冷凍機の動作原理と熱力学|冷凍機の仕組みとジュール・トムソン効果

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普段気にしたことが無いかもしれませんが、よくよく考えると、冷蔵庫やエアコンは不思議な家電です。

冷蔵庫やエアコンはスイッチを入れると、独りでに冷えた空気を吹き出し、みるみる空間が冷えていきます。どのようにして、冷えた空気を作り出しているのでしょうか?

今回は、これら不思議な家電の背景にある、物理学に基づいた動作原理について解説します。

まずは冷蔵庫の構造について見ていきます。

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冷蔵庫の構造と仕組み

冷蔵庫がどのように動作しているのかを理解するためには、その構造について理解することが重要になります。

現代の冷蔵庫はもっと複雑ですが、エッセンスだけを抜き出すと、以下のような構造となっています。

冷蔵庫の構造の模式図

冷蔵庫は主に4つの部分から構成されていて、冷蔵庫内の空気から熱を奪う蒸発器、冷媒を圧縮するコンプレッサー、断熱圧縮され加熱された冷媒を冷却する凝縮器、そして冷蔵庫の心臓部である膨張弁から成っています。

まずは、左側にある蒸発器の働きに注目します。ここでは、庫内の空気と冷媒との間で熱交換が行われています。

蒸発器の中には $-20\,{}^{\circ}\RM{C}$ 程度の冷媒が流れており、その過程で庫内からを奪います。(液体の冷媒が庫内から熱を奪う過程で蒸発するため、蒸発器と呼ばれます。)

なお、蒸発器では熱を効率的に奪うためにフィンが使われています。これらの様々な工夫により庫内は、$-18\,{}^{\circ}\RM{C}$ 程度に保たれています。

庫内の空気から熱を奪った冷媒は、次にコンプレッサーと呼ばれる、冷媒を圧縮する機械に入ります。

コンプレッサーにて、冷媒は断熱圧縮され、高温高圧($60\,{}^{\circ}\RM{C},\,0.8\,\RM{MPa}$ 程度)となります。

コンプレッサーから送り出された冷媒は次に凝縮器に入ります。凝縮器では、高温の冷媒が外気により冷却され、$40\,{}^{\circ}\RM{C}$ 程度になります。放熱方法も重要であり、その際には伝熱工学の知識が活用されます。

凝縮器に入った冷媒は最終的に液化し、いよいよ冷蔵庫の心臓部である膨張弁に辿り着きます。

ジュール・トムソン効果と冷蔵庫

凝縮器に入って液化した冷媒は最終的に、膨張弁と呼ばれる冷蔵庫の心臓部に辿り着きます。

膨張弁ではその名前の通り、冷媒が一気に膨張して $0.8\,\RM{MPa}$ 程度であった圧力が $0.04\,\RM{MPa}$ 程度まで下がります。

このとき、冷媒には、冷蔵庫の動作の鍵を握るジュール・トムソン効果が作用します。ジュール・トムソン効果により、冷媒には急激な温度変化が生じ、最終的に $-20\,{}^{\circ}\RM{C}$ 程度となります。

膨張弁を抜けた冷媒は再び蒸発器に戻りサイクルが一巡します。なお、このようなサイクルは冷凍サイクルと呼ばれます。

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冷蔵庫と冷媒

前述の説明から分かるように、冷蔵庫の動作の根幹を支えるのが冷媒です。冷凍サイクルで必要とされる冷媒の性質を書き出すと、

 ・$0.04\,\RM{MPa}$(=$0.4$ 気圧)前後での沸点が $-20\,{}^{\circ}\RM{C}$ 程度であること。

 ・コンプレッサーに圧縮され、高圧($0.8\,\RM{MPa}$)となっても液化しないこと。

 ・$0.8\,\RM{MPa}$ 前後での沸点が $40\,{}^{\circ}\RM{C}$ 程度であること。

 ・膨張弁での等エンタルピー変化にてジュール・トムソン係数が正であること。

このリストから分かるように、冷媒には複数の条件をクリアすることが求められます。しかしながら、これらの条件は冷媒が最低限満たさなければならない性質です。

実用上の観点からは、前述の性質に加えて以下の性質も持つことが望ましいと言えます。

 ・人体に無害であること。

 ・爆発性の無いこと。

 ・冷凍サイクルの温度範囲で熱的・化学的に安定であること。

 ・低コストであり、入手しやすいこと。

 ・無色・無臭であること。

 ・コンプレッサーに使用されている機械油となじみが良いこと。

フロンはなぜ冷媒として使われていた?

前述のような、人間側にとって都合が良い様々な条件を満たす”夢のような”冷媒など、冷凍機が開発された初期にはもちろん存在していませんでした。

そのため、冷凍機が実用化された当初はアンモニアやプロパンなど、危険なガスが採用されていました。

時代が下るにつれ、冷蔵庫やエアコンが一般に普及していくと、当然、安全性の高い冷媒が求められるようになりました。

このような状況の中で、$1928$ 年に フロン($\RM{R12}$)という冷媒が $\RM{GM}$ 社により開発されました。この冷媒こそ、前述のリストに挙げた要求を満たす”夢のような物質”だったのです。

フロンはその優れた性質と、人体に無害であることから間もなく爆発的に普及し、大量に使われるようになりました。

しかしながら、欠点など無いように思われたフロンには落とし穴があり、地上にて安定で分解されないという長所が上空では災いして、上空で紫外線により分解されたフロンがオゾン層を破壊するという問題を引き起こしてしましました。

このような問題が判明したため、現在ではフロンの製造は禁止されており、オゾン層に及ぼす影響がより小さい冷媒に置き換えられています。

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冷蔵庫とインバーター

今回紹介した冷蔵庫の構造は最も単純なものであり、現代の冷蔵庫はより洗練された機構が取り入れられています。

$150$ 年近い冷蔵庫の歴史の中では様々な進歩がありましたが、その中でも省エネ化の進歩について簡単に紹介します。

さて、冷蔵庫にて最もエネルギーを消費するのはコンプレッサーです。動作上はコンプレッサーを常に稼働させておいても良いのですが、これでは電気料金がもったいないですし、うるさいという問題があります。

そこで、設定温度よりも冷えたらコンプレッサーを止め、庫内の温度が設定温度よりも高くなったらコンプレッサーを再び動かすような制御が採用されるようになりました。

確かに、稼働時間が減るため消費電力は減るのですが、コンプレッサーは始動時に大きな電力を要するために、期待するほどの省エネ効果が得られないという問題がありました。

そこで、$\RM{ON, OFF}$ のような $2$ 種類の単純な制御ではなく、庫内温度に合わせてコンプレッサーの回転速度をきめ細やかに制御することが指向されるようになりました。

しかし、機械的にこのような細かな制御を制御するのは困難でした。そこで、電気回路による制御が行われるようになりました。

この制御用の電気回路にて、インバータと呼ばれる電子部品が活躍しています。そもそも、インバータはコンセントから送られてきた交流電流を、任意の周波数や電圧に変換する素子でしたが、その性質がコンプレッサーの制御に応用されるようになりました。

インバータを使うことで、待機状態のときは運転速度を落としたり、庫内の温度に応じてコンプレッサーの運転速度を最適に調整することが可能になりました。このような制御を取り入れることで、最初の単純な制御よりも、トータルの消費電力の削減できるようになりました。

なお、インバータの性能は消費電力に直結しており、インバータの進歩と共に年々消費電力は減っています。事実、$10$ 年前の同型機と比較してその消費電力は $50\%$ 程度となっています。

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