キルヒホッフの法則とは?|光と物体の相互作用法則

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輻射伝熱を考えるとき、ステファン=ボルツマンの法則から計算される放射熱に加えて、対面の物体から受け取る輻射も考慮する必要があります。

さて、物体が吸収する輻射は物体自身の吸収率から求められるのですが、簡単には吸収率を測定できないという問題があります。

このように、物体の吸収率を知りたいとき、以下に紹介するキルヒホッフの法則が活躍します。

キルヒホッフの法則

実在面が熱平衡状態にあるとき、放射率 $\eps$ と吸収率 $\A$ は一致する。すなわち、

\begin{split}
\eps=\A
\end{split}

となる。これをキルヒホッフの法則と呼ぶ。

今回はキルヒホッフの法則について解説し、キルヒホッフの法則を利用した輻射伝熱の例題について解説します。

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反射率・吸収率・透過率とは?

さて、輻射伝熱において、熱エネルギーは電磁波(輻射)により輸送されます。このとき、物体に入射した電磁波は、一部は反射され、またある一部は物体に吸収され、そして残りは透過することになります。

そして、吸収された電磁波により物体の温度が上昇します。これが輻射伝熱のメカニズムになります。

輻射の反射・透過・吸収

今、入射した輻射エネルギーに対する反射・透過・吸収の割合をそれぞれ、反射率 $\rho$、吸収率 $\A$、透過率 $\tau$ と置くことにします。

すると、エネルギー保存則より、これらは以下のような関係にあることがと言えます。

\begin{split}
\rho+\A+\tau = 1
\end{split}

金属のように物体が不透明な場合、$\tau = 0$ となります。したがって、不透明な物体では反射率と吸収率のみを用いて、次のようになることが分かります。

\begin{split}
\rho+\A = 1
\end{split}

したがって、入射エネルギーに対する反射エネルギーの割合が分かれば、$\A$ が自動的に得られます。

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キルヒホッフの法則とは?

さて、輻射伝熱に関する法則としてステファン・ボルツマンの法則がありましたが、これは絶対温度 $T$ の黒体から放射される波長全域に渡った合計のエネルギー量を表しています。(黒体では $\eps=1$)

具体的には、放射される熱流束の大きさ $q$ を

\begin{split}
q(T)=\sigma T^4
\end{split}

と表せます。

ただし、特定の波長から受け取る熱流束の大きさについては分からない点に注意してください。この大きさについてはプランクの法則より導けますが、詳細な解説については別の機会に行います。

このように、特定の波長から放射されるエネルギーのことを単色放射能と呼び、$E_{\lambda}(\lambda, T)$ と表します。なお、黒体からの単色放射能を $E_{b\lambda}(\lambda, T)$ と表します。

先述のように、$E_{b\lambda}$ はプランクの法則より求められますが、現実の物体表面(=実在表面)からの輻射エネルギー $E_{\lambda}$ は、プランクの法則からは必ずしも求められません。

そこで、黒体の単色放射能 $E_{b\lambda}(\lambda, T)$ と、実在物体の単色放射能 $E_{\lambda}(\lambda, T)$ との比を単色放射率 $\eps_{\lambda}$ と定義し、次のように表すとします。

\begin{split}
\eps_{\lambda}=\ff{E_{\lambda}(\lambda, T)}{E_{b\lambda}(\lambda, T)}
\end{split}

単色放射能とは?

黒体単色放射能 $E_{b\lambda}(\lambda, T)$ と、実在物体の単色放射能 $E_{\lambda}(\lambda, T)$ として、その比を単色放射率 $\eps_{\lambda}$ と呼ぶ。

\begin{split}
\eps_{\lambda}=\ff{E_{\lambda}(\lambda, T)}{E_{b\lambda}(\lambda, T)} \\
\,
\end{split}

単色放射率が分かっていれば、$E_{b\lambda}$ より $E_{\lambda}$ の値を知ることができます。

キルヒホッフの法則

ここで、黒体内部の空間に、実在面を持つ小物体が置かれた状態における、輻射伝熱について考えます。

今、実在面が熱平衡状態にあるとすると、小物体が吸収するエネルギーと放出するエネルギーは釣り合うため、任意の波長に対して次の等式が成立すると言えます。

\begin{split}
\A E_{b\lambda}=E_{\lambda}
\end{split}

これを変形して、

\begin{split}
\A_{\lambda} =\ff{E_{\lambda}}{E_{b\lambda}}
\end{split}

とできます。これを先述の単色放射率の定義式と比較すると、

\begin{split}
\A_{\lambda} =\eps_{\lambda}
\end{split}

となることが分かります。このように放射率と吸収率が一致することから、これを単色のキルヒホッフの法則と呼びます。また、全波長の単色吸収率についても同様の議論が成立するため、キルヒホッフの法則とも呼びます。

キルヒホッフの法則

実在面が熱平衡状態にあるとき、放射率 $\eps$ と吸収率 $\A$ は一致する。すなわち、

\begin{split}
\eps=\A
\end{split}

となる。これをキルヒホッフの法則と呼ぶ。

キルヒホッフの法則より、放射率と吸収率は同じ値を取ることが分かります。したがって、放射率が大きいと吸収率は高く、逆に、放射率が小さいときは反射率が大きくなる関係にあることが分かります。

放射率は表面の状態により決まり、鏡面に近いほど放射率は小さくなり、逆に、荒い表面では放射率は大きくなります。

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キルヒホッフの法則と輻射伝熱の例題

早速、キルヒホッフの法則を用いて輻射伝熱の問題を実際に解いて行きましょう。例として、液体窒素の保管容器を出入りする熱について考えます。

さて、液体窒素の容器は二重構造をしており、その内部は熱伝導と熱伝達による伝熱を防止する目的で真空にされています。さらに、壁の内壁に金属メッキを施し鏡面とし、輻射伝熱も極力減らすような工夫をしています。

実際の液体窒素の容器はスーパーインシュレーションにより支持されるなど、複雑な構造をしていますが、今回は簡単のため、内壁と外壁の間は真空空間のみであるとします。

以上の仮定より、容器の模式図を描くと下図のようになります。

輻射熱伝達の模式図

$T_{LN}$ を液体窒素の温度、$T_{RT}$ を室温、$\eps$ を内壁と外壁の放射率とします。また、$q_1$ を内壁を通過する熱流束、$q_2$ を外壁を通過する熱流束とします。

まず、$q_1$ についてですが、$q_1$ が二つの要素から構成されることに注意を払う必要があります。すなわち、ステファン=ボルツマンの法則に従って輻射される熱流束、そして、$q_2$ による輻射を反射した分の合計になるということです。

これに注意すると、$q_1$ を次のように書くことができます。ただし、$\sigma$ をステファン・ボルツマン定数とします。

\begin{split}
q_1=\eps \sigma T_{LN}^4+(1-\eps) q_2
\end{split}

同様にして、$q_2$ を次のように記述できます。

\begin{split}
q_2=\eps \sigma T_{RT}^4+(1-\eps) q_1
\end{split}

$2$式を連立して $q_1,q_2$ について解くと、

$$
\left\{
\begin{split}
\,&q_1=\ff{\eps\sigma\Big\{T_{LN}^4+(1-\eps)T_{RT}^4 \Big\}}{1-(1-\eps)^2} \\[8pt]
\,&q_2=\ff{\eps\sigma\Big\{T_{RT}^4+(1-\eps)T_{LN}^4 \Big\}}{1-(1-\eps)^2}
\end{split}
\right.
$$

となります。外壁から内壁に伝わる正味の熱流束 $q$ は $q=q_2-q_1$ とできるので、

\begin{split}
q=\ff{\eps^2\sigma\Big(T_{RT}^4-T_{LN}^4 \Big)}{1-(1-\eps)^2}
\end{split}

と求められます。

今、$T_{LN}=77\,\RM{K}, T_{RN}=300\,\RM{K},\,\sigma= 5.67\times 10^{-8}\, \RM{W/(m^2\,K^4)},$ そして、$\eps = 0.05$ と仮定すると、$q$ は

\begin{split}
q\NEQ 12\,\RM{W/m^2}
\end{split}

となります。$\RM{LED}$ 照明からの輻射熱が $10\, \RM{W}$ 程度であることと比較すると、非常に小さな伝熱量であることが分かります。

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単色吸収率・全吸収率とは?

ここまでは、単色吸収率について説明しましたが、通常は全波長についての吸収率、全吸収率のことを吸収率と呼びます。

この節では、全吸収率について解説します。

黒体と実在面からの放射

さて、黒体からの輻射では、輻射強度が全方向で均一という特徴があります。

黒体からの放射の模式図

一方、実在面からの放射は複雑であり、波長や放射角に応じて輻射強度が複雑に変化します。

実在面からの放射の模式図

したがって、実在面の厳密な輻射強度の分布を求めるのは困難であるため、実用上は平均化した値を用いることとなります。

このように、ある波長 $\lambda$ に対しての放射率を単色放射率 $\eps_{\lambda}$ と呼ぶのに対して、全波長域($\lambda=0\sim\infty$)に渡って平均化された放射率を全放射率 $\eps$ と呼び、積分を用いて、全放射率を次のように定義します。

\begin{split}
\eps(T)=\ff{\DL{\int_0^{\infty}\eps_{\lambda}(T)E_{b\lambda}(T)\diff \lambda }}{\sigma T^4}
\end{split}

ただし、$E_{b\lambda}(T)$ を温度 $T$ における黒体の単色放射能、$\sigma$ をステファン=ボルツマン定数とします。

この計算による、平均化の様子を図示すると次のようになります。

黒体面・実在面と灰色面での放射率の模式図

放射率を平均化しておくと計算の上で便利です。なお、全放射率も温度に依存している点に注意して下さい。

また、上式ような全放射率の計算が行えるのは、実在面の放射率が波長に対して近似的に一定とできる場合に限られます。このように放射率が波長に依存しない物体のことを灰色体と呼びます。

単色吸収率と全吸収率

単色放射率と全放射率の関係のように、ある波長の入射エネルギーに対する吸収エネルギーの比を単色吸収率、そして単色吸収率を全波長に渡って平均化したものを全吸収率と呼びます。

全吸収率も全放射率と同様、次のように定義されます。

\begin{split}
\A(T)=\ff{\DL{\int_0^{\infty}\A_{\lambda}(T)E_{b\lambda}(T)\diff \lambda }}{\sigma T^4}
\end{split}

なお、全放射率と全吸収率も一致することも、キルヒホッフの法則の別表現となります。

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