カルノーサイクルとは?|最大効率の熱機関とその熱効率の導出

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熱機関には、様々なサイクルが存在しており、発見者の名前が冠されています。このように数あるサイクルの中でも、最も有名なサイクルの一つがカルノーサイクルです。

カルノーサイクル

$2$ つの等温過程と $2$ つの断熱過程を組み合わせたサイクルをカルノーサイクルと呼ぶ

今回は、最大の熱効率を持つことで知られる、カルノーサイクルとその熱効率の導出過程について解説します。(→カルノーサイクルの熱効率が最大になることの証明

カルノーサイクルの熱効率

低温側と高温側の温度をそれぞれ $T_L,T_H$ とする。

このとき、カルノーサイクルの熱効率 $\eta$ は次のように表される。

\begin{split}
\eta&=1-\ff{T_L}{T_H} \\
\,
\end{split}

カルノーサイクルの話を始める前に、永久機関の話から始めることにします。

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第一種永久機関とは?

さて、外部からのエネルギーの補給無しに仕事をし続ける夢のような装置のこと、第一種永久機関と呼びます。

第一種永久機関

外部からのエネルギーの補給無しに、外部に仕事を取り出せる機関のことを第一種永久機関と呼ぶ

第一種永久機関を発明できれば余裕でノーベル賞が獲れてしまいます。果たして、第一種永久機関は実現可能なのでしょうか?

これについては、熱力学の基本法則である、熱力学第一法則が教えてくれます。

熱力学第一法則は、エネルギーの収支に関する法則であり、内部エネルギーの増減 $\D U$ が、系に流入(流出)した熱量 $Q$ と、外部にした仕事 $W$ を用いて次のように記述できました。

\begin{split}
\D U=Q-W
\end{split}

第一種永久機関は定義より $Q=0$ かつ $W>0$ であるため、

\begin{split}
\D U=-W<0
\end{split}

となり、これより第一種永久機関が動作する限り、内部エネルギーが減少していくことが分かります。

ところで、気体分子運動論での議論から類推できるように、内部エネルギーの正体は分子の運動エネルギーやポテンシャルエネルギーです。したがって、内部エネルギーは有限の大きさとなります。

もし、第一種永久機関が存在するならば、第一種永久機関が動作する限り内部エネルギーは際限なく減少していくことになります。

しかしながら、内部エネルギーが有限であることからどこかの時点で、エネルギーを使い果たして、第一種永久機関は停止してしまいます。

これは第一種永久機関の性質と矛盾するため、第一種永久機関は実現不可能であることが分かります。

第二種永久機関とは?

熱力学第一法則に違反するため、残念ながら第一種永久機関は作れそうにありません。では、熱力学第一法則に違反しない形にすればどうでしょうか?

つまり、一サイクルの間に、一つの熱源から熱を受け取りこれと等量の仕事を外部に行う熱機関であれば、熱力学第一法則に違反せずに最大の仕事を取り出せそうです。

このような熱機関のことを、第一種永久機関と区別して第二種永久機関と呼びます。

第二種永久機関

一サイクルの間に一つの熱源から熱を受け取り、これと等量の仕事を外部に行う熱機関第二種永久機関と呼ぶ

第二種永久機関は、その有用性において第一種永久機関に劣りません。もし、第二種永久機関が作れるのなら、例えば海のような巨大な熱源から事実上無限の仕事を取り出せるためです。

第二種永久機関は熱力学第一法則には違反していないため、直感的には実現可能なように感じます。

ところが、この直観に反して、第二種永久機関を実現しようと様々な努力が行われていますが、今に至るまで$200$年間、ついぞ実現には至っていません。

このことから、第二種永久機関が実現できないのは、技術的な問題では無く、原理的な問題であると考えられるようになりました。

この隠された原理については、熱力学第二法則とも関わってくるため別の機会に詳しい話を行います。

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カルノーサイクルとは?

ところで、一サイクルの間に受け取った熱量 $Q_{in}$ と外部にした仕事 $W$ の比を熱効率と呼び、熱機関の効率を表す指標となります。

熱効率は $\eta$ (イータ)として次のように表されます。

\begin{split}
\eta=\ff{W}{Q_{in}}
\end{split}

熱効率とは?

一サイクルの間に受け取った熱量 $Q_{in}$ と外部にした仕事 $W$ の比を熱効率 $\eta$ と呼び次のように表される。

\begin{split}
\eta=\ff{W}{Q_{in}}\\
\,
\end{split}

さて、第二種永久機関での熱効率はその定義より、$\eta=1$ となります。しかしながら、第二種永久機関は実現できないため、人類が作り出せる熱機関の効率は常に $\eta<1$ となることが言えます。

そこで、発想を変えて人類が到達しうる最大の熱効率がどの程度であるのかを見出すことにしましょう。

現時点では熱効率の最大値の見当が付かないので、今まで見て来た過程を組み合わせて最大になりそうなサイクルを予想してみます。

まず、第二種永久機関に最も近くなりそうな過程として、等温過程があります。等温過程では $\D U=0$ であるため、$Q=W$ となります。(膨張過程の等温過程では $\eta=1$ となります)

ただし、一つの等温過程だけでは一サイクルの間に取り出せる正味の仕事が $0$ になるため、二つの等温過程を用意しなければなりません。

この意味は $p-V$ 線図上で視覚的に分かりやすくした方が理解しやすいでしょう。

等温過程の模式図

問題となるのは、$2\to3$ と $4\to1$ を結ぶ過程ですが、なるべく熱の出入りが無い方が熱効率が大きくなることが予想されます。

したがって、これらの経路は断熱過程で結ぶと良いでしょう。以上をまとめて熱機関のサイクルを描くと以下のようになります。

カルノーサイクル

このサイクルには、提唱者の名を冠してカルノーサイクルという名前が付けられています。

カルノーサイクル

$2$ つの等温過程と $2$ つの断熱過程を組み合わせたサイクルをカルノーサイクルと呼ぶ

素朴な直感に基づいて作ったカルノーサイクルの熱効率がいかほどになるのか、実際に計算してみましょう。

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カルノーサイクルの熱効率

カルノーサイクルの熱効率を実際に求めていきましょう。このとき等温過程のそれぞれの温度を $T_H,T_L$ と置くことにします。

カルノーサイクルの熱効率

まず、等温過程における仕事はこちらで求めたように、次のように表せます。

$$
\left\{
\begin{split}
W_{12} &= mRT_H\ln\ff{V_2}{V_1} \\[8pt]
W_{34} &= mRT_L\ln\ff{V_4}{V_3}
\end{split}
\right.
$$

系を出入りする熱量についてですが、等温過程においては $W=Q$ であるため、

$$
\left\{
\begin{split}
Q_{12} &= mRT_H\ln\ff{V_2}{V_1} \\[8pt]
Q_{34} &= mRT_L\ln\ff{V_4}{V_3}
\end{split}
\right.
$$

となります。

次に、断熱過程における仕事はこちらで求めたように、それぞれ次のように求められます。

$$
\left\{
\begin{split}
W_{23} &= \ff{mR}{\kappa-1}(T_H-T_L) \\[8pt]
W_{41} &= \ff{mR}{\kappa-1}(T_L-T_H)
\end{split}
\right.
$$

なお、仕事については断熱過程であるため $Q=0$ となります。

以上より、一サイクルの間に系がする正味の仕事 $W$ を次のように求められます。

\begin{split}
W&=W_{12}+W_{23}-W_{34}-W_{41}\\[8pt]
&= mRT_H\ln\ff{V_2}{V_1}-mRT_L\ln\ff{V_4}{V_3}
\end{split}

そして、系を出入りする熱量は次のように求められます。

\begin{split}
Q&=Q_{12}-Q_{34}\\[8pt]
&= mRT_H\ln\ff{V_2}{V_1}-mRT_L\ln\ff{V_4}{V_3}
\end{split}

したがって、一サイクルの間に外部へした仕事と外から受け取った熱量が一致することが分かります。(熱力学第一法則より当然の結果とも言えます)

ここに、断熱過程に対してポアソンの関係式を用いることで、

$$
\left\{
\begin{split}
&T_HV_2^{\kappa-1}=T_LV_3^{\kappa-1}\EE
&T_LV_4^{\kappa-1}=T_HV_1^{\kappa-1}
\end{split}
\right.
$$

\begin{split}
\therefore\,\ff{V_2}{V_1}=\ff{V_3}{V_4}
\end{split}

とできるので、$\DL{\ff{Q_{34}}{Q_{12}}}$ について次の関係式を導けます。

\begin{split}
\ff{Q_{34}}{Q_{12}} = \ff{mRT_L\ln\ff{V_4}{V_3} }{mRT_H\ln\ff{V_2}{V_1}} = \ff{T_L}{T_H}
\end{split}

以上より、カルノーサイクルの熱効率を求めることができます。

今、$Q_{in}=Q_{12}$ であり、$W=Q=Q_{12}-Q_{34}$ であることより、$\eta$ は

\begin{split}
\eta&=\ff{W}{Q_{in}} \EE
&=\ff{Q_{12}-Q_{34}}{Q_{12}} \EE
&=1-\ff{Q_{34}}{Q_{12}}
\end{split}

となり、したがって、

\begin{split}
\eta&=1-\ff{T_L}{T_H}
\end{split}

となります。

カルノーサイクルの熱効率

低温側と高温側の温度をそれぞれ $T_L,T_H$ とする。

このとき、カルノーサイクルの熱効率 $\eta$ は次のように表される。

\begin{split}
\eta&=1-\ff{T_L}{T_H} \\
\,
\end{split}

カルノーサイクルの熱効率が常に $1$ 未満になることに注意して下さい。例えば、表層海水($20\,{}^{\circ}\RM{C}$)と深層海水($4\,{}^{\circ}\RM{C}$)の温度差を利用した発電方法を海洋温度差発電と呼びます。仮に、カルノーサイクルにより海洋温度差発電を行うと、その熱効率は次のように計算できます。

\begin{split}
\eta&=1-\ff{277}{293} \NEQ 0.055
\end{split}

ところで、カルノーサイクルは全ての過程が準静的過程のため逆に辿ることができ、このサイクルのことを逆カルノーサイクルと呼びます。

逆カルノーサイクルは低温側から高温側に熱を運ぶことができるため、冷凍機あるいはヒートポンプとして動作します。

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