係数を単色吸収係数と呼びます。

上式を整理して微分方程式の形にすると、

\begin{split}
\ff{\diff I_{\lambda}(x)}{I_{\lambda}(x)}=-\kappa_{\lambda}\diff x= I_{\lambda}(x+\diff x)-I_{\lambda}(x)
\end{split}

とでき、これを $0$ から $x$ まで積分すると、厚さ $x$ のガス層を通過した後の輻射強度を次のように求められます。

\begin{split}
\ff{I_{\lambda}(x)}{I_{\lambda}(0)}=e^{-\kappa_{\lambda}\,x}
\end{split}

このように、ガス層に入射した輻射の強度は、ガス層の厚さと共に指数関数的に減少する性質があります。このような法則性があるため、これをビアの法則と呼びます。

ビアの法則から分かるように、ガス層の厚みと輻射強度には密接な関係があることが分かります。

そこで、厚さ $L$ のガス層の吸収率 $\A_{\lambda(L)}$ を次のように定義することにします。

ガス層の吸収率の定義

\begin{split}
\A_{\lambda(L)} = \ff{I_{\lambda}(0)-I_{\lambda}(L)}{I_{\lambda}(0)}=1-e^{-\kappa_{\lambda}\,L} \\
\,
\end{split}

この定義式より、$L\to \infty$ にて $\A_{\lambda}$ は $1$ となり、黒体となることが分かります。なお、吸収波長以外の波長が入射した場合には $L\to \infty$ としても吸収率は $0$ となります。

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ガス輻射の放射率

次にガス輻射における吸収率について考えます。

まず、厚さ $\D x$ のガス層から放射される波長 $\lambda$ についての輻射強度 $\D I_{\lambda}$ は、先程の議論を適用して、

\begin{split}
\D I_{\lambda} = \kappa_{\lambda}I_{b\lambda}(T)\D x
\end{split}

とできます。ただし、$I_{b\lambda}(T)$ を絶対温度 $T$ での黒体輻射強度とします。また、放射係数として、単色吸収係数 $\kappa_{\lambda}$ が用いられているのは、キルヒホッフの法則が適用されているためです。

さて、このガス層が表面から $x$ 離れた位置にあるとすると、ビアの法則に従って、表面に到達する頃には輻射強度が減衰し、$\D I_{\lambda}\,e^{-\kappa_{\lambda}x}$ となります。

ガス輻射と放射強度の模式図

これより、厚みが $L$ のガス層全体からの放射は積分を用いて次のようにできます。

\begin{split}
I_{\lambda}(T) &= \int_{0}^L \D I_{\lambda}\,e^{-\kappa_{\lambda}x} \EE
&=\int_{0}^L \kappa_{\lambda}I_{b\lambda}(T)\,e^{-\kappa_{\lambda}x}\diff x \EE
&= I_{b\lambda}(T)\Big(1-e^{-\kappa_{\lambda}L}\Big)
\end{split}

ガス輻射の放射強度

$I_{b\lambda}(T)$ を絶対温度 $T$ での黒体輻射強度、$\kappa_{\lambda}$ を単色放射率とする。

このとき、厚さ $L$ のガスから受ける、ある波長からの輻射強度 $I_{\lambda}(T)$ を次のように表せる。

\begin{split}
I_{\lambda}(T) &= I_{b\lambda}(T)\Big(1-e^{-\kappa_{\lambda}L}\Big) \\
\,
\end{split}

さらに、放射率は黒体の輻射強度の比であるため、

\begin{split}
\eps_{\lambda(L)} = \ff{I_{\lambda}(T)}{I_{b\lambda}(T)}=1-e^{-\kappa_{\lambda}L}
\end{split}

とできます。これより、放射率が吸収率の式と一致することを確認できます。

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