クラペイロン・クラウジウスの式とは?|相転移と潜熱の関係式

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水が沸騰する際や、氷が融ける際に温度は変化せず一定となります。

このような相転移の際に物質の温度が変化しないのは、与えられたが異なる相に移り変わるための内部エネルギーとして消費され、温度上昇に寄与しないためです。

与えられた熱が温度上昇として観測されないことから、この熱は潜熱($\RM{latent\,heat}$)と呼ばれます。

潜熱は基本的には実験から求めますが、理論的には以下のクラペイロン・クラウジウスの式により関係づけられます。

クラペイロン・クラウジウスの式

温度と圧力をそれぞれ $T,p$ として、物質の相転移に伴う体積変化を $\D V$、その潜熱を $L$ とする。

このとき、以下のクラペイロン・クラウジウスの式が成立する。

\begin{split}
\ff{\diff p}{\diff T}=\ff{L}{T\D V}\\
\,
\end{split}

今回はクラペイロン・クラウジウスの式の導出と、それを用いて水の蒸発潜熱を計算する方法について解説します。

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クラペイロン・クラウジウスの式とは?

クラペイロン・クラウジウスの式は物質の相転移における潜熱の関係を記述する方程式です。

具体的には次のように記述されます。

クラペイロン・クラウジウスの式

温度と圧力をそれぞれ $T,p$ として、物質の相転移に伴う体積変化を $\D V$、その潜熱を $L$ とする。

このとき、以下のクラペイロン・クラウジウスの式が成立する。

\begin{split}
\ff{\diff p}{\diff T}=\ff{L}{T\D V}\\
\,
\end{split}

クラペイロン・クラウジウスの式は以下のようにして導出できます。

まず、図のような共存曲線 $(T_1,p_1),(T_2,p_2)$ 上のギブスの自由エネルギーについて考えます。

共存曲線とギブスの自由エネルギー

共存曲線上では、両相のギブスの自由エネルギーが一致するため、以下の等式を導けます。

$$
\left\{
\begin{split}
G_A(T_1,p_1)&=G_B(T_1,p_1) \EE
G_A(T_2,p_2)&=G_B(T_2,p_2)
\end{split}
\right.
$$

$T_2=T_1+\diff T,p_2=p_1+\diff p$ として、上式を書き換えると、

$$
\left\{
\begin{split}
&U_1+p_1V_A-T_1S_A=U_1+p_1V_B-T_1S_B \EE
&U_1+(p_1+\diff p)V_A-(T_1+\diff T)S_A\EE
&\qquad=U_1+(p_1+\diff p)V_B-(T_1+\diff T)S_B \EE
\end{split}
\right.
$$

とでき、これの辺々を引いて

\begin{split}
&-V_A\diff p+S_A\diff T=-V_B\,\diff p+S_B\diff T \EE
&\qquad\therefore\, \ff{\diff p}{\diff T} =\ff{S_A-S_B}{V_A-V_B}=\ff{\D S}{\D V}
\end{split}

が得られます。

ここで、$\D V=V_A-V_B, \D S=S_A-S_B$ とします。$\D S$ は $B$ 相から $A$ 相に変化するときのエントロピーの差を表していて、仮に $L$ の熱量が必要なのであれば、

\begin{split}
\D S=\ff{L}{T}
\end{split}

という関係が成立します。したがって、

\begin{split}
\ff{\diff p}{\diff T} =\ff{L}{T\D V}
\end{split}

が得られます。以上より、クラペイロン・クラウジウスの式を導出できました。

さて、相変化においては温度変化が無いため、$L$ は潜熱に相当すると言えます。したがって、クラペイロン・クラウジウスの式は潜熱についての関係式を記述した方程式であることが分かります。

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蒸発潜熱とクラペイロン・クラウジウスの式

先述のクラペイロン・クラウジウスの式は、一般の相転移に対して成立する関係式です。

実用を重視する熱力学の立場からは、液体から気体への相転移についての蒸発潜熱の計算に便利な式が欲しくなります。

そこで、蒸発潜熱を計算し易くするため、クラペイロン・クラウジウスの式を工夫することを考えます。

さて、改めてクラペイロン・クラウジウスの式を表示すると、

\begin{split}
\ff{\diff p}{\diff T} =\ff{L}{T(V_A-V_B)}
\end{split}

となります。

今、$V_A,V_B$ はそれぞれの相での体積を表していますが、水と水蒸気の体積比が $1700$ となるように、基本的に $V_B\ll V_A$ の関係にあります。

したがって、$\D V\NEQ V_A$ と近似できます。

気体が理想気体の状態方程式に従うと仮定すると、$\DL{V_A=\ff{RT}{p}}$ の関係にあるため、

\begin{eqnarray}
&\ff{\diff p}{\diff T}& = \ff{pL}{RT^2} \EE
\therefore\, &L&= \ff{RT^2}{p}\ff{\diff p}{\diff T}\tag{1}
\end{eqnarray}

とできます。以上より、蒸発潜熱に関するクラペイロン・クラウジウスの式を求められました。

蒸発潜熱とクラペイロン・クラウジウスの式

温度と圧力をそれぞれ $T,p$ として、気体の気体定数を $R$ とする。

このとき、物質の蒸発潜熱 $L$ は次のように求められる。

\begin{split}
L= \ff{RT^2}{p}\ff{\diff p}{\diff T}\\
\,
\end{split}

なお、上式は次のように変形し、両辺を積分することで、

\begin{split}
\int\ff{\diff p}{p} &=\ff{L}{R}\int\ff{\diff T}{T^2} \EE
\therefore\, \ln p&=-\ff{L}{R}\cdot \ff{1}{T}+C
\end{split}

ともできます。

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水の蒸発潜熱の計算

式$(1)$を利用して、$100\,{}^{\circ}\RM{C}$ での蒸発潜熱を実際に求めてみます。

ここで、$90\,{}^{\circ}\RM{C}$ と$100\,{}^{\circ}\RM{C}$、$110\,{}^{\circ}\RM{C}$ での蒸気圧はそれぞれ、

$$
\left\{
\begin{split}
&p_{90\,{}^{\circ}\RM{C}} = 0.070\,\RM{MPa} \EE
&p_{100\,{}^{\circ}\RM{C}} = 0.10\,\RM{MPa} \EE
&p_{110\,{}^{\circ}\RM{C}} = 0.14\,\RM{MPa}
\end{split}
\right.
$$

さらに、水の気体定数は $R=0.46\,\RM{J/kg\cdot K}$ のため、(→気体定数と一般気体定数の関係

式$(1)$から、$100\,{}^{\circ}\RM{C}$ での蒸発潜熱 $L$ を次のように求められます。

\begin{split}
L&=\ff{0.46\times(100+273.15)^2}{0.10\times10^{6}}\times\ff{(0.14-0.070)\times10^{6}}{(273.15+110)-(273.15+90)} \EE
&\NEQ 2242\,\RM{kJ/kg}
\end{split}

ところで、$100\,{}^{\circ}\RM{C}$ での水の蒸発潜熱の実験値は $2256\,\RM{kJ/kg}$ です。

これを計算結果と比較すると、その相対誤差は約 $0.44\,\%$ となります。

クラペイロン・クラウジウスの式を用いることで、非常に高い精度で蒸発潜熱が求められることが分かります。

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